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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・中
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フラッシュバック心理ダメージ

 ……というわけで、もうお開きってことでいいんじゃないかな?

 ちらり、と両者の様子を伺い見る。


 俺もいつまでもギスギスに挟まってたくないし、角蛇達も人間側がいる限りストレスマッハ状態から切り替わることは無いだろう。それに加え、こんなところに挟まれ続けて、何故部外者である俺が胃を痛めなければならないのだろうか。普通に理不尽だと思う。

 しかし、こっちがすっかり解散ムードでいたのに対し、人間側はそんなことも無かったらしい。仲間内で円陣を組み、何かをぼそぼそと相談している。


 えー、何よ。もう解散でいいじゃん。俺、この後ちょっと蛇達と話したいことがあるんだから、早くどっか行ってくれないかなー。

 そんなことを考えていれば、向こうの会議が終了したのか、マタチが矛に変わって妙な棒を持ってこちらに向かってやって来た。なんだあれは。杖……か?


 木製の、彼の身長を超えるほどの長さのそれは、彫り込まれた複雑な模様の細部まで極彩色の塗装を施されており、非常に豪華なシロモノである。こまごまとしていて何を象っているのかはよく分らないが、はた目にもデザインめちゃくちゃかっけぇな、何だアレ。


 思わずしげしげと眺めていれば、マタチはそのかっこよさげな杖を持ってこちらへ向き合うと、自身の足元に深くそれを突き立てた。かつり、と硬質な音が響き渡り、辺りが静まり返る。

 自身の作りだした静寂の最中、彼はいきなり大声を張り上げた。


「これより上は神の土地とすることを承諾致す。そして、これより下に人の田を作るべきとする。今より後、我は神に仕える身となり末永く御身を敬い祭ろう。請い願わくは、祟ることも、恨むことも無きことを」


 言い終われば、マタチは両の掌に握りしめた杖に向け、なにやら力を送り込んだ。

 すると、杖の地に刺さったその一転より光の閃光が弾け跳ぶ。それは見る間に広がり、迸る光はすぐに視界を覆いつくしてしまった。


 とっさに角蛇達を守るため、彼らの前に長い体を盾に出て身構えたものの、光は俺の身を焼くことも無くただ風のように通り過ぎて行った。

 閃光が収まったころには上空一杯にオーロラが美しく煌めき、極光の膜が張られていた。その気配は山全体に及んでいる。とんでもない大きさだ。


 遅れて理解する。マタチは、この山全体に結界を張ったのである。

 そう理解するや否や、とある記憶が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。






 ――祟り神に成ってから、記憶ファイルが別個で用意されたみたいに記憶の底をまさぐることで、どんな些細な記憶でもはっきりと思い出すことが出来るという能力を俺は得ていた。図書館で本を探したり、パソコンのデータファイル検索にも若干似ているような気がする。

 多分、脳で記憶してるわけじゃなくて、魂とか力の中に保存している感じなんだと思う。だから記憶もずっと色あせることなく、ファイルの一環としてどこかに保存されているわけだ。


 まぁ、カガチノミコトになって十七年間の間に薄れちまった記憶に関しては、もう取り戻せないんだけどな!

 メタモルフォーゼした時点に残ってた記憶以降から保存開始してるからなぁ。その前に無くなっちゃった記憶はどうしようもない。この世界に誕生した時点での記憶が残ってればよかったんだけど……こればっかりはしょうがない。


 でも、記憶力偏差値雑魚の俺にとってはこれはとてもありがたい能力だ。なんせ、表層部分で忘れていても検索を掛ければすぐに思い出せる。一度聞いたこともしっかり蓄えられて、絶対に忘れないのだ。

 どんな細かい情報だろうが覚えていられるのはとても便利である。例に挙げるならば、祟り神に成ってから今までに食べた瘴気の味や産地を、俺は全て覚えているのだ。さっすが、ハイスペックラスボスぼでぇだぜ。


 ……いや、検索を掛ける機会も無ければ、表層心理=オリジン・俺=記憶力クソザコナメクジのままであるのですけれども。いちいち検索掛けなければ、ド底辺の鳥頭であることには変わりありませんけれど。

 ただし、一度恨んだ相手は除く。主に自称神とか自称神とか自称神とかな!

 奴のことは、永遠に魂に刻み付けていつかやり返すその日まで、未来永劫しっかりと覚えている所存である。


 ラスボス街道には絶対に入らない決意をしてるけれど、能力自体は便利なもんだから、とことん活用していっております今日この頃なのであった。




 まぁ、何が言いたいかと言えば、検索結果に愕然としたと言うことだ。


 いや……まじか、原作イベントだったんですか、コレ。だいぶ崩壊気味だけれども。

 何と言うか、その……突然すぎてちょっと理解が追い付かないと言いますか。


 そういえば原作のラスボス君の過去回の中に、ラスボス君がより人間嫌いになるイベントとして、人間に襲われる話があった。

 確か、故郷の村の一帯を大規模環境破壊した後、スサノオさんにフルボッコの刑に処されて力を失ったラスボス君は、細々とどこかで眷属の角蛇達と暮らしていたはずだった。だけどある時、その縄張りの近くにあった村の人間達に不意打ちで襲われた挙句、山に追いやられて結界の内側に封じ込められるんだったっけ……?


 え、うっわ……原作修正コワー。ここまできてやっぱりその軌道に乗せられるんだ。

 始め、原作軸にて当事者であるはずの俺はこの場にいなかった。遠い西の都にいたくらいだ。全然関係のない位置にいた。

 だってのに、ジャジャマルに呼び戻されてひょいひょいここまで来ちゃって、結局事件に巻き込まれてしまったんだ。だって自分でイベント通りに動こうとしたんじゃない、まるで何らかの力に引き寄せられたみたいに俺はここまでやって来た。来てしまったのだ。……これは歴史の修正力が働いているようにしか思えないよ!


 やだやだやだこわいこわいこわい。じゃあ俺がラスボスになるって歴史も不可避ってことなの!? もうやだこの神生マジやってらんねぇわ、自称神は処す。


 しかしそこで数十年前のスサノオ事件を思い出す。

 あの例の理不尽の塊みたいなオッサンが襲撃にやって来た事件で、原作の方はラスボス君の弱体化が起きてるけど、俺の場合はオート呪を抑え込むことこそ出来るようになったものの、別に弱体化したわけではない。つまり、俺の方はフラグ回避に成功しているというわけなのである。


 ハイ、セ―――フ!! セーフです!! この結果から考えるに、頑張ればフラグ回避は成功できるらしいってことだ。はっはダイジョブダイジョブ、俺はラスボスにはなりません!! 降りかかるフラグをすべてへし折れば問題ございやせん!!

 倫理観と道徳心を大切にモラル着用で生きて行けば、全然回避できる内容だ。日ごろの行いをよくしていれば絶対に大丈夫なんだ! やったね、ガンバロ!!




 考えついてしまった最悪の未来を無理やり捻じ曲げ自己完結したが、心臓は耳元で爆音で鼓動を刻んでいた。もしも今が身内だけだったならば、行き場のない内なるエネルギーを今この場で解放して全力シャウトしていたと思う。大声を出すだけでも意外とスッキリするもんだ。


 しかし現実は無常であり、只今はプライベートではなく絶賛お仕事中なのである。

 辛うじて体裁だけでも整えているだけ誰か褒めて欲しい。


 とにかく平常心を取り戻そうと、この動悸のきっかけとなってくださったマタチの術の分析をしてやることにした。力の動き方を額の3つ目の目で”視る”ことで、発動された術がどんな効果を持つのかくらいは分かるのだ。


 じっとみつめて分かったことには、どうやら結界の膜の外から内へ訪れようとする者へ認識阻害を行うという内容らしい。

 おそらく、角蛇達を山から出られないように封ずるものではなく、人間たちが間違って立ち入らないようにと張られたものなのだろう。


 ふうん。小さいとはいえ、山一つ覆う規模の結界を張るなんて、マタチ、アンタ普通にすごいじゃないの。この規模の術を使える者は、人間にも妖怪にもそうそういないのである。

 しかも効果も小粋なことをしてくれる。ご機嫌取りのためにやったのかもしれないけれど、この点に関しては素直に尊敬するよ。


 まぁ、もしもこの結界が封印術式だったら、一発でっかい呪いでもブチかましてやってたがな。

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