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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・前
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守り神様のお悩み相談室

いやん、また遅刻してしまった!


活動報告にも書いたのですが、1話から3話くらいまでお話を手直ししてみました。話の流れ的には全然変わっていないのですが、詳しい描写などを足してみたところ、第一話が1000文字ボリュームアップ、2,3話も数百字ほどグレードアップいたしました。良かったら読んでみてくださいね。

(2021/10/25 ……にしたかったが26日になってしまった)

 俺が異世界に飛ばされたその理由がなんとなく察せられて、自称神のヤローにより一層怨恨募らせる今日この頃。いくら心身滅却を図ろうが、ぽこぽこと湧き出る苛立ちはどうしようもない。

 既に体の側面を流れる触手は真っ赤に染まって非常事態宣言を発令しているし、湧き出す瘴気は生み出されたその瞬間に回収しているのにもかかわらず、排出スピードに回収が追い付かないで、若干大気に漏れ出している始末。あ、なんかこういうシチュエーションっての数学の問題に出そう。ヤトノカミから気体Xが一分間にxL排出されると同時にyL回収されています。十分後に気体Xは何L放出されましたか、なんつって。


 誰だよ、怒りは六秒間数えたら収まるとか言ったやつ。六秒の間に怒りも六乗されて現在も増幅中だぞ。改めてあのヤローのクズさ加減を時間差で思い知って俺ってば動機がドッキドキだよ!

 ああでも今も腰を下ろしている社は流石というか、守り神様の神力に覆われて腐ることはない。瘴気が触った瞬間レジストされて、浄化されていっているのだ。




 如何にしてあのクソ神を祟ってやろうかと、必死で溢るる瘴気を回収しながら模索していれば、隣で守り神様がため息をついた気配がした。


『何に怒りを覚えているのかは知らぬがの。先より思うておうたのじゃが、お主、その妙な言葉遣いは何なのだ』


『え? 何ってなに……ですか?』


  唐突な話題の転換に思考の切り替えがうまくいかずに聞き返せば、守り神様はきろりと視線をこちらにやると、再び盛大なため息をついた。


『それじゃよ、その無理やりとってつけたかのような気持ちの悪い語尾。大方、最後に”です”をつければ丁寧語になるでも思うておるのじゃろうが、実に安直にして愚考の極みじゃの。全く内心の不遜の態度が隠しきれておらぬわ。相変わらずの頭のようじゃの』


 苛立ちに発光する赤触手もものともせずにヒサメの毒舌が爆発した。みぇえ、辛辣ぅ……

 でもそのおかげでちょっと冷静になり、触手の色も通常色の黄緑に戻っていった。冷静になった分、瘴気の放出も止まり、若干回収の追い付いていなかった空気中に舞散っていた残りかすも残さず全てしまい終える。


 いや、守り神様って外見が幼女なもんだからどうしてもぽろっとフランクに話しかけちゃうんだよなぁ。言ってしまった後になって気づいて、後から”です”を無理やりつけてたんだけど……それじゃやっぱだめだよなぁ。


『えぇっと、ごめんなさい。やっぱり不敬でしたよね。直そうとはしてみたのですけど……』


 そう謝れば、守り神様はそっぽを向いて鼻を鳴らした。


『ふん、他の者に接するようにすればよかろ。どうせお主の不敬は今に始まったことではない。今更取って繕うこともないじゃろうて』


『あ、いいんだ、そこ』


『……むしろ、神としての格はお主の方が高くなってしもうたからの』


 意外なOKサインに驚いていると、唐突に守り神様がこちらに向き直り姿勢を正した。いきなり向けられたその真剣な表情に戸惑っていれば、守り神様は腰から下に生えるしなやかな太い蛇の尾で俺を捕まえると、腕も巻き込み二重三重にも拘束して自分の傍へ引き寄せた。

 何が起こったか把握できないでいるうちに、守り神様の小さな白い手が俺の頬を存外優しい手つきで包み込む。そうしてその美しい丸く大きな金の目で俺の瞳の中を下から覗き込むと、妖艶に小首をかしげて薄く微笑みを浮かべたのである。


『―――どうでごじゃろうか、ヤトノカミよ。妾を侍らせなさりたいか?』


 ちろりと牙の生えた口元から覗いた二股に分かれた赤い舌が、妙に艶かしい。




 腰をくねらせ上目遣いにこちらを見やる守り神様という、目の前で発生したあまりにショッキングな出来事に思わず思考が停止した。

 一体どれくらい静止していたのかは分からないけれど、脳みそがフリーズから立ち直るやいなや、速攻その場で泣き叫んだ。


『……え、まってまってヤメテ俺そういうの間に合ってますのでアニウエの世話だけで十分なので勘弁してくださいそれにヒサメ様に敬われるとか違和感でしかないからいつも通りにしてて下さいお願いしますあと、た、食べないで! 俺美味しくない! お、おね、お願いだよぉ!』


 守り神様にそんなハレンチなことされても全然嬉しくない! むしろなんてホラゲ!? PTA協会の刺客に消されるから止めてくださいまし! YES! ロリショタ NO! タッチなんですぅ!! 最早逆ハラスメントですからお引き取り下さい??


 自身の尾に拘束されながら芋虫のように蠢き許しを請う俺を眺めて、守り神様は愉快そうに喉を鳴らして笑った。


『ククク、安心せい。お主はからかいがいがあって、ほんにをかしき(・・・・)ことじゃのう。愛い奴め』


 ヴァーン、守り神様のドS! 怖いぃ! これだからご長寿様方を相手にするとろくなことがないんだ。掌で転がされまくった上、弄ばれた心は深刻なダメージを受けました! 大体、守り神様は”侍る”という言葉の意味を今一度覚え直してほしい。こんなの侍るって言わない! 捕食三秒前っていうんです!!


 マジ泣き三秒前にて目に涙をフル充填した俺を哀れに思ったか、守り神は片腕を俺の頭にやるとぽんぽんと優しく撫で始めた。

 幼女(御年ウン百歳)によしよしされるとか犯罪臭が濃くなってくるからご勘弁願いたい所なんだけどなぁ! あ、まってまってごめんなさいPTA協会は待ってくださいすみません俺じゃないんです冤罪なんですぅ~!




 そのまましばらく俺を言葉攻めで弄んでは、にやにやと満面の笑みを浮かべて愉しんでいた守り神様であったが、笑みの顔そのままにぽつりと言った。


『ヒマならば、世を見て回るというのはどうじゃろか』


『へぁ?』


 それは少し前のヒマ発言に対する回答であった。今更返事をもらえるとは思わなかったもんだから、面食らって妙な声を出してしまった。

 変顔を晒した俺のことは気にも留めず、守り神様は俺の触手をちゃっかりと弄りながら続ける。


『お主は幼き頃より一つの個所に留まるということはなかったし、それはお主の気質に似合わないじゃろうて。わしは土地神でもあるからこの地を離れられぬし、そも離れたいとも思わぬがお主は違うじゃろう。自力で瘴気を抑え込む術を持っているのならば、もう周りに危害も加えることはなし。変化の術で人の子にでも化けて、この下界の世を巡って来ればよかろう』


 守り神様の提案はとても素晴らしいことのように思えた。

 だけれど、俺はその選択肢を選ぶわけにはいかないんだ。


『……ヒサメ様もさっき見たでしょ。俺、全然瘴気抑えきれてなかった。たまにそうなるんだ。どうしても回収しきれなくなって漏れちゃうんだ、プスッてさ。……こんな存在がテロみたいなやつが人里をうろつくわけにはいかないよ』


 そんな俺の言葉を、守り神様は一笑に付した。


『はっ、そんな薄い霞ごとき誰も影響など受けぬわ。それに万が一瘴気によって相手に影響を与えようが、その不調もお主ならば拭い去れるのじゃろう。問題はあるまい』


『でも人に迷惑かけることには変わんないじゃん。俺やだよ、誰かが俺のせいで体調悪くなっちゃうとかさ』


 反論すれば、何故だか守り神様は何か残念なものを見るような目で俺のことを見やった。


『……お主、この村にて皇子をやっていた時のことを今一度思い返してみよ。お主が他様に迷惑を掛けなかったときなど、一度たりともあったか? 答えて見よ、ほれ』


『……ノーコメントで』


 ぐうの音も出ねぇ。明後日の方向を向けば、守り神様は深ーいため息をついた。


『安心せい、お主は瘴気があろうがなかろうが必ず人に迷惑をかける。

 それに人の子はお主が思うより柔では無い。全く……元人の子であるお主に、妾がこれを諭すとはおかしな話よのう。』


 呆れたようにこちらを見やる守り神様に、何だかいたたまれない気持ちになった。


 でも、そこまで言われれば下界巡りにもちょこっとだけ興味が湧いてきたかもしれない。日本全国徒歩巡りってことか。

 俺みたいなのが人里に下りても本当に大丈夫なんだろうかという気持ちは、未だぬぐい切れないのだけれど。ああ、でもなんだか楽しそうだ。

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