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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・前
42/116

物語には説明回がつきもの

今回は説明回でございます。用語解説的な回としてご覧ください。

 さて、”霊力”、”妖力”、”神力”という三つの力があるわけだが、ここで厄介になってくるのは複数の気を持ったものの存在である。


 例えば化け狐。彼らは妖怪であるから妖力を持っているのだけれど、もともとは普通の獣だったもんだから、霊力もまた同時に持ち合わせているのだ。後天的に妖力を得た場合でも、もともとの力は失われないというわけだ。

 だから兄上はパターン的にはこれが当てはまるはずだったんだけれど、何故だか妖力100%のピュア妖怪に変貌してしまっているから不思議な話である。完全に特殊な事例だアレは。マジで何があったんだろ、兄上。


 それはさておき、三つの力のその究極ハイブリット形こそが俺なのです。

 俺はかつてカガチノミコトという人であり、モノノ森の主であった黒蛇の妖怪(の力だけぶんどったもの)であり、今はヤトノカミという祟り神でもある。つまり三つの力を合わせ持っているということになるのだ。さっすがラスボスぼでぇ、高性能だね!!


 しかし、「力の種類が多いから強い」だとかそんな単純なことは決してないのである。


 例えば、スサノオは純度100%の神様であるから、力の種類としては神力しか持ち合わせていないのだけど、強さのほどはお察しの通りである。あのヒトほどチートの名を関するのにふさわしい者はいないと俺は思っている。規格外すぎるわ。比べるのもおこがましい。




 三つの力の違いで出来ることも変わってくるのだが、それぞれの力ごとに適した環境というものが存在する。天上界、下界、黄泉の国の内、何がどこに適しているかと言えば、上から神力持ち、生命エネルギー持ち、陰属性系統である。


 生命エネルギーたる霊力と妖力は肉体という器なくしては保有し続けられないパワーなので、下界は自ずと肉体を持った者の住処ということになる。

 魂の入れ物としての器が肉体であり、その肉体を動かす動力が生命エネルギーなのだ。肉体を剥いてしまった魂の状態では、人も妖怪も変わりはない。


 因みに魂には三種の力のどれも付随しておらず、むき出しの状態ではどの世界にも適さない。保護する者の何もない魂はゆっくりと世界に融け込んで行き、いつかは皆消えて行くこととなる。ただ、天上界と黄泉の国では蒸発スピードもゆっくりなので、それなりに長い期間過ごすことが出来るのだが。

 そしてすっかり世界に融けきった魂は、また真っ新な魂として下界に生まれ直して、生死を巡る輪廻サイクルを永遠と繰り返していくんだ。


 そんでもって神力純度100%の神様は実体を持たず、ただ力の塊として存在しているらしい。正確に言えば違うものなのだが、むき出し魂と似たようなものなんだとか。

 だから黄泉の国は肉体を持たない死者のたますぃーと、妖力を持つ妖怪や、陰属性の神様が好む場所と言える。別に特にカッチリキッカリ区分けされた枠組みじゃないところが曖昧なところなんだよな。


 こう見ると天上界が一番狭き門って感じだな。神力持ちか、素っ裸の魂以外は長時間存在を保てないんだもの。

 ところで天上界には、神様のお供としてついてきている、神使という神通力という神力の一種を持ったものに昇格した元妖怪たちもいる。つまり、妖怪が三つの世界で一番繁栄しているともいえる。




 適正外の世界に行ってしまうと何が起こってしまうのかと言えば、存在維持の代償として力がゴリッゴリ削られるらしく、下手すれば肉体持ちは死に至ったり、神であれば存在が掻き消えることもあるらしい。


 まぁ俺はどの世界で暮らそうが、何の影響もないんだがな。はっはっは!


 因みに俺がまき散らしがちな”瘴気”は、老廃物とか産業廃棄物のようなもので、割と自然に湧き出している。自然の循環システムの滞ったところに、ぽぽっと湧くのだ。


 探せば三つの世界のどこにでも漂っているけれど、天上界のスポットは俺の神域くらいなものだ。神様たちが常に放っている神力のおかげで、ほとんど浄化されちゃってるんだ。あそこに残ってるのは、しつこい油汚れのようなものだろうか。だからこそ味の方も別格なんだけどね。濃厚!

 黄泉の国には自然の循環自体がなくて、あの世界全体が淀んでいる。瘴気湧き放題のバイキング形式だ。でも味の方は大味って感じ。量を食べたいときにはお勧めのスポットだ。


 瘴気はなにも自然の中にだけ湧くわけじゃない。たとえば人が病気になって弱った時、常には体中をめぐっている霊力が滞って淀みが生まれる。この淀みが瘴気に転じて、それをため込めば体にとって有害なものとなる。


 これは妖怪にも神様にも起こりうることであり、俺の天上界でのお掃除稼業は、お疲れ気味の神様にため込まれた瘴気を吸い取ることで元気になってもらおうというサービスも含まれていた。肩たたきとかマッサージみたいなもので、瘴気を吸い取られた方は気持ちがよくなるらしい。

 ヤトノカミ万掃除屋は大好評営業中である。




 そういえば、おかしなことというよりかは、知識のズレのようなものがあったのを思い出した。


 原作の流れを思い出すに、どこかの段階で現世(うつしよ)幽世(かくりよ)システムが導入されるはずなんだけれども、未だその兆しはないんだよね。


 現世・幽世システムってのは俺が勝手に呼んでるだけだけど、原作開始時には下界は陰陽の力の質で住む世界が二つに分かたれて、それぞれが現世と幽世と呼ばれるようになり、霊力持ちと妖怪との住み分けがなされていたのだ。


 天上界と黄泉の国はそのまま残るが、どっかの地点で下界が二つに引き裂かれたとき、謎の何かがアレソレした影響で、世界同士の繋がりが希薄になって、ラスボス君が封印される頃までには、鏡合わせの現世と幽世以外、それぞれの世界が互いに干渉できなくなるはずなのだ。何でそうなったのかまではさっぱり思い出せないんだけどな!


 今はバリバリ交流できるものだから、いつかこの行き来が出来なくなるのだとすれば、ちょいと不便だと思う。




 あ、あとこの世界で非常に重要な役割をもっている存在に、”名前”システムが上げられるな。

 名前ってのは”真名”として通常魂に刻まれ、よく言えばそのヒト自身を形づくり確固たる存在にする、悪く言えば縛り付ける役割を持っているんだけど、名付けの儀を行うことが出来るのは神と人、それから一部の大妖怪と呼ばれる存在だけであり、その他の存在は前述のどれかに授からぬ限り、基本的に名を持つことはないんだって。

 そんなことを教えられても、元人間目線としては、名前なんてついてて当たり前って感覚なもんだから、そんな大層なものだなんて実感はないんだけれども。


 で、そんな大事な名前ちゃんであるが、面白いことには、神力にもまた名前が刻まれるのだ。


 例えば、元から神だった=神力の塊であるスサノオには、その名が真名として存在しているが、後天的に神に成った俺のような存在は、後からフッと神様ネームが降りてくるらしい。どこからともなく。

 だから俺には真名が二つあることになるのだ。魂の名であるカガチノミコトと、それから神様ネームであるヤトノカミだ。

 黒蛇の魂がどこに行っちゃったのかは知らないけれど、その名前が自動で受け継がれたってことでいいんだろうか。


 初めてスサノオに名乗り上げた時に、ヤトノカミの名が勝手に口からブーワー出てきてびっくりした事件があったが、あれは神力に乗せて”声”を発していたから起きた現象らしい。

 因みに、神力の塊である純度100%神様達は、日ごろから話すときは自然と神力があふれ出し”声”の状態になっているらしく、逆に通常の声帯を使った声のことが理解できていない模様であった。


 どうも神力ってものは、三つの力の中でも特殊枠だと思う。元から神として生まれるものに付属していたり、強い妖怪にある日突然ぽっと生えたり、人々に奉られることでも生やすことが出来るらしい。わけがわからないよ。


 そんなんだから、テキトーになんでもありなんだと納得することにした。考えるだけ損な不思議パワーである、「だって神力だから」という魔法の言葉で全ての説明がつくくらいには謎が深い。


 条件を満たすと会得できるユニークスキル、というのが一番説明として適当なんだろうか。ウーン、こればっかりは理解しようとするだけ無駄だね。不思議ちゃんパワーで行こう。もういいや、それで。

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