不思議な(推定)兄上
アルカイックスマイルで現実逃避をしていたってしょうがない。高校生探偵の頭脳なんてもちろん持ってはいなかったが、足りない脳みそを総動員させることにした。
でもホントに何なんだよ、俺にしか認識をキープし続けられない生物とも知れぬナニカってぇ……しかも見目気持ち悪い上に、おそらく兄上の成れの果てらしい。本当に何があったんだよ推定兄上ェ……
その丸いプニプニぼでぇを摘まみ上げ、変化の術を部分解除して第三の目を開眼しつつ薄目でじっくりと嘗め回すように観察してみれば、隠されるようにして魂に不思議な呪が絡みついている気配を感じた。実際に見えてるわけではないんだと思うんだけど、第六感で得た情報が視覚を通じて映像として処理されるというか、そんな感覚だ。
ともかく、どうやらこの呪のせいで推定兄上は新しく縁が結ばれなくなってしまっているようなのである。こう、呪が兄上の魂をコーティングして他の縁を滑らせてしまってるというか。アレだよ、アレ。防水スプレーをぶっかけた布製の靴みたいな!
ウーン、原因ってどう見てもコレじゃね? およよ? 俺ったら、いつのまに高校生探偵の頭脳を手に入れてしまったのかしらん。
因みに「縁が何たるか」については、天上界や黄泉の国にて色々見ていくうちになんとなく理解した。
生き物はだれしも生命エネルギー的な力を持ってるんだけど、縁の正体ってのは、その力を原料とした納豆のネバネバみたいなか細い糸みたいなもんだ。普通であればヒトとヒトとが対面すれば、縁は多少なりともその間にネバーッと自動でつながるのだが、それから二度と会わなけりゃ絡みついたその糸は自然に切れてしまうし、逆に何度も会えばだんだん強く太くなってゆく。
家族関係や仲のいい友達関係など特別な関係の場合はこの縁の糸が他と違って極太で、通常体を満たしている力につながっているはずの縁が、そこを貫いて魂にドッキングしていることもある。
縁は育成ゲーム。コレ豆な?
だけれど、この場にいる俺以外の人々は推定兄上と触れあっても一向に縁が結ばれる気配がないのだ。家族にオババに守り神様だぞ。魂ドッキング極太タイプが繋がっていたっておかしくないのに、見事にツルッツルである。
でももっと妙なのが、何故か俺だけには繋がっているということなのである。しかも極太タイプのやつが。ナンデ?
もっともっとじっくりと、よーくよーく観察してみよう。
……相変わらず気持ち悪い見た目してるなぁ……、でも一周回って可愛く見えてきたかもしれない……? いや、そんなことはないな。やっぱり気持ち悪いぞ。
ん……? ちょっとまてよ、この呪の原料の質……俺のじゃね?
【悲報】すべての元凶俺だった
唐突に脳内に立った掲示板にて、一人で文字列の会話をしている幻覚が浮かび上がった。自演乙!
……ハッ! いかんいかん、現実逃避なんてしてたってリアルは変わんねぇんだどうすんだコレ。
え……なんかごめんて兄上……とりあえず呪は回収するからさ……
変化状態であると術に阻害されて本来の力が出せなくなるために、一度ヒトガタ姿に戻ってから剥がすことにした。
ぺりぺりと魂を傷つけぬよう、慎重に引き出し剥がしてゆく。丁寧にキレイにを心掛けて、端の方を引っ掻いて小さなツマミを作る。ミリ単位のツマミを持って、ゆっくりゆっくり、そーっとそーっと……
……何だろう、この状況に既視感を感じる。この張り詰めた緊張感、何かに似てるんだよな。
あ、紙に貼ったセロテープを綺麗にはがそうとする感じにどことなく似てるんだな。うん、すっきりした。
と、全てがはがれ落ちたその瞬間のことである。突如として四方向より生じた気配に、思わず手に持った推定兄上をブン投げて飛びずさる。毬みたいに弾んで飛んでいった兄上のその体に、鋭く放たれた縁の糸が楔のように撃ち込まれた。それはいとも容易く生命エネルギーの壁を突き破り、勢い殺さず魂にモロに突き刺さる。ウワ、痛そ。
次の瞬間、部屋に響き渡るは苦悶の声。しかし、それは串刺しボール兄上の方ではなく、それを囲う周りの方から聞こえて来る。
困惑して見渡せば、場の四者が一様に頭を抱えてその場に蹲っていた。
どうしたのかと咄嗟に生者であるオババに駆け寄れば、しゃがれ声に兄上に関する情報が一気に押し寄せて来たのだと答えた。辛うじて残った奥歯を嚙みしめ、ギリギリと食いしばっている。
そうして苦し気な四人にどうすることも出来ずに付近をうろうろとしていたものの、ちょっと経てば皆回復してそろそろと起き上がって来た。そうして揃って俺に投げ捨てられて転がっていった兄上の方に行くと、マッマが蛙にも似たその体を抱き上げた。ぼそぼそと小さな声で兄上の名前を呼び掛けては、何事か語り掛けている。
あ、コレ問題解決したっぽいな。
そう思って団欒の場に近づき、確定兄上に「よかったなぁ」と声をかけてやれば守り神様に得体のしれないものを見るような目で見られた。
な、何ですっ、そのまるでカサコソ動き回る茶色のアレを見るかような目は……ヤメテ! そんな目で俺を見ナイデッ!!
……え? 責任? あ……ウン、もちろん感じてマスよ??
……えーと、あー、ハイ、分かりました。兄上の身元は俺が受け入れればいいんでしょ? そうなんデショ! 分かったよ、責任もって面倒見るよ……
あ、ところで、コレと似たような症例を前にも見たなーとか思ってたんだけど、下手人君どうなったか皆知りません?
え、守り神様、何その笑顔。『さて、どうなったんじゃろうて』ですって? アンタ絶対知ってるんでしょ……あ、でもやっぱいいです聞きたくないです、ご長寿様方がその顔してる時って絶対にろくなことないもん。
まあそんなこんなで兄上の存在の記憶が知らないうちに村の皆にも戻ってたわけだけれど、ここで一度「力についての定義」を確認しておきたいと思う。
この辺の細かい知識は原作を読んでいればなんとなく理解できていたことだったけれど、何分時間が経てば薄れに薄れてほとんど思い出せなくなっていたことだから、スサノオ邸でお勉強をさせてもらったことは本当にありがたいことだった。
まず、力は”霊力”、”妖力”、”神力”の三種類にカテゴリされる。
そもそも力とは、大まかにプラスのパワーである”陽の気”と、マイナスパワーである”陰の気”の二つに分かれるのだが、これについてはオババに教えてもらって、俺がこの世界にやって来てなんとなーく知っていた”霊力”と”妖力”という二つの種類の力を使って見て見る。
”霊力”は生命エネルギーの一種で、陽の気に属する。これと対を成すのが”妖力”であり、こちらは陰の気である。それぞれ生物が持つ生命エネルギーと、妖怪がもつ生命エネルギーのことである。
人間含め動物は皆霊力を持ち、妖怪と称されるものたちは妖力を持っている。生命活動に使うエネルギーの相違で、動物か妖怪かは判別されるのだ。
そして、残る”神力”は神様だけがもつパワーで、持っていたら神様判定がされる神様の身分証明書みたいなものだ。
これはある種ユニークスキルのようなもので、それぞれの神が司るものに対応した成分の力となっている。だから神様によって神力の陰陽の気は異なるのだ。
例えばスサノオであれば嵐を生み起こすようなビッグな陽の力であり、俺であれば祟り神っぽい禍々した陰の力だ。同じ神気と称される力だけれど、その性質は全くもって同じ部分がない。
この神力には本当に色々な種類があって、自然を司る系の神力にしても、雨と川と海は水という共通点があってもやれることは全く違う。神様が八百万いれば、神力の種類だって当然多岐にわたる。
そんなわけで、これに関しては何でもありの不思議パワーってのが大体の俺の印象だ。
ちょっと中途半端ですが、今回はいったんここで切りたいと思います!