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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・前
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ネノクニ太郎

 ネノクニというのは、地底世界である黄泉の国の中にある地名のことである。天上界の中の一地名としてタカマガハラがあるように、ネノクニもある。黄泉の国もまた広いのだ。


 ようやくたどり着いたスサノオの御殿ではご家族様と顔合わせをし、しばらくは居候として住まわせてもらう旨を説明した。揃いも揃って恐ろしいほどに力ある神なので、俺としては大変恐縮の限りで心の底からドッキドキである。


 その時に、スサノオからくれぐれも娘には手を出すなだとかなんだとか釘を刺されたが、誰が手を出すかという話なのである。

 確かに顔面偏差値はハーバードぞろい、眩しすぎて某大佐のごとく目を抑えてのた打ち回りたくなったくらいだが、恐れ多すぎて恋愛なんて出来るわけもないし、そもそも考えにも至らなかったわ。ガワが祟り神でも、俺の中身は変わらず小市民のままなんだよ。アイドル見てるのと同じだよ。あのヒトたちは雲の上(ここは地の下だが)、あくまで別世界の住人なのである。俺みたいな小市民とは釣り合うわけもなし。

 大体、突然押し掛けた居候の身で娘さんに手を出すなんてそんな無責任なことする奴があるかとやんわり言ってみれば、スサノオが全くだと深く肯いてしみじみと肯定した。いや、アンタから言い出したんだろ。一体何があったし。




 さて、瘴気たっぷりの黄泉の国ではあるが、スサノオの結界により御殿の敷地は天上界と変わらぬ清らかさであった。常時空気清浄機(スサノオ)の張る結界もまた、規格外の浄化能力でもって敷地を覆っていたのだ。陰の気大好きマン妖怪共は、敷地内では当然のようにいない。


 そう言えば、俺もどちらかというと力の成分は陰の気の方が多めであるのに、陽の気サンシャイン天上界でもフツーにやっていけてたな。むしろ気持ちいいと思う気持ちすらあったくらいだし……この辺りの関係性はまだよく分らないや。


 さて、そんな土地でご家族様たちともなかなか上手くやっていきつつ、神が何たるかだとか、力のノウハウなど知識を教わったり、剣の試合という名のスサノオのストレス解消に付き合うことで、戦闘面もメキメキと鍛わった。


 そう、ここに来てようやくこの世界でのMPたる、力のカテゴリについての知識を得ることができたのである。

 原作をそれなりに読み込んではいたが、17年のブランクが開けば細かい設定までは覚えているはずも無く。この辺りの知識がうっすうすだったものだから、教えてもらえたのはかなりありがたかった。

 だけど、その話はまた今度。




 黄泉の国でも割と気ままに過ごし、一狩り行こうぜとスポーツ精神でおいたをする妖怪を退治にいって、脳内で軽快なBGMを流しつつ丸焼きにした肉を食ったり、蛇型になって黄泉の国観光を端から端までして回ったり、もう俺を襲うこともなくなった無害な妖怪たちとは、それなりに良い友好関係を結べるようになり、一部の者たちとは宴会に呼んでもらう仲にまでなった。


 あいつらって、普通に話をして見れば案外かわいらしく見えて来たんだよね。スサノオの屋敷周辺の妖怪達には初めめっちゃ怯えられてたけど、最終的には飲み友みたいな関係になった。

 いや、初め白目剥いて失神されるほど怯えられてたのと比べると、我ながらたいした進歩だと思うよ。友情パロメーターマイナスからのスタートで、よくぞここまで持ってきたと我ながら自画自賛だわ。


 意外と俺ってば、コミュ力強めなのかもしれない。前の世界ではそんなこともなかったんだけどな。

 ……こっちに来ていろいろと吹っ切れてからかな。思い返せば、新しい生を得てからいろんなヒトたちと友達になることが出来た。


 ああ、友達と言えば、我が親友は今頃どうしてるだろ。

 元気してるかな。そろそろ帰ってみようかな。




 そうこうして楽しく過ごしていたある日のことである。ふと親友のことを思い返しつつ瘴気のテイスティングをしながら蛇型で散歩していたら、パッパとマッマに出会った。


 ―――繰り返す。パッパとマッマに出会った。この黄泉の国という生者は立ち入りのできないはずの場所で、パッパとマッマに出会ったのだ。


『アイエエエ!? セイジャ!? セイジャナンデ!?』


 速攻ヒトガタにトランスフォームして、こちらに向かって手を振っていた二人の元へと降り立った。

 渓谷での散歩中、なんか見知った気配がするなぁと思ってそちらを目を凝らしてよく見てみたら、崖の上に二人そろっていらっしゃるのだもの。ビビるなんてもんじゃないよ。


「え、ちょっとまって、待って? え、ここ黄泉の国だよ? 何でいらっしゃいまして??」


『そりゃあ我らはもうとっくに生者ではなくなっておるからな』


「What!?」




 ……WHAT!?!?!?




 唐突に黄泉の国に現れたパッパとマッマ。詳しく話を聞けば何ということでしょう、俺が村を出てから既に30年の時が経っていたらしい。

 しかもパッパもマッマもあれから数年の内に死んでいて、しばらくは俺の帰りを待ちながら村で守護霊として見守っていたらしいが、全然帰ってこないもんだからついに俺を探しに旅に出たらしい。




 こっわ、リアル浦島太郎現象じゃん。


 思わず頭を抱えてその場に崩れ落ちたね。マジで時間の概念なかった。時間感覚のないヒトたちに混ざって暮らすうちに、こっちの感覚までおかしくなってしまっていたとは。嘘だろ、まさか時空歪んでんのかココ!? どこの国民的海洋生物の一家の時空やねん。


 ……というか、「帰る」って約束したんだから、帰らないと指切られて拳一万回打ち込まれて針千本飲まされるやんけ。親友にされなかったとしても、スサノオにバレた瞬間、絶対にやられる自信がある。あのヒトそういうヒト。口実を見つけてはすーぐに戦いに持ち込もうとするんだだって生粋の戦闘狂だもの。ひぇ、村にまだ生きてる人がいるうちにかえらなきゃ。


 ……あと、親友(あいつ)のこと裏切りたくないし。




 それなりに距離があったため、蛇型になってパッパとマッマを頭の上に乗せてスサノオ邸までトップスピードで帰り、そのまま地上に行ってきます宣言をしてから黄泉の国を脱出した。つなぎの洞窟から下界に出る時にスサノオの目くらまし術をブチ破ってしまったために、自力で術をかけ直して隠ぺい工作をしておいた。黄泉の国で過ごすうちに、術関係のことも色々教わっていたのだ。

 バレたら後が怖いので、しっかりきっちり蓋をしておいたが絶対に気づかれてる。だって公式チート(スサノオ)だもの。よし、しばらく帰らんとこ!


 さてヒトガタになろうが、全力で地上を猛進すれば、絶対に天上界の面々に怒られることは間違いなかったものだからどうしようかと頭を悩ませていたところ、ピンときた。


「そうだ、神域経由すればいいじゃないの」




 すっかり存在を忘れていたが、天上界の瘴気回収をして回ったことによる功績で、何気に天上界に土地をもらっていたのだった。


 因みにこの土地というのが、天上界にも拘らず瘴気の溜まりやすい湿地帯の土地で、清浄な空気を好む天津神らは誰も住んでいなかった秘境というか、最早魔境。曰く付きの格安の土地なのであった。

 誰の手にも余るという状態だったのだが、俺にとっては好物のおやつが常に湧き出しているという、正しく天国のようなありさまで、断る理由もないということでありがたく頂戴することにしたのである。タカマガハラにいたとき、スサノオが御殿から釈放されるまでの期間、専らここが本拠地となっていたのだ。


 甘くていい匂いに包み込まれて、気分も絶好調。しかも、利用者0の不人気な土地とあって、一帯をまるっと下賜されたためにかなり広く、本来の蛇型状態で動いても全く問題ないのだ。立地も、下界にも黄泉の国にも近いという、俺にとってはお得過ぎる物件だ。


 で、もらったその土地が俺の神域ということになるんだけど、神域には直通のパスが繋げられる影響で、どこにいてもすぐにテレポートして帰ってくることが出来るらしいのだ。すごい!


 ん? まてよ。これならスサノオの術をブチ破ることもなかったのでは……?




 ちょっと後悔しつつも、パッパとマッマを連れてしゅぽーんと神域に渡った。

 忍法、テレポートの術! なんてね。

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