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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第一章 成り代わり編
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祟り神ムーブ

ちょっとホラーっぽい文体に挑戦してみましたが、難しいもんですね

 頭を抱え込み、歯をくいしばって、その感情の波が氾濫しそうになるのを必死に耐える。

 身の内に、どろりと蠢く濁った力が渦巻くのを感じる。それは感情に沿って轟々と、自分自身を内側から焦がすのだ。


 痛くて痛くて、熱い。苦しくて苦しくて、今にもおかしくなってしまいそうだ。

 すぐにでも解放してしまいたい。

 だけれどコレが解き放たれたとき、この場は地獄と化すだろう。




 あああ、抑えなくちゃ抑えなくちゃ抑えなくちゃ。皆が巻き添えになってしまう。

 瘴気に当たれば、この場にいる人間は皆死んでしまうだろう。そんなのは嫌だ、誰も殺したくない。


 頭を抱え込み、歯をくいしばって耐える。

 苦しさに、無意識に指先に力が籠められる。とがった爪が自らの頭蓋を突き破り、ぱたりぱたりと木の床に血が滴った。


 あああ、どうしてくれる、こうなったのはお前のせいだ。お前のせいで多くの人が死ぬ。俺はやりたくないのに。


 俺がこんな体になってしまったのも、あの時お前が俺を刺して動けなくしてくれたからだ。動けない俺を、蛇はまんまと喰らってその身を祟り神へと至らせたんだ。お前が刺さなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。


 あああ、憎い、憎らしい。お前さえ、お前さえ……!


 沸き上がった胸の内の本気の憎しみ。

 ドロドロと湧いて出た、粘ついて自らをも焦がすほどに熱く禍々しい力の渦が、胸を貫いていた剣を伝って持ち手に流れ込んでゆくのを感じた。


 目の前で、ボロボロと真っ黒になった奴の剣が、形を失って胸から零れ落ちて行く。

 肉に割り込んでいた異物が腐り消えても、空いた穴から血潮が噴き出すことはない。破れた装いの隙間から覗く肌には、穴などどこにも見当たらず、既に跡を残してきれいに塞がってしまっていた。

 その痕跡もじきに完全に消えるのだろう。薄桃色に色づくそれも、見る間に薄くなってゆく。




 ぱたりと背後で、何か重いものがが倒れる音がした。


 苦しみ悶える声が聞こえる。初めはただの唸り声として。次に、凄まじい絶叫として。

 野獣のような咆哮が、薄暗い部屋の中に響き渡った。男の声帯から発せられるそれは悲鳴となって、常にはない高さまで引き延ばされていく。


 ごろりごろりと床を転がり、目打ちに頭を貫かれた鰻のように暴れのた打ち回る音。じたばたともがき、時折痙攣しているかのように小刻みに木の床を打っている。


 永遠に続くかに思われた断末魔の金切り声は、初めは苛烈かつ鮮烈に響いていたが、次第にその鮮やかな(いろどり)を失い、掠れ萎んで枯れて行った。

 後に残るは、ひゅうひゅうという隙間風のような死戦期の呼吸音のみ。




 ゆっくりと振り返って見れば、全身を真っ黒に炭化させた男が地に転がっていた。

 男は、地獄の形相に喉を掻きむしった姿で固まったままに、その身をさらさらと崩して砂へと変えてゆく。


 崩れ落ちる肉体。そのすべてが灰と還った。

 一寸前まで人だったものは、もうそこにはない。






 ア゛ーッ! 見ちゃったよRG-18画像!! 俺、グロは苦手なの! ホント何見せてくれますのんコノヤロー!!


 突然目の前で上映されたグロテスクな光景に、思わず声を上げて叫びたくなった。


 いやいやいや、俺悪くないです。今回ばかりは悪くない。

 だって俺の呪いってオートだもん。おこの気持ちがちょっとでも湧いちゃったら、プスッて瘴気でちゃうんだもん。生理現象なんだもん。屁よりもずっとずっと堪えがたいもんなんだもん。もんもんもんたら、もん。しゃっくりとか、突発的に来たら抑えらんないでしょうが。




 いやいやいや。まってまってよ、まってったら。

 だって刺されても怒りの一つも湧かない人とかいないよ! だってブッスー刺されてるんだよ? 怪我は一瞬で治っちゃって我ながら引いたけども、痛覚は普通にあるんだよ??

 めっちゃ痛かったもん、そりゃあ腹立って立つにきまってる。今回のは「ちょっとイラっとしちゃった☆」程度じゃあ、収めきれなかったんだ。


 心臓一突きにされても心が凪いでる人はもうそれは人間じゃありません。生き物ですらありません。それはただの化け物です。


 俺もこの度、全くめでたくなく化け物に成り果てましたがそういうことじゃないんです。

 いや、前言撤回。化け物でも怒るわ! 仏の心持ってなきゃ無理だよ。悟り開いてたらあるいはって話だよ。


 俺は生憎、世間一般の人々がそうであるように、解脱の方はしておりませんのでしてね。

 むしろどっちかと言えば心狭い方だぞ俺は! 仏の心からかけ離れてんだよぉ!!




 しかし、そこで思い至る。

 よく考えてみればこの状況、下手人君以外の被害はゼロではありませんこと?


 もしかすると、今回のは無差別範囲型の方じゃなくて、対象選択型の祟りスキルの方が発動したのだろうか。そういう技もラスボス君にはあったはずだ。


 今回、俺は呪が周りに飛び散らないよう意識した上に、下手人君単体を激しく恨んだ。

 それに比べて無差別型が発動した時はいつも、自称神のヤローのことは考えていたものの、どこか広く浅く漠然とした苛立ちで、固定された恨みの対象がなかったようにも思える。


 今回はアノヤローのことも念頭になく、純度100%の下手人君だけに送るおこ(・・)だったから、対象が絞られたおかげでコイツ以外に被害は回らなかった、ということなのだろうか。





 と、今回の現象について思い悩んでいれば、どこからか唐突に妙な音がした。


「ビギエェエエア!!」


 その音は、赤子の鳴き声ようであり、何か別の者にも聞こえた。

 聞き違いかとも思ったが、それは再び聞こえて来る。


「ヒギエエェエイ!!」


 どこからであろうかと視線をさまよわせていれば、足元の下手人君の崩れた灰の中から聞こえてくることに気が付いた。

 そちらを見やれば、丁度山になった灰の中からドス黒いナニカがはい出てきた。


 ナニカは、いつか保健体育の教科書で見たような、母体の中にある胎児のような姿をしていた。

 魚類の様にも猿のようにも見える真っ黒な肉塊が、うごうごと灰の中で蠢いていたのだ。


 ヒエなんだこれきっもちわるぅ……


 思わず吐き気を催すような光景である。

 しかも追加で俺の角さんが気づきたくない事実を受信してしまった。蠢くナニカから、俺に縁が繋がっていたのだ。その縁が言うのだから間違いない。――これは、下手人君だ。




 おそるおそる摘まみ上げてじっと観察してみる。ぶにぶにとしたソレは、不快な鳴き声を上げて、俺の指から逃れようと暴れた。

 体の大部分崩れ去ってるけど、一応生きてるよこの人……なんてこったい。


 しかし、一応だがこれで殺していないということは、能力のコントロールが出来たたということなのだろうか。

 さっきはこいつを恨むのと同時に、誰も殺したくないとも同時に願ったのだ。その結果がコレなのだとすれば。


 そこで思い至る。

 ここへ来てからブスっと散布してしまった無差別型の方も、被害は最小限だった上、今回の”やっちまった感”が今までの比じゃないやらかしも、対象を一人に絞れた上に殺してはいない。


 ……え? 俺、すごくない? これは完全にラスボススキルを制御下に置けてしまったのでは……? 俺、もしや、天才なのでわ……!?




 って、下手人君のことはどうでもいいんだよ。そういえば兄上のことすっかり忘れてたな。

 俺でーす、オレオレ! あなたの弟のカガチノミコトでーす!

 って泡吹いて気絶してるではありませんか。あやや、さらにばっちくなっちゃって。

 ……これ本当にどうやって運ぼう。


 触手の先端は枝分かれしていて、それぞれに独立して動かせる。でも、それは手指ほど器用に動かせるわけじゃない。だから服だけ摘まもうにしても、絶対どこかしらの汁に触れることになる。


 うーん、覚悟を決める時がついに来てしまったか。

 あいや、やっぱり嫌だ……なんかこの状況を打破するアイテムとかナイカナーって、そんな簡単には見つからない――あ、あった!




 俺の視線の先にあったもの、それは部屋の最奥に引いてあった毛皮のモフモフ絨毯であった。


 ――これで何が出来るってんのよ!


 脳内の可愛らしい俺が白いハンケチーフを噛みながら叫んだが、それに脳内のイケメンの俺が実にクールに答えた。

 フ……まあまあ待ちなって子猫ちゃぁん。俺が今に華麗に実践して見せるからサ……。


 あらかじめ広げてあります絨毯に、兄上ボディの、汁のついていない部分を触手でつまんでポイッと放り投げ、包み込んだら兄上巾着の感性である。


 脳内のイケメンの俺の素晴らしい頭脳に感謝しつつ、巾着の口をしっかりと縛ってほどけないようにする。


 それにしても、ヒトガタ形態においては、一見この付属品のようにひ弱そうな触手ではあるが、見た目に反して結構な馬力を持っているようである。一度、この体でどこまで動くことができるのか、試してみなくちゃならないだろう。自分の限界ぐらいは知っておかなくては。


 あ、そだついでに元下手人君の肉塊も捻じ込んでおこう。ここに捨ておいたら、この場の人たちが可哀想だし。うちの村に持って帰ったなら、きっと守り神様が何とかしてくれるはず!


 してくれなかったら……まあその時はその時ってことで。




 そんでもって、ちょっと絨毯借りて行きますなんて、青い顔をしたこの村の長老ぽい人に一言断ってから、一度蛇形態に戻りつつ建物を脱出した。


 触手の先にお持ち帰り用絨毯袋を摘まみ回収して、吹っ飛ばしてしまった屋根も、もう片方の触手と口を使って、丁寧にはめ込んで戻しておく。その時にふと、ドールハウスが頭の片隅に思い浮かんだ。


 そうして改めて大きくなって周りを見渡してみれば、妙に既視感のある地形だと思う。

 暫く考えていれば、その正体が分かった。ここってモノノ森だったのかもしれない。数時間前、無差別に放たれた瘴気に、森はグッズグズに溶けちゃってるけれども。


 この地で俺はメタモルフォーゼしたのだと思えば、何だか考え深いものがある。悪い意味で。

 そうか、つい数時間前まではまだこんなことにはなってなかったんだもんな。ああ、夕焼けのあの頃に戻ってフラグ回避したい。




 ……しみじみ感傷に浸るのもいいけれど、それより早く守り神様にお届け物をしなくちゃな。

 それでは、失礼しましたー!

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