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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第一章 成り代わり編
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ヤッチマッタナー

 守り神様が、ビシィッとポージングを決めて俺を指さしてきた。

 あー、人を指さしちゃいけないんだぞ! おぎょーぎ悪いんだぞ!


 そう、脳内ではおちゃらけてみるけれど、実際問題守り神様からだけじゃなくて、皆から送られてくる視線の集中砲火に死にそうになっていた。


 ひええ、視線がイタイイタイイタイ!!

 うえぇ話すから、話すからヤメテ! そんな目でみないでぇ!!


「……隠していたつもりではなかったんですけどね。あ、でも蛇が出てきた時に、側付きの彼のことを思ったことは、間違いないんですよ。

 だけど、そうですね。蛇に飲み込まれる瞬間、確かに恨みましたよ―――


 私をこのような数奇な運命に定めし神を。それから、己自身を」




 そう、あんの自称神な。ホントマジ恨んでるから覚えとけよな。


 振り返ってみれば、諸悪の根源はアイツなのである。

 何をやらかしたのかは知らないが、こっちが何も理解していないうちにラスボスとかいう主人公サイドに狙われ続ける悪夢の人生歩ませて来ようとしたアイツである。


 大体、俺が死んだのもアイツのミスらしい。ちょっと抜けすぎじゃねぇのか、次あったらブン殴ってその目ェ覚ましてくれるわ。

 そうだよ、せっかく祟り神になっちゃったんだからね。一発すんげぇ祟りをおみまいしてくれる。


 いや、ここまで物語通りにすんなり祟り神になっちゃった、自分のアホさ加減も十二分に呪ってるけども。正直バカスとしか思っていないけれども。

 でも、もうなっちゃったんなら、奴をメッコメコにしたる機会もできるってことなんじゃないか?


 オウオウ、このままじゃ人生クエストの最終到達地点、「大往生」がクリア達成できなくなるかもしれんのだからな。なんてったって”人生(じんせい)”から”神生(じんせい)”にいらねぇランクアップしちゃったんだからな!!


 精神健康保つためにも、奴をフルボッコにする未来を楽しみにさせていただきますよぉ! なんせ、聞くところによると、人生目標は多ければ多いほどいいらしいですから?

 あ、ちがった、人生じゃなくて神生でしたねはっはっは! ……はぁ。






『もうよい! 分かったから落ち着け!』


 守り神様の焦ったような声に我に返る。

 そうして目の前に飛び込んできた悍ましい光景に、ざっと血の気が引いていくのを感じた。


 自称神と俺の至らなさについて(内容の九割自称神への恨みに振り切れてたけど)考え込んでいるうちに、俺はとんでもないことをしでかしてしまっていたらしい。

 気づけば、握りしめていた触手は真っ赤に染まっており、俺が座っていたところから円を描くように地面が真っ黒に染まってしまっていたのである。


 うっわあ、呪われた大地って感じだぁ! グッズグズにとろけて、何故か泡立ってる。あるぇー、地面って固体だよね。何で沸騰してるみたいに、ボコボコ泡が出てきてるんだろ。湯気の代わりに、汚らしい瘴気が湧いてるね! わぁ、まるで汚物! ばっちぃ!


 ゆっくりと周りを見渡せば、人々がおびえたような表情をして、遠巻きにこちらをうかがっていた。





 アッ! やらかしたわコレ、やっちまったよ! 完全に祟り神ムーブでした全くありがとうございません!!


 ウワァーッッ! またもや環境破壊!! ラスボススキル、「存在が害悪」発動しちゃった……

 あーもう、俺のバカァッ!! ごめんなさいすみませんゆるちて……


 せっかくさっき落ち着いたと思ったのにな。なんでまた発動しちゃったんだ? そういえばメタモルフォーゼ直後の大規模環境破壊時も、あの自称神のこと考え続けてイライラしてた気がする。その後さまよい続けてる時も、全然いいかんじの村が見つかんなくて、親友が死ぬかもしれない焦りで一杯でブチギレ寸前だった。


 ……もしかしてこれ、怒りで発動型のスキルなのでわ?

 原作じゃあ、ラスボス君たら常にブチギレてたもんだから、てっきりパッシブスキルなのかと思ってたけど、怒りを引き金にオート発動ってことなら辻褄も合う。




 ……はいはい、把握した。すべてを理解したぞ俺は。

 分かったところで、それでは今から落ち着きたいと思います! ヒッヒッフー! ヒッヒッフーー!


 意識して、落ち着くようにゆっくりと呼吸を繰り返してみる。すると、掌の中の触手の色が、赤から黄緑色へと変わって行った。


 この触手パロメーター、やっぱり俺の感情ごとに色が動いてるみたいだ。今確信した。

 自分の気持ちが把握しやすくていい……のかな。案外自分の気持ちって分かんないもんだし、客観的に知れるのはいいかもしれない。


 ……いやでも待てよ。それは周りにだって同じ条件だ。他の人に感情筒抜けってのはやっぱ恥ずかしい。

 よし、切り落とそう??




 冷静になって再び周りの状況を確認してみれば、当然のように人民から怯えられております。

 まあそうでしょうねぇ。グハッ! 心に10000のダメージ!!


「アハハ……なんか地面真っ黒になっちゃったよ、なんでだろー!」


 努めて明るく、「アッ、ゴメンゴメン屁ェこいちゃった☆」のノリで茶化して言ってみたけれど、返って来たのは骨の髄から(かじか)むような寒々しい沈黙のみ。

 前回に続き盛大に滑り倒してしまったことを悟る。


 動揺からか、触手がぐるぐる高速回転で色を変えてゆく。

 うははー、一人ミラーボールパーリーナイツイエェェエエェイ!!


 全力の笑顔で誤魔化してみたけど、時すでに遅すぎクライマックス。人々の絶対零度の視線で、赤道直下の大地も永久凍土にきっと変えることが出来るだろう。


 人々の視線の正体、当てて見せましょう。あの黒光りするGを見るような目ですねヒャッハー!

 アレと一緒にすんな! しないで下さいお願いだから!!


 冷や汗を垂れ流しながら守り神様の方を見やれば、ものすごく可哀想で哀れなものを見る目で見られた。


 え……ヤメテその目は傷つく。冷静に振り返ってみれば、さっきから俺のやってることって、公衆の面前でギャン泣きしたり逆切れブチギレヒャッハーしたり、何というか……見るに堪えないな。俺もきっと汚物を見る目で見ちゃうよわかる!!




 と、どうしようかとワタワタすることしかできない俺を尻目に、守り神様は黒くなってしまった地面に向かって波動を放った。


 すげえ、か○はめ波じゃん。波動の波が通り抜けたところから、ブスブス地面を焦がし続けてた黒い靄がかき消されて行く。おお、浄化系の技なのか!


 だけれど、黒い霧は消えたとはいえ、変わらず地面は黒いままだった。盛大にキャンプファイヤーやった後みたいだな。なんだか焦げ臭いし。

 ……訂正。ちょっと香ばしくて、おいしそうな匂いだ。




 明らかにヤバイオーラを放つ瘴気は消えたってのに、捌けていった人たちが戻ってくることは無かった。

 ふえぇ……みんな戻ってこないよぉ、俺をぼっちにしないでよぉ……


 まぁ当然っちゃ当然の反応なんだけどさ。

 こんな黒い地面、普通の神経してたら座りたくないですよ。俺もやだよ。なんか呪われそうだし。


 あ……触手が青くなってく……悲しみでは青くなるんすね。

 正しくブルーな気持ちだよ……ぴえん。


 寂しさに打ち震えていれば、守り神様が隣に来てくれた。

 ふえぇ……優しさが身に染みるぅ……あの自称神とは大違いだよぉ……アッ頭までなでてくれるんで? 優しすぎィ……泣いちゃう。あ……触手が薄ピンクになった……


 ヒエ違うんです違うんですロリに撫でられて喜んでるオッサンってヤベエ図だけど実際は向こうの方が数百年単位で年上だからセーフなんですロリじゃなくてロリバbヴァアアア、頭はたかんといてぇ!


 この世の終わりのような静寂を破り、守り神様は呆れたようにため息をついた。


『全く……それで? 祟り神に至った後、一の皇子を祟りに行ったのか?』


「え? いや、速く毒抜きしなきゃと思って、一番近かった村探そうと思ってたんだけど、目線が高くなったからか全然見つからなくって、しばらく辺りをさまよってたらここまで戻ってきてたんです」


『ふむ……ならば、何故一の皇子の縁が切れておるのかのう』


「え?」




 守り神様の爆弾発言に、回りの人々がざわつきだした。


 え? なにそれ、”守り神様の縁”(イコール)”生まれながらに王家の人たちが施される守り神様の加護”が消えたってことはつまり……兄上、死んじゃったってこと?


 ……知らない知らない俺じゃないですホントですマジですからその目を止めてくださいお願いします!

 首を横に全力で振って冤罪を主張していれば、守り神様はいぶかし気に目を細めた。

 明らかに信じていないというお顔をしておられる。




「ねぇ待って、本当に! ほんっとうに知らないですよ!」


『ほう……嘘ではないようじゃの。無自覚、か。奴の末路も哀れなものよのう』


「ねぇ何それ俺じゃない俺殺ってないってホント! だってここに来る途中で見かけてないもん! アッ信じてないね! いいよ、俺探してくる!!」


 汚名挽回じゃワレェ!! 生きてる兄上探してこの場を驚かせてくれようぞ!


 勢いのままに体をとろかして、大蛇の姿を構成しながらやって来た方向へ向かって折り返す。

 頭をグワーッと前方に延ばして飛び出せば、村に残るのは尻尾の先端部分だけ。残りの胴体は山を越えて、一気に距離を稼ぐことができた。


 体が長いからこそ出来た芸当だ。ヒトガタになったり解除するときに、体のどこにでも術の基点が置けるから、胴体の届く範囲だけワープができるんだ。


 無事に山肌に胴体着陸してそのまま進み始めれば、今度は呪い汚染が発動することはなかった。

 触手の色を確認すれば、黄緑色をしている。どうやらスタンダートが黄緑らしいな。


 やった、呪いによる環境破壊を克服したんだ!

 ……まぁ体がでかい分、這う度森林破壊は進んでるんですけどもね!!

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