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成り代わって蛇  作者: 馬伊世
第二章 神代編・後
100/116

てんてこまいの天上界

遅くなりましたが、ついに100話を迎えることが出来ました!

いつも応援ありがとうございます!

 さて、そうして下界での調査システムを最優先で整え、それに則って視察・報告の任務を日々のルーティーンとしているうちにもずいぶんと色々あった。

 せっかく広い範囲がまっさら白紙になったのならと、天上界でもいろいろと改革が行われたのだ。


 天上界はタカマガハラにあった建物たちは、大抵が誰かしら神々の居館だったりしたものだが、それも多く再建されて、次第に都風の華やかな景色が所々スケールアップして取り戻されつつあった。


 そんな中、オリヒメさんたち機織りの天女さんたちの集う工房も、でっかくなってリニューアルオープンしたのだ。なんでも、オリヒメさんの造る果実酒の味が噂になって、前々から遠くの神々にも尋ねて来られるようになっていたことから、折角ならこの機会にと、果実酒パーラーを工房に併設することにしたらしい。


 酒本体の作り方は企業秘密のようで教えてはもらえなかったが、彼女の酒はほんのり甘い。その透き通る清酒に漬ける果物は、オリヒメさんのお気に入りの天上界産果物を使ったり、客持参のオーダーメイドも請け負ったりしているようだ。また牛飼いである旦那、ケンギュウさんから得たフレッシュミルクを使うこともできるようで、味の種類はとても豊富だった。


 スタンダート清酒の圧倒的うまさに加え、天上界にも珍しい牛の乳の酒が飲めるとあって、話題性は抜群。店の開店日は天女さんたちのきまぐれだが、開けば直ぐに行列が出来るのだと、ニッコニコのウェイの兄様が言っていた。この兄様、今度はオリヒメさんの友達の、若草色の衣がトレードマークの天女さんにお熱で、連日お店に通い詰めているのだった。毎日楽しそうで何よりである。


 そんなある日、日々バラ色神生を送っているこの兄様にパーラーへ誘われたことから、俺もリニューアルのお祝いにと、七夕をイメージして作った置物を持って尋ねてみたのだ。するとなんと驚いたことに、逆にオリヒメさん達から、俺の叙位祝いとして羽衣をプレゼントされてしまったのである。




 俺の叙位の件に関しては、噂がもう天上界中に広まってしまっているために、各地で何やら言われることについては諦めの境地に至っていた。

 けれど、贈り物は別だ。貰ったこの羽衣、端的にいえば超高級品だったのである。


 羽衣とは、飛行用の補助用具のようなもので、纏うことで容易に空を飛ぶことが可能となるが、制作にかかる神力や時間コストのお高いグッズだもんだから、神々の皆が皆持っているわけじゃないのだ。感覚としては自動車を持つのに近い感じだろうか。仲の良い神々の間で、しばしば貸し借りもされている。


 けれど、初めてもらったこの羽衣は、明らかに”高級車”といったような出で立ちで、半透明で螺鈿細工のような光沢があり、光にかざすと七色に色を変えるような見れば分かる逸品だった。手触りも、ビロードよりも更になめらかで、まるで霞を触っているかのごとく掴みどころがないのに、どこかもっちりとした弾力を兼ね揃えているような不思議な感覚だった。


 せっかくもらったならばとその場で試着をする流れとなり、さっそく背に通して纏ってみれば、圧倒的な着心地の良さである。地面を軽く蹴れば、それだけでふわりと宙に浮かび上がり、意のままに空中浮遊をすることが出来た。感覚としては幽霊モードで浮いている時に近いが、あれよりも出せる速度も高度も自由度も桁違いである。


 俺は物理的に”跳ぶ”ほうが羽衣を使って”飛ぶ”よりも早く移動できたので、ウェイの兄様の妹さんから借りて少し遊んだことはあるが、自分用のものは今まで一枚も持っていなかった。大蛇姿の時は重量オーバーなのか、まるで効果が無かったことだし。


 とはいえ、やっぱり羽衣っていいものだな。

 なんだか、心まで羽のように軽くなる気がするのだ。工房の天女さん達、流石の腕前である。




 結局その日は流れで、俺の叙位祝いパーティーという名の飲み会が開催され、客の話題の中心に祀り上げられてしまったのだった。


 神族の皆様は、面白いことがあれば、すぐこうして酒の肴に話題の中心をヨイショヨイショと担ぎ上げるのである。晒されるこっちはとんでもなく気恥ずかしいんだけれど……まぁ褒められて悪い気はしない……かな。ふへへ。


 こうして宴は日の暮れぬタカマガハラに幾刻も続き、お天道様の光の降り注ぐ下で、楽しく時は過ぎて行ったのだった。




 その後日、非時香果ときじくのかぐのこのみの果実酒が樽で神域に届いたのだった。


 何事かと思いながら樽と共に届いた手紙を読んでみれば、なんでも、お祝いに届けた七夕の置物が、めんどくさい客を退治? したらしい。盾か鈍器にでもしたのだろうか。よく分らないが御役に立ったようで何よりである。


 酒はシトラス系のものすごくいい香りのする逸品だったが、流石に多すぎたので瓢箪に詰めて各所にお裾分けしに行くことにした。その時にウェイの兄様とホタチさんが神妙な顔をしていたのが気になるところである。


 柑橘類が苦手だったのだろうか。それなら悪いことをしたな。まあふたりとも沢山お仲間がいるんだから、あのヒトたちにでも分けてくれるだろう。






 さて、天上界と言えば、俺の神域についても大発展したと言えるだろう。何せ、「カガチノクニ」などと、”国”と称せるほどの規模になってしまったのだから。


 一都道府県レベルの土地を貰ってしまったと言っても、マイホームという名の無駄にでかいぼっちハウスの敷地が延々と続いているというわけではない。”神域”とは、あくまで太陽の御殿から賜った土地のことでしかないので、感覚としては地主に近いのだ。

 現に、天上界全域が最高神様の神域のようなものであるが、おひざ元であるタカマガハラには多く神々の居館が集っているし、また彼の御方が実際に住んでいるところは太陽の御殿内部である。


 現在の「カガチノクニ」の国土は、前の神域範囲であった瘴気湧くレア地帯に加え、天上界らしい景色のエリアも新しく追加される形となった。

 極彩色花畑や金の雲のたなびく断崖地帯、草原の先には素敵なレイクビューが。また至る所に四季折々の果物の生る豊かな森があって、とにかく絶景ぞろいである。

 この清浄エリアには、災禍以降にまたちらほらと天上界にやってきた魂の皆さんの集落や、元からこの辺りに住まう天津神の皆さんの居館や神域が存在する。


 神域の中に別の神域が被っているのはアレだ。俺が県知事として県全体を管理してるのに対して、市長さんや町長さん、また役所にお勤めしている方々が各地を治めてくれているってことだ。神域とは、「土地管理事務所」兼「プライベートな敷地」なのである。


 それでもって、税金や犯罪という概念も無いこの天上界においての仕事とは、基本的に「調和」を保つことであって、”労働”の義務はない。有事以外には、日常の些事(さじ)を軽く記録したり、土地に神力を補充して軽く手入れしておくくらいのものである。


 天上のヒトビトは、こうした各々の神力に合ったやりがいある仕事を見つけては神生を豊かにしつつ、気分じゃない時はン十年単位で思いっきり休んだり遊んだりと、のほほん好き勝手に生きているのだ。だってここ、天国なんだもの。

 まぁ今は災禍とかいうバカデカビッグ有事イベントが起きた弊害で、やることだらけなわけだが……。




 さて、そのようにしてこの国を管理するのに、いわば「県庁」とする役所施設を置かなくてはならなくなった。というか、タカマガハラから「要約:建てろ」と書かれたお手紙が届いたのだ。

 手紙の文面的に、神域の整備の緊急性は、下界の任務と比べて随分と低いようだったから、あっちと比べればまだ気楽なものだったけれど……。


 なんか俺、最近しっかりタカマガハラから目をつけられちゃってないかしら。完全にメインの駒として配置されちゃってる気がするんだけれども……

 ひぇえ、小市民にはプレッシャーが過ぎるよ!! ちくしょう、ラスボススペックが有能だったばっかりに! 自称神の野郎定期!!




 そんなふうに日々ビクビクと震えながら過ごしていると、手紙が届いてしばらくして、タカマガハラの組合所から土木建築の神々がやってきた。


 その親方神が、先ずは施設全体の設計図を作ろうと言ったので、そこに俺も地主として居合わせることとなった。施設の責任者としてリクエストを聞かれたので、一応は「こじんまりとした落ち着く感じの施設」を提案した。した、のだったが。


 この建築の神々、大型の施設が建てられるという滅多にない機会を得て、まさに水を得た魚というように、ピッチピチのギンギラギンに張りきり冴え渡りみなぎっていたのである。


 しばらくして、屈強な体格の男衆がこじんまりと頭を寄せ合い饅頭のように集まってわいわい話し合っているところを覗いてみれば、素人目にもわかるとんでもない構造の施設が紙面に着々と創造されていた。瞬く間に恐怖を感じた俺が横で「ねぇちょっと広すぎない? 豪華すぎじゃない?」と尋ねるのを大丈夫大丈夫と軽くあしらっては、嬉々として設計図を描き殴っていた頭領神の手元のブツは、どう見ても何も大丈夫ではなかった。


 さて、こうして想像力豊かな建築衆の願望が実現される流れとなったのだ。結局最後まで俺のリクエストはガン無視だったけど。

 ひどい要望無視を見たものである。俺、仮にもこの役所の最高責任者なんだけどな。




 そうして半年後、みなぎる男衆によって超スピードで創り上げられた平方キロメートル単位の敷地内には、壮大な役所世界が誕生していたのである。


 入り口のでっかい門から一直線に続くメインストリートを通れば、真正面にプチ儀式場たる正庁が現れ、その先にはガチ儀式場たる正殿がある。

 メインストリートを中心にして隔たれる左右の空間には、部署ごとに分かれた役場の群れ、用具庫、食糧庫、武器庫、書庫など各種倉庫群が美しく配置されていた。


 西側エリアの一角にある、外部からのお客様を向かい入れる接待パーティー会場付近には、自然系の神々が意匠を凝らした良い感じの広々とした庭園が広がり、また来賓の方々のためのVIPホテルが隣接している。目ぼしいインフラ施設も種類豊富に揃って、実に過ごしやすい環境である。


 それでもって敷地の最奥には、俺の公式の本邸となる予定の居館が壮大に建っていた。極彩色の装飾に飾り立てられる様は、非常に俺の目と心を焼き焦がし……いやこれもうニュータウン城下町だろう。俺の知ってる役所の規模じゃねぇ。


 それでもって東側エリアの一角には、沢山の門の揃う広場があった。門を抜けた先には門だらけ、という不思議なこの広場は、社ゲートの集う交通所……三世界をつなぐ、ゲートターミナルである。

 各門が社間テレポートの基点であり、俺の現世、幽世、黄泉の国の社と繋がっているのだ。


 この社ゲートターミナルは、タカマガハラから届いたお手紙の中に、必要な施設の要望として書いてあったことの一つだった。

 曰く、「カガチノクニに”道”を用意せよ」とのこと。


 なんでも、もともとこの地(カガチノクニ)は三界に繋がる稀有な場所だったことから、古から神々の”道”のターミナル地点として使われていたらしいのだが、この災禍で全て潰されてしまったことから、代わりとなるスポットが必要になったようなのだ。

 つまりは、「お前の社間テレポートでその役割を果たせ」ということだろう。




 もしかして、最高神様はこれをしたいがために、カガチノクニなんてものを俺に任せたのでは……?

 ……なんて疑念は、湧かなかったことにしておこうそうしよう。


 俺的にも、もともと世界を行き来しやすいように社ターミナルを作る予定はあったから、それを他の神々も使えるように開放しただけなのだ。それぞれのゲート先の地点は、俺の入ってほしくない場所には出ないようにしてあるし。

 だから、お上の思惑なんて、俺は何にも知らないんだからね!




 さて、このようにして作られた社ターミナルの門番の役目は、昔ここらに神域のあった道祖神の夫婦に任ってもらっている。

 彼らは二柱で一組の神であり、見れはいつでもイチャイチャと寄り添って、一緒にいないところを見たことの無いようなラブラブカップルであるが、それでいてしっかり仕事は成されているんだから文句は言えねぇ。彼らが愛し合って二人だけの空間が展開されることで、その愛をエネルギーとして生まれた強固な結界が、しっかりとターミナルを保護してくれているのだから。

 彼らには末永く爆発してもらいたい所である。


 この夫婦神のように、役場仕事を引き受けてくれたヒトビトの多くは、もともとこの辺りに神域を構えていた神々だった。タカマガハラからの勅令を受けて、引き続きこの辺りの管理を任されるとともに、ついでにこの役所の機能を活用しているのだ。


 そのほかにも、野良の神々や、災禍の後に天上界に新しくやってきた魂の皆さん向けにも、窓口は常に開いている。

 どうにもヒト手不足なのだ、やる気あるヒトビトは大歓迎である。新しく増やした俺の直属の眷属たちと一緒に、運営を担ってもらわなければならない。




 最近は人手が足りなさすぎて、新しく直接契約を結んだ常勤の眷属も増やしたのだ。今まで眷属契約を結んだ子たちの中で、配下を持つ子たちも少なからずいた。その中から、有力かつ、もとの群れから独立を希望する子と直属の眷属契約を結ぶことで、各世界ごとに役立って貰っていた。


 だって俺だって働きたくないからね。ヒトに任せられるところは全部ぶん投げる所存である。

 何だったら、この役所のトップの座だってもう投げてるし。


 イヅモの大王様が俺に幽世を押し付k……ゲフンゲフン任せたように、俺も仮のトップを誰かに委託すればいいんじゃないかとピンと来たのである。




 今この役所の実権を握ってくれているのは、古からこの辺りを統括していたらしい、年老いた見た目の男神である。役人募集をかけていた時に、丁度いいところにトップの座が欲しいと名乗り上げて来たものだから、喜んで最高責任者を委託することにしたのだ。


 彼は、正に”やんごとない”という言葉を体現したかのような高貴な服に身を包み、言動も高貴なお貴族様と言った感じの老爺神だった。

 彼と一緒にやって来た方々も、同じように豪華な身なりをして、天上界のイメージ通りの雰囲気である。


 そんな彼らにも各自やりたい仕事についてもらって、実際にお試しで運営して貰えば、事あるごとにヒトを褒めて回るのである。


 歌をよく歌っていた天女さんには「隣の部屋のその先にもよく広がる程、大きくて伸びやかな声ですね」と評価していたり、警護を担当する武神の長には「争いごとの無い常春の天上界でも刃を研ぎ続けているなんて、貴方達は働き者ですね」と激励していたり、いろんなヒトに美味しいお茶漬けを差し入れに振舞ってくれたりと、多くの部署に目を向けていた。


 人の良いところを見つけては、ほめて伸ばそうとしているのだ。なんてすばらしいヒトたちなんだろう。俺も、初対面の時に、「天上界にはもったいないような性能の能力ですね」って言ってもらったし、きっと相手の長所を見つけるのが得意なんだな。


 老爺神さんは、ちょっとクールな印象があるが、トップには威厳があった方がいいだろうし、いいところに適材が転がり込んできてくれたものである。


 本格的に任せて見れば、最初の方はトラブルがあったようだが、次第に順調に仕事をこなしてくれるようになった。何ならトップの彼は、最近は気づけば仕事に打ち込み続ける状態が続いており、息抜きをしてもらうのが大変である。ちょっとワーカホリックの気があるのかもしれない。今度、お返しに完璧なるお茶漬けメニューでも開発して振舞ってみようかな。


 こうして正式にこの老爺神さんが代表、そして俺はCEOとなったわけだが……よし何も問題あるめぇ。

 幽世の方も、直に俺がいてもいなくても関係ないよう、強制的に自立させる所存である。




 さて、役所が完成してからは、だだっ広い正庁の中庭に役人となるヒトビトを集めて一気に式を執り行った後、そのまま祝賀会と称して、早速出来立てのパーティー会場で皆おめでとうパーティーを開いて、カガチノクニ役所は順調にスタートを切った。


 無事に運営御開始してからは、三世界から重々たる御エライ様がやってきたりもしたけれど、早速VIPホテルが役立ってくれた。

 タカマガハラや黄泉の国の重鎮たち、また中華天上界からは仙人が視察にやってきたりと、なかなか気の抜けない日々が続いたが、恐らくスサノオが珍しくアポをとって来た時が、一番役所がピリついた瞬間だったことだろう。何とか無事満足して帰っていただいたが、その後、俺は案の定黄泉の国に引きずり込まれてしまった。


 VIP達の訪問ラッシュが落ち着いたころ、守り神様と、あの後無事に再会したパッパとマッマとオババの三人組を招待した時は、俺も気合を入れてもてなしたものだ。あの三人組は、災禍のタイミングで偶然黄泉の国の首都にいたことで、大王様の結界に守られ、輪廻には往かずに済んだのらしい。また会えたことが嬉しくて少々テンションがおかしくなってしまった自覚はあったが、あの三人と守り神様はなにも言わないでくれていた。


 まだまだ役所の運営は初っ端も出だしで、定期的に問題は発生するけれど、かくして天上界での動きも無事軌道に乗せることが出来たのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヌカに釘打ち、天然様は無敵よ
[一言] 100話おめでとうございます! 主人公も一端の上位神になってきましたね…! 更新楽しみにしてます!
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