ステータス、オープン、メタフィクション
「そういえば、パラメータ的なものは見られないのか?」
『はい? パラメータ、ですか?』
「そう、よくあるでしょ、自分のレベルとか能力値が確認できるやつ」
『ああ、そうですね。んー、じゃあ、高らかにこう言ってください。ステータス・オープンと』
「なんで、いま思いついた風なんだよ。しかも、それって異世界もので、恥ずかしいセリフの筆頭じゃねぇか!」
ちなみに二位は「無詠唱だと!?」だ。
『言わないと見られませんよ?』
「いや、言わないとは言ってないけどな。そのセリフを口にするのが恥ずかしいだけで」
『では、どうぞ』
「すてーたす…………おーぷん」
『なんですか? そんな小声じゃ聞こえませんよ。きちんと言わないと、表示されないシステムとなっております』
「あーわかったよ! ステータスオープン!」
恥ずかしすぎるので投げやりだ。
『ふん。まあ、いいでしょう』
突然、目の前にコンピューターのディスプレイのようなものが浮かび上がった。
「おお、出た!」
ディスプレイに表示されているのは、俺の名前と「レベル1」という文字だけ。
「へっ? これだけ」
『ククククッ、もうダメだ、ひー、ヒッヒッフー』
「な、なんだよ」
『ステータス、フフッ、オープンですって、クックククク』
ユニットは笑い続ける。
笑ってるうちに、ゼーゼーいいだした。
あまりに笑いすぎて、呼吸困難になっているようだ。ってか、こいつって呼吸してるのか?
『はぁ、はあ、苦しかった。笑い死ぬかと思った。よくそんな恥ずかしいセリフが言えますね?』
「お前が言わせたんだろ!」
「うふふふ、そうでした。いや、失礼しました。タネをばらすと、あなたがいま見ているものは、わたしが脳内で見せている幻覚です。ステータスなんて、存在するわけないじゃないですか、馬鹿なんですか?』
ディスプレイは煙のように消え失せる。
「この野郎」
『はい、謝罪します。でも、どうしてステータスなんてものが存在すると思えるんです?」
「異世界なんだから、あってもおかしくないだろう?」
『そうですか? 世界中の住人が見られるステータスなどというものが存在するということのほうが異常に思えます。全住人の能力や状態をリアルタイムで観測しながら、記録して、基準と比較し、書き換えて表示させる。それこそアカシックレコードのようなものさえ必要となるような、それだけのシステムを構築するのに、どれだけの技術とリソースが必要になることか』
「そこは魔法でさっくりと」
『魔法でも同じことです。それだけの術式(?)がどのように構築され、膨大であろう魔法力(?)が継続的に、どこから供給されているのでしょう? もちろん、それが説明されているのなら問題ありませんけど』
「うーん、たしかに神が作った仕組み的なものというだけで、特に説明されないことが多いね」
『そもそも、レベルってなんなのですか? なぜレベルが上がると、体力や知力などが同時に上がるのですか? 実際に身体を鍛えるには、毎日の鍛錬の積み重ね以外にないでしょう。時間をかけて少しづつ鍛えられていき、鍛錬を怠れば衰えてしまう。現実はレベルアップみたいに単純にはいかないのです』
「そのあたりは、ゲーム的な要素だしね。数値化しないと強さが比較できないから。それに、レベルという短期的な達成目標をクリアすることによって、ごほうび的に各種パラメータが上がるほうが、プレイヤーのモチベーションにつながるし」
『そんなものは現実にはありえないんです。ありえないんですよ。だから、この世界にレベルなんて存在しません』
「まあね。でも、この世界には神さま由来の特殊なスキルはあるんだから、あまり偉そうなことはいえないよね。ステータスはともかく、スキルの力はどこから取ってきてるんだよ、って話だし」
『え、えーと、その力は、古き神々が第四隔壁の彼方に残した遺物が源泉らしいですよ、仮構機関とかいうらしいですけど』
「苦しくなったらメタフィクションに逃げるのは、どうかと思うぞ」
わかりにくいオチ その2。
第四隔壁というのは「第四の壁」、つまり虚構と現実の間にある壁のこと。もともと演劇用語らしいです。くわしくは適当にググっていただけたら……。
以降、本作にはメタフィクション的な要素が出てきてメタメタになるのでご注意を。
次は、異世界で日本料理作るのって最高にたのしーってかたには、ちょっと不愉快かも。
次回、「街、ハンター、名物料理」。