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華麗なる旅立ち 序章

「欲しい力は決まったかね」


 神を名乗る、目の前の老人が言った。


「はい、決まりました」

「そうか、では言ってみたまえ、どんな能力でも(さず)けると約束しよう」


 俺は考えに考えた能力を老人に披露(ひろう)する。


「なんでも華麗(かれい)にできる能力が欲しい!」


 高らかに告げた。


「えっ?」

「えっ?」


 老人は俺がなにを言っているのか分からない、といった顔をして聞き返す。

 まさか聞き返されるとは思っていなかった俺も、つられて聞き返してしまう。


「えっ?」


 また聞き返された。


「いや『えっ?』じゃなくて、華麗にできる能力をですね――」

「カレーに?」

「はい、華麗に」

「カレーに……か?」

「はい」


 老人は困惑の表情を浮かべる。


「しかしまた、なぜカレーなんじゃ?」

「なぜと言われても……、なんでも華麗にできたら素敵(ステキ)じゃありませんか?」

「ま、まあ素敵……なのかな?」

「食うにも困らなそうだし」

「う、うん。カレーじゃからね」

「ですよね」



[これまでのダイジェスト]


「ぎゃー死んだ」

「ここはどこ? 天国?」

「すまないのお、手違いで死なせてしまったわい」

「神……だと!?」

「元の世界へ帰すのはもう無理じゃが、異世界になら行かせることができるんじゃ」

「いくいく!」

「お()びとして、なにか一つ、欲しい力を(さず)けてしんぜよう」

「くれくれ!」


[ダイジェストここまで]



 なんだろう。

 目の前にいる白髪(はくはつ)白髭(しろひげ)白衣(しらぎぬ)をまとった老人は、なぜだか当惑しているようだ。

 「華麗にできる能力」は、やはりまずかったのだろうか。

 検討に検討を重ねた上で選んだ能力なのだが、やはり万能すぎて無理だということだろうか。


 俺も最初は「最強の剣士」や「世界一の魔術師」になれるような、特定の職業に特化した能力を考えていた。

 しかし、この老人の話を聞いていると、どうやら他の世界からの転生組は少なくないようだ。どんだけ「手違い」で殺してるんだよって話なんだが、その連中にも当然のように「能力」を与えているらしい。

 ということは、俺が降り立つ新世界には「最強」や「世界一」があふれているということだ。

 「最強の剣士」と「世界一の魔術師」が戦ったら、どちらが勝つのか? そんなことがわかるわけもない。


 転生組がかならずしも味方であるとは限らない。敵対する可能性も大いにあるだろう。いや、コミュ障をこじらせている俺の仲間になってくれる可能性は限りなくゼロと言っていい。

 ならば、なんとしても「最強」や「世界一」を凌駕(りょうが)する能力を獲得しなければならないのだ。


 そこで思いついたのが「華麗」だ。

 世界一と戦おうが、最強と戦おうが、俺は最初から最後まで「華麗」に戦うことができる。

 そう、死合(しあい)開始から、死合(しあい)終了まで、俺は一瞬たりとて「華麗」であることを止めることはない。

 「華麗」に戦う人間が、無様(ぶざま)一太刀(ひとたち)浴びせられるさまを想像できるだろうか。

 「華麗」に戦う人間が、ふがいなくも力尽きるさまを想像できるだろうか。

 ありえない、のだ。

 「華麗」に戦い続けられる人間が負けることなど、ありえないのだから。

 問題は、あまりに万能かつ最強すぎて、NGが入るかもしれないことだ。

 さすがにバランスブレイカーにも(ほど)があるからな。

 俺という存在が、降り立つ世界の(ことわり)をも突き崩す特異点(とくいてん)となるのは明白なのだから。


「えーと、やっぱり難しかったですかね。こんな能力を授けてもらうのは」

「いやいや、別に難しいわけじゃないんじゃよ、ただ……」

「ただ?」

「なんでもカレーにできる能力、で本当にいいのかな、と」

「ええ、難しくないのなら、ぜひ欲しいのですが」

「正直、まったく理解できないのじゃよ、こんな能力を望んだ者は初めてなものでな」


 ん、理解できない?

 この老人、「華麗」の有用性にまったく気づいていないだと?

 勝った!

 俺は勝利を確信した。

 神を名乗るも、しょせんはただの老いぼれに過ぎないということか。

 俺が地上に降りてから気づいても後の祭り。

 自らのしでかしたことの重大さに、恐れおののくがいい。

 異世界に最恐(さいきょう)の魔人を放つことになった愚かしさに、うち震えるがいい。

 フハハハハハハ! ハッ、ハッ、ハッ、ヘックシ! うー。


「うーん、俺の中では『華麗』にできるってのは、わりと重要なことなんすよ。他の人にはわからないかも知れないっすけどね」


 気づかれないうちに、ちゃっちゃと能力をもらってしまおう。


「まあ、キミがそれでいいのなら、別にいいんじゃが……」

「もちろん、いいっすよ」

「いちおう言っておくけど、向こうに行ってから変更はできないよ。変えるなら、今が最後じゃよ?」

「大丈夫っす」

「ほんとうにいいのかの? 後悔しないように、もっと慎重に考えたほうがいいんじゃないかな?」


 しつこいね、このじいさんも。


「一生懸命に考えた末の結論ですから、これで行かせてください」

「うーむ」


 老人は長い白髭を指先で()ぜながら考え込む。


「地味な能力に思えるかも知れませんが、これはこれで美味しいところもあるんですよ」

「カレーじゃからね」

「ええ、この能力でやっていく自信があるんです」

「そうか、わかった。そこまで決心しているのなら、もう口は出さない。では、なんでもカレーにできる能力で行くとするか」

「はい!」

「では、行くがよい! カレーと共に」

似たようなアイデアが他作品にあるかもしれませんが、多分それらとはまったく違う方向性の物語だと思います。

あとがきで説明したりしなかったり、いろいろあるので、あとがきも本編にふくまれるってことでどうぞよろしく。

次回、「湖、馬車、テンプレ」。

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