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悪滅凶漢 ~異世界に召喚されし凶暴な男~  作者: サムライドラゴン
本編
4/4

泣く子も泣けない


「もう、いい加減にしろぉー!!!」


 ついに我慢の限界だった・・・。


「なにが勇者だ! お前はただのイカれた危険人物じゃないか!!」


 ブンブン腕を振り回しながら、怒りまくった。

 今まで丁寧な言葉で接していたが、もうどうでもよくなった。

 こいつにはタメ口で十分だ!


「落ち着け、クマ。」

「クマって呼ぶな! セティアだって言ってるだろが!!」


 またクマって呼びやがったよコイツ!

 マジで最悪。


「もういい! 一人で勝手に魔王でもなんでもぶっ倒せばいい! 私はもう帰る!!」


 私は遠慮なく背を向け、帰ろうとした。


「おい待て。 それは別にいいが、俺をこっちの世界に呼んだのはお前だろ? 責任放棄をするのか?」

「私は「勇者」を呼ぶつもりだったのよ。 野蛮人(やばんじん)を呼んだつもりはないわ!!」


 気にせず歩みを進めた。

 茂みに入り、森の奥へ進む。

 後ろは一切見ずに、森を歩き続けた。



 そして数十分後、当然ながら迷子になったのだ・・・。






 あれから何時間くらい経過したのだろうか・・・。

 空はすっかり暗くなってしまい、おそらく夜になってしまったようだ。


 私は暗くなる前に()き火を用意して、なんとか助かった。



 焚き火の煙が闇夜の空に(のぼ)っていく。

 風によって木々がまるで喋っているような音を立てている。

 ・・・少し怖い。


 他には虫の鳴き声しか聞こえず、静かだ。

 ぐっすりと眠れそうなくらいにだ。


 だが、とても眠れそうにない。

 眠っている間に、なにかに襲われてしまったらどうしよう・・・。

 そのような考えをしてばかりだ。


 木を登るのは苦手だし、登ったとしても寝れるとは限らない。

 本当にどうしようか・・・。



 その後、数十分間も焚き火を(なが)めながら夜の森で過ごしていた。


 あの男は大丈夫だろうか。

 魔王のところへ向かっているのだろうか。


 ・・・って、なんであんな男を心配してるのよ!!


 ・・・でも、アイツがいたらどれほど心強いことか。




 その時だった。

 左側の茂みが「ガサガサ・・・」という音を立てた。


「・・・!!」


 誰・・・?

 もしかして、アイツかしら・・・?


 私は思わず立ち上がった。



 ・・・しかし現れたのは、とても会いたくなかった奴だった。

 「(クマ)」である・・・。


 熊は茂みから上半身を出して、私を見ている。

 私は思わず固まってしまった。


 正直逃げたい気持ちで一杯だった。

 だが、熊と速さで勝負しても惨敗するに決まっている。

 ならば、このまま動かないほうがいいのか・・・?


 色々な考えがごちゃごちゃと頭の中で暴れている。

 完全に混乱していた。



 そんなことをしていたら、熊は私に寄ってきた。

 火があれば動物は寄ってこないと思ったのに、全然効果がないじゃない!!


 熊は私を見ている。

 私は目を合わすことだけはなんとしても阻止した。


 ・・・だが、最悪な状況は変わらない。

 ここが私の死に場所なのかしら・・・。

 そんなの、絶対に嫌・・・。



 誰か・・・、助けて・・・。



 ・・・そう願ったとき、救世主が現れた。


「あっ、ここにいやがったか!!」


 現れたのは勇者様だった。

 片手には剣を握っていた。


 「ここにいやがった」という言葉は、一瞬私に言ったのかと思ったが、どうやら目線からして熊の方のようだ。



 勇者様が声を出したことで、熊の目線が私から勇者様の方へ移った。

 そして勇者様は熊に接近し、熊の顔面に剣を振り下ろした。


 その瞬間、熊は顔を傷付けられたせいか、一目散に茂みの中へ入り、森の中へ消えて行った。



「あっ、待ちやがれ!!」


 勇者様は逃げた熊を追おうとした。

 だが、瞬時に私は勇者様にしがみ付いた。


「お、おい、離しやがれ! 俺はアイツを追わなくちゃ・・・」

「お願い! あの時のことは全て謝罪するから、一人にしないでぇ~!!」


 私は涙目で勇者様に(うった)えた。


 彼を行かせてしまったら、今度こそ終わりだ・・・!!

 私の中でそう結論付けていた。


「・・・あぁ?」


 勇者様は訳わからなそうに声を上げた。






 勇者様は私の隣で座ってくれた。

 さっきまでとは違い、とても心強い。


「それにしても、なぜ熊を・・・。」

「狩って食うつもりだった。」


 なるほど。

 熊の肉は美味しいと聞くからね。


「しっかし、クマが熊に襲われるとはな。」


 勇者様は不気味な笑みで笑いながら言った。


「もう、クマじゃないって。」

「・・・?」


 勇者様は不思議そうな顔で私を見た。


「どうした?」

「なにが?」

「さっきまで怒鳴ったりしてたのに。」

「もう、どうでもよくなった。」


 正直、一緒にいてくれるなら“クマ”と呼ばれてもいいや。

 そう思った私だった。


「はぁ・・・。 安心したら眠く・・・。」


 私はすっかり安心してしまい、勇者様に寄りかかって目を(つぶ)った。

 眠る直前、勇者様の「おい!」という声が聞こえたが、そのまま眠りに落ちた。






 そして、次の朝・・・。


 私は地面に寝ている状態で起きた。

 ローブのフードのおかげで汚れずに済んでいる。

 しかし、やはり野宿というのは少し寝起きがキツい。


 なんとか起きた私は周りを見た。

 焚き火は消えていた。

 だが、それより真っ先に探したのは勇者様だった。


 周りを見渡すと、彼の姿がなかった。

 私は立ち上がって、もう一度周りを見渡した。

 木の上なども見た。

 だが、やはりどこにもいなかった。


 ・・・魔王のところに行ってしまったのだろうか。

 私を置いて・・・。



 そう思っていたら、後ろの茂みが「ガサガサ」と音を立てていた。

 私はまた熊かなにかかと思い、急いで近くの茂みの中へ隠れた。


 だが、そこに現れたのは勇者様だった。


「勇者様・・・!」


 私は茂みから出て、彼のそばに近寄った。

 彼は右手になにかを掴んでいた。

 ・・・鹿(シカ)だった。


「その鹿は・・・。」

「朝食だ。 昨日はなにも食べられなかったからな。」


 そういえば、朝食のことを考えてなかった・・・。

 というか、本来は町でするつもりだったんだがなぁ・・・。


 勇者様は(まき)に火をつけ、再び焚き火を作った。

 そして剣を使って鹿をさばき、いつの間にか作っていた細い木の棒に鹿肉を刺した。

 そして焚き火に棒を刺して焼き始めた。


「寄生虫とか大丈夫?」

「知らん。」


 まあ、気にしている暇はないか・・・。






 お腹を満たし、私たちは歩き始めた。


 昨日と同じく勇者様は木を登って周りを確認した。

 しばらくして木から降りてきた。


「あっちだ。」


 勇者様は指を向けた方向に向かって歩き出した。

 私も後に続く。



 勇者様の存在はとても頼もしかった。

 「一人より二人」とはこのことだな。




 私たちは森を抜けた。

 森を抜けると、前方数十メートルに町が見えた。

 当然私たちはその町を目指して歩き出した。



 道中は特になにもなく、無事に町に着いた。


 町には人が多かった。

 ・・・だが、様子が変だった。


 沢山の人々が普通に歩き回っているのであれば、(にぎ)わっているのが普通であろう。

 しかしこの町は、大人はおろか子供までもが静かであった。

 明らかにおかしい・・・。


 「静かな町もあっていいじゃないか。」と言われるかもしれないが、そう言われてもやはりおかしい。

 なぜなら町の人々が明らかに暗い表情をしているからだ。


「この町は一体・・・。」


 私はそう言葉をこぼした。

 すると勇者様がなにかを感じ取ったのか、急に周りを見始めた。

 そしてある方向に顔を止めた。


「ついて来い。」


 そう一言だけ言って、町の(すみ)の方へ歩き出した。

 私はなにがなんだか分からなかったが、とりあえずついて行った。



 町の隅の物陰(ものかげ)に勇者様は身を隠し、通りの方を(にら)んでいた。

 やはり私は状況を理解できていなかったが、とりあえず勇者様の背後に隠れて同じように通りの方を見た。




 数秒後・・・。


 町の人々が一斉に動き出した。

 そして中央を開けるように左右に()けた。


 すると、奥の方から大男がやってきた。

 堅そうな胸当てと鉄でできたフルフェイスの兜、毛深い肌。


 だが、それだけではなかった。


 大男のすぐ後ろからは、鎖と手錠などに繋がれた沢山の子供が一列になって歩いてきた。

 布切れ一枚のみすぼらしい服装で、身体のあちこちに傷があった。


「あれは・・・。」

「奴隷か、または人身売買の品物だな。」


 そうとしか見えないわね・・・。

 可哀想に・・・。



 その後も列は続き、途中で転ぶ子供もいた。

 その子は後ろから来た別の男にムチで引っ叩かれ、無理矢理立たされていた。


 とても見ていられなかった・・・。




「どうする?」

「あの男を斬る。」


 勇者様は簡単にその言葉を言った。


「勇者様・・・!!」

「あの男は強そうだ。」


 ・・・。

 ・・・そういうことだろうと思った。



「おい、貴様ら。 そこでナニをしている?」


 ん?

 誰かしら。


「怪しい奴らめ!!」


 よく見ると、先程子供にムチを打っていた男だった。


 腰に下げていたムチを持ち、こちらを睨みながら構えている。

 そしてムチで攻撃してきた。


「きゃん!!」


 肩に直撃してしまった。

 思わず変な声が出てしまった。


 肩に激痛が走った。

 見てみると、ローブの肩の辺りが破けてしまっていた。

 さらに肌が見えてしまい、赤く傷ができていた。



 痛みを我慢し、再び男を見る。


 男はムチで地面を叩いて、余裕を見せていた。

 そして2、3回叩くと再び構え直し、私たちを睨む。

 すぐさまムチを放ってきた。


 ・・・しかし、余裕を見せていたのが彼の唯一にして最大の失態だった。



 男が構え直していた間を使って、勇者様は急接近していた。

 そして、いつの間にか剣を男の(のど)に突き刺していた。


 当然首から大量出血をしており、男の腕からムチが離れて地面に落ちた。


 さすがに(むご)かったので、私は顔を(そむ)けた。






「時間かかっちゃった。」


 私たちは男を始末し、子供たちの後を急いで追った。

 ちなみに男は町の外の茂みに捨ててきた。


「あの橋を渡ったかも。」


 完全に見失った・・・。

 もう(かん)で探すしかない・・・!


 私たちは急いで橋を渡ろうとした。

 すると・・・。


「待てェい!!」


 急にどこからか男が飛び出してきた。

 見るからに怖そうだった。


 バンダナ、眼帯をしており、ゴリゴリの筋肉質で、強面(こわもて)

 とても強そうだった。


「貴様らをォ通すわけにはァいかねェ!!」


 男は背中に刺していた二本の剣を抜いた。

 どうやら二刀流の使い手のようだ。


「ゆ、勇者様・・・。」

「決まっている。」


 勇者様は一言そう言って剣を抜き、構えた。


 分かってた。

 勇者様ならそうすると・・・。






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