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悪滅凶漢 ~異世界に召喚されし凶暴な男~  作者: サムライドラゴン
本編
3/4

血を見る


 私と勇者様は村の(はし)で待機していた。


 しばらくすると、本当に魔王の手先だと思われる二人が現れた。

 人間だが、邪悪さを感じる見た目をしている。

 特にあのトゲの付いた鎧が・・・。


「ウィー! 今日の分の金と食料をよこせ!!」

「グベラベラ!! 金、食料、金、食料!!」


 完全に狂った人たちだった。

 持っている剣をブンブン振り回して威嚇(いかく)している。


「待ってください! あと2、3時間だけお待ちください!!」


 村長らしき人が土下座をしながら大声で言った。

 それに対し、魔王の手先はまるで球を蹴るように村長の頭を蹴飛ばした。


 村長は当然、横に吹っ飛んだ。


「ウィー! バカめバカめバカめ!!」

「ならば足りない分の痛みを味わって貰うぜ! グベラベラ!!」


 そう言って一人は村長を蹴りまくり、もう一人は周りの住民を襲い始めた。

 村長は人形のように吹っ飛び、住民たちは逃げ回っていた。



「ひどい・・・。」


 私は思わず(つぶや)いた。

 手出しができないことが辛い・・・。


 勇者様はというと、ただ黙って見ていた。

 彼はこの状況をなんとも思っていないのだろうか・・・?

 それとも、ただ表情に出していないだけなのか・・・?




 数十秒後・・・。


「ウィー! 明日また来るからな!!」

「用意できなければ、また今日の続きだからな! グベラベラ!!」


 二人の男は村人から巻き上げた金と食料を持って、笑いながら村を出た。


 村は酷い有様だった。

 村長は頭が()れて気絶している。

 村人の数名も、怪我をしていた。


「勇者様・・・。」


 私は勇者様を見た。

 彼は無表情で村を見ていた。

 すると、後ろを向き歩き出した。


「奴らは村を離れた。 なら、もういいよな?」


 こちらを向かずに、背を見せながら私に話しかけた。

 ・・・どうやら、その気のようだ。


「・・・はい。」


 私は、静かに答えた。






「ウィー! なんて少ねえんだ!」

「奴らにとっては多いらしいぜ。」

「ウヘヘヘヘ・・・。 ヴゥ!!?」


 私は後ろから見ていた。

 ゲラゲラと笑いながら並行して歩いていた男の片方を、後ろから勢いよく殴った勇者様の姿を。


「な、なんだぁ!?」


 殴られた男は振り返り、腰から剣を抜こうとしていた。

 しかしその前に、勇者様の鉄拳が男の顔面にめり込んだ。

 男は後方に吹っ飛びそうになったが、その前に勇者様が男の腰に刺している剣の(ヒルト)を掴んだ。

 そして勇者様は剣を奪った。


「て、てめぇ!!」


 もう一人の男が剣を抜こうとしたが、その前に勇者様が攻撃をした。

 男の頭から下半身までを斬り裂いた。


「グギャアアアァァァー!!!」


 男は身体についた切り口から大量に血が噴き出しながら、地面に倒れた。

 しかし勇者様は攻撃をやめずに、続けて横に斬り裂いた。

 だがそれでもやめずに、何度も何度も斬り裂いた。


 ・・・この人って一体なんなの?

 なんか、とてつもなく怖い・・・。



「グゥゥゥ・・・。」


 殴られて倒れていた男が起き上がった。

 それを確認した勇者様は斬るのをやめた。


「て、てめぇ・・・。」


 そして勇者様は軽く男を斬った。

 男は身体についた切り口を(おさ)えながら、後退した。


「お、覚えていやがれぇ!!」


 すると、男はぎこちない動きで(あわ)てて逃げていった。

 勇者様はなぜか追わずに、その場で突っ立っていた。



「あ、あの勇者様? 追わないのですか・・・?」

「ああ。 あえて逃がして、俺の存在を魔王に知らせるのさ。」

「え? どうしてわざわざ・・・。」

「そうすれば向こうから襲ってくるし、そっちの方が楽だろう。」


 ・・・。

 この人、やっぱりおかしい・・・。


 顔を見ると、邪悪な笑みを浮かべていた。

 こわい。






 私たちは村には戻らず、そのまま逆の方向を歩いていた。


「村のお金と食料を渡さなくて、よかったのでしょうか?」


 巻き上げた金と食料は、そのまま男の死体があった場所に放置した。

 勇者様の話によれば、村に金と食料を返してしまうと村人が傭兵かなにかを雇ったと勘違いされ、滅ぼされる可能性があるらしい。

 男の死体は近くの草むらの中に隠したが、道端に金と食料が入った袋は置いてきてしまった。


「本当にこれで良かったのでしょうか・・・?」

「知らねえ。 戻すくらいなら放置させた方がいいんじゃないか、というただの俺の予想だ。」

「そんな勝手な・・・。」

「なら、お前が村に返してやれ。 俺は行く。」


 勇者様は一切歩みを止めず、どんどん先へ進んでしまう。

 私はしばらく立ち止まって考えていたが、勇者様を見失いそうになって慌てて後を追った。



 それにしても、先程の戦い方はとても「勇者」という立派な肩書きを持つ者の戦い方ではなかった。

 致命傷を負った相手に対して追い打ちをかけるなんて・・・。

 本当にこの人は勇者なのだろうか・・・。


「なんだ・・・?」

「い、いえ・・・。」


 ついつい勇者様の顔をジッと見てしまった。

 それにしても、失礼だが本当に凶悪な面構えの方だなぁ・・・。


「先程盗んだ、その剣二本をこれからの武器にするのですか?」


 後々気付いたが、勇者様は死体から剣を盗んでいた。

 一体いつの間に・・・。


「剣は一本でいい。 こいつは・・・、後でどっかに捨てておくぜ。」


 勇者様は片方の剣を指しながら、そう言った。


「売ったりはしないのですか?」

「だって、使用済みだろ?」

「値段は下がりますが、売ることも可能です。」

「ふーん。」


 そんな会話をしながら、私たちは平原を歩いていた。




「で、クマ。 魔王の住処(すみか)はどっちの方向だ?」

「・・・ん? クマ?」

「目の下に"(くま)"があるから「クマ」だ。」

「・・・わ、私のことですか!!?」


 失礼しちゃう・・・!

 目の下に(くま)があるの、少し気にしてるのに・・・!


「わ、私は"セティア"という名前です・・・!」

「ふーん・・・。」


 勇者様は興味が無さそうだった。


 ・・・あれ?

 そういえば・・・。


「そういえば、お名前を聞いていませんでしたね。」

「今更かよ・・・。」

「すみません。 ・・・で、なんてお名前なのですか?」


 私は距離を縮めて聞いてみた。

 勇者様はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「"鬼怒川(きぬがわ) 全雷(あきら)"だ。」


 ここにきて、ついに勇者様のお名前を聞くことができた。

 アキラ様・・・、というお名前なのか。


「これで満足か。 だったら、さっさと方向を教えろ。」


 あ、そうだった・・・。


「魔王の城は、おそらくここから北東の方向だと思います。」

「そうか。」


 その一言の後に、勇者様は北東の方向に向きを変え、前進し始めた。


「え!? あの、あちらの町に寄らないのですか!!?」

「用はないだろ。 一直線に魔王のところへ行く。」

「ええー!?」


 勇者様は一切歩みを止めずに進んでいく。


 町で買い物とかしなくていいのかしら・・・?

 というか、さっき剣を売ろうとしてたじゃない・・・。


 そんなことを思いながらも、口には出さずに勇者様の後を追った。






 私たちは砂利道(じゃりどう)を外れ、また森の中へ入っていった。

 幸い早く森を抜けれたが、抜けた先が"渓谷(けいこく)"だった・・・。


「ま、待ってください・・・。」

「遅いぞ。」

「す、すみません・・・。」


 なぜ勇者様は、こんな細道をずんずん歩けるのだろうか・・・。

 落ちたら一巻の終わりなのに・・・。


 勇者様はどうやら余裕のようだ。

 私は若干中腰で歩いているのに・・・。



 しかし、ふと勇者様の歩みが止まった。

 どうしたのだろうか・・・。


「あ、あの・・・、勇者様・・・?」


 私は下を見ないように恐る恐る勇者様に話しかけた。

 しかし勇者様は黙って前方を見ている。


 その数秒後、前方から二人組の男が現れた。

 その二人組の衣装は、どこかで見たことのある恰好(かっこう)だった。


「見つけたぜ! お前が武器を奪った奴か!!」


 予想通り、先程の魔王の手先の奴らと同じトゲの付いた鎧を身に着けている。

 つまり、彼らも魔王の手先のようだ。


「俺たちに喧嘩を売ったことを後悔させてやるぜ・・・!」

「まぁ、後悔できる時間があればの話だがな!!」


 ここは細道だし、あまり激しい動きはできそうにないかも・・・。

 とりあえず、退路の確保を・・・。


「・・・って、勇者様!? 後ろからも来てます!!」


 後ろからさらに二体の魔王の手先が現れた。

 どうやら挟まれたらしい・・・。


「ハッハッハッハッ!! 袋のネズ公だぜ!!!」


 どんどん両側から(せま)られている。

 このままでは・・・。



「・・・なあ、確か"空中浮遊"の魔法があったな。」


 勇者様が、小声で私に話しかけてきた。

 背中合わせで。


「ありますけど・・・、どうして・・・?」

「聞きたいことがある。」


 その言葉のすぐ後に勇者様が小声で、"とある事"を聞いてきた。

 それに対する私の答えは「YES」だった。

 それを理解し、勇者様は"ある作戦"を提案してきた。


 ・・・その作戦を聞いて、私は思わず顔が真っ青になった。


「・・・え!? ほ、本気で言ってるのですか・・・!?」

「ああ、頼んだぞ。」

「え!? まだ、やるとは言って・・・」


 私の言葉が終わる前に、四体の魔王の手先が両側から突撃してきた。

 剣を片手に、こちらに突っ込んで来ていた。


「3、2、1・・・、行くぞ!!」


 その掛け声と共に、勇者様は私を持ち上げた。

 そして脇に抱えられ、横に跳んだ。

 ・・・つまり、(がけ)の方へ。


「くっ・・・。」


 私は宙に浮いている1秒の間、覚悟を決めた。


「キャアアアァァァー!!!」


 そして、悲鳴を上げながら落下していった。


 だが、それより真っ先にやるべきことがあった。

 私はなんとか目を開き、地面との距離を確認した。


 そして再び目を閉じ、精神を集中させた。

 もちろん杖を持ちながら。



 次の瞬間、私と勇者様は宙に浮いていた。

 地面までは大体3メートルくらいだった。


 空中浮遊の魔法だ。

 正確には、浮いているのは勇者様だけで私は抱えられているだけだ。

 そして、私は安全を確認して魔法を解いた。


 3メートルの高さから、勇者様は無事に着地した。

 途中、森の木のおかげで減速したのだろう。




 抱えられていた私は、地面に足をついて立った。

 まだ恐怖で不安定だったが・・・。



「助かった。」


 勇者様は私に礼を言ってくれた。

 ただ、言葉に感情はなかったが。


「んじゃ、改めて魔王の住処を目指すか。」


 その言葉と共に、勇者様は歩き出した。



 ・・・だが、私は動かなかった。


「もう、いい加減にしろぉー!!!」


 なぜなら、ついに我慢の限界が来たからだ・・・。






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