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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その17 九次下請け

作者: 天城冴

時の政権にすり寄り、法外な受注額で公共事業を請け負っては下請けに丸投げ、さらにその下請けの下請けを請け負うことで潤ってきたバソナ会長ダケナカ。法の目をかいくぐってきた彼も、こればかりは逃げられなかった…

都心の高級マンションの一室。夜更け近くようやく部屋の主がかえってきた。

「ふう、今回の大規模財政政策に関する受注も我がバソナがとったな。下請けに投げるとしても、この金額なら大満足。もっとも三次、五次下請けでも私の作ったダミー会社が入るからな。ははは」

豪勢なソファにどっかりと座ったダケナカは満足そうにうなずく。

「うん、うん。オオイズミの代からアベノまで、ジコウ党内閣さまさまだな。操りやすいトップのおかげで我々財界人は本当に潤う」

所属する派遣社員から手数料と称して多額の金をむしり取っただけでは飽き足らず、さらに国民の税金を吸い上げようとするダケナカ。新聞を広げて、ちと顔をしかめるが

「ああ、また週刊誌だのが“またダケナカが官僚と癒着して仕事を独占”だの“下請けに丸投げで税金泥棒のバソナ会長”だの騒いでいるが、何、気にすることはないさ。今の政権が続く限り私は安泰だ。そろそろアベノも倒れるが、また次も財界寄りのジコウ党の奴がトップになるんだろうから。バカな下の奴等からいくらでも税金やらを吸い上げられる」

と、強欲オヤジの名にふさわしく、貧困にあげく庶民のことなど眼中にない。

「さあ、もう寝るか、今夜もぐっすり眠れるぞ」

派遣切りで寝床もない若者や、受注した仕事を下請けに丸投げにしたせいで受け取れるはずの給付金が遅れて首をつった事業主など、彼のせいで酷い目にあった人々のことなど全く考えない無神経なダケナカは、贅沢な絹の寝巻に着替え、ふかふかの布団に入って眠りについた。


「もしもし、ダケナカさん、ダケナカ・ヘイゾウさんですね」

「な、なんだ、君は今寝てるとこだが」

「あ、あなた今寝てますから。だから私の声が聞こえるんです」

「え?」

ダケナカの目の前には顔色の悪いやせた男、スーツをきた貧相なサラリーマンのようだ。男は名刺を差し出し

「申し遅れました、わたくしムゲン・ヘル・ナイン・カンパニーのムコウダと申します」

「え、営業かね、それともすでに…」

「いえ、初めてお会いしますので。それに私共の会社は通常の会社とは違っておりますので、会社とのお取引はございません。所謂あの世に所属しておりますので」

「!」

「いえね、昨今、貴方方、この世の業突く張りと言いますか、その皆さんの振る舞いがあまりにひどい。通常この世で刑に服すなり、庶民に袋叩きにされるなり報いをうけるのですが、なぜか、このポンニチ国ではそれもない。なんで、地獄にきてからの刑が異常に長くて重いものになりがちなんですよ。ですので地獄も大変に困りまして。ついに生きているうちから、そのう、報いを受けていただかないと間に合わないということに」

「??」

「いえ、科学的研究というのですか、それがビッグリップだか、宇宙膨張だか、の説がでてきまして、この世も無限じゃないんですってね。というわけで、宇宙の終わりにすべての罪を贖えるようにするためには、この世にいるうちから地獄を味わっていただかなければならない人が出てきたというわけで」

「!」

「わかりやすく言えば、貴方の罪は地獄にいるだけじゃあ、無理なんですよ、償うのは。億、兆の長さでも全然足りない。貴方のせいで苦しんだ人が多いし、逃れた罪も半端ない、おまけにこの世で裁かれそうにないとくればねえ。いやはやどっかの独裁君主なみですよ、最後は狂い死にしたっていう。」

「!!」

「というわけで、ダケナカさん、貴方はこれから死ぬまで、毎晩、責め苦を受けることになります。しかも一夜の夢の中で、何日、何か月、何年分を体験していただくということで」

「!!!」

「通常の物理法則でなくて、えっと速度をすごくあげるとか、別次元にいったりすると時間は縮んだり、伸びたりするそうですね。今回はすごく長く伸ばしているとお考えいただければ。もっともそれにも限界があって数十年程度ですがね」

「オイ!」

怒りと不安を感じながら、ダケナカはムコウダに詰め寄ろうとしたが

「イタ!」

突然、指に鋭い痛みを感じた。見ると爪に太い針が刺さっていた。

「イタ!イタ!」

「前置きが長すぎて、説明する前にはじまりましたか。貴方が受ける罰のはじまりということで」

手足の指に太い針を刺され、ダケナカは悲鳴をあげる。

「イタ!イタ!イタ!」

「痛いですか、貴方の苦しめた庶民はもっと痛い思いをしたそうですよ。ああ、この言い方は私に罰を与えた獄卒の真似なんですけど」

「ア、アンタ」

「いったでしょう、ムゲン・ヘル・ナイン・カンパニーって。地獄の九次下請け組織なんです。私もポンニチの罪人でしてね。この仕事を請け負うことで罪を減らせるんです。しばらくすると、八次、七次の組織の人にタッチしますが。一次にちかくなるころにご臨終ということで。あ、地獄に来て五十年以上のものじゃないと、この裏技は使えないんで、貴方方は無理ですな」

「ソ、ソレジャ、総理の、ウウ、お、お爺さんも、イタイ」

「ああ、ギジダさんもいますよ、七次ぐらいだったけ。お孫さんに罰を与えるなんて苦しいでしょうけど、仕方ないですよね。孫が祖父の罪を償うどころか、ますます重い罪をおかしたんだから。でも、ギジダさん自分だけが可愛いって人みたいですから、気にしないかもしれませんね。むしろ孫を攻め立てたりして」

「あ、アンタだって自分だけだろう。イタタ」

「貴方に言われたくありませんけどね。まあ九次なんて最低クラスの組織にしか所属できないんだから、そういわれても仕方ないですか、部下が死んでもまーったく気にしないってそういわれりゃそうだし。別のとこで分身というか別の私がおんなじように責め苦を受けてますし」

「ええ!」

「まあ地獄ですから、いろいろ。だから責め方もよくわかっているんですよ。貴方が効率的に税金を横流しし、社員やら所属の派遣社員から手数料だのを毟り取ったのと同じように最大限の効果を短時間であげる責め苦をご用意しております」

冷たいムコウダの笑顔にダケナカは凍り付いた。

 ダケナカの長く恐怖に満ちた夜が始まった。


どこぞの国では、感染症の蔓延の渦中にあるというのに国会が閉じられたそうですね。その理由の一つには巨大利権追及から政権トップらが逃れるためとか。しかし、異次元やら、あの世からの追求からも完全に逃れられるのでしょうか。地獄の釜の蓋も開くという四万六千日も近いそうですし、この世できっちり裁きをうけたほうが後々よろしいのではないかと思うのですがねえ。

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