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美波は超特急~異次元の扉を駆け抜けた少女~  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
7/15

美波、強敵グレースちゃんと対決する


九月、運動会の季節がやって来た。

残暑ざんしょはまだきびしい。


運動会の朝、


『ピュー、パーン、パーン!』


号砲ごうほうが鳴った。


開催かいさいを知らせる合図あいずだ。

天気は快晴かいせい、青空には雲一つない。

九月も下旬げじゅんなのに、今日も暑くなりそうだ。


ママは前の晩から、運動会に持って行く弁当の準備じゅんびおおいそがし。

美波の大好きな唐揚からあげやぶた、ポテトサラダ、ちらし寿司ずしなどを作り、重箱じゅうばこめる。ナシやリンゴ、ミカンやブドウなどのデザートもたくさん用意した。


パパは当日の朝早くから場所取りで大変。

ブルーシートや携帯けいたいチェアを両手に、六時頃から学校の正門前に並んで開場を待った。 


開門かいもんされると、良い席を確保しようと保護者たちが一斉いっせいに校庭になだれ込んだ。

みんな必死で、われさきにブルーシートをいて座席を確保する。

パパは運よく見晴らしの良い座席を確保することが出来た。


パパは席取りをした後、朝食のために一旦いったん家に帰って来た。

家に入ると久しぶりにルルが遊びに来ていた。美波を応援に来たのかもしれない。


「ミャーオ」


と甘え声を出しながら、ルルがすり寄って来て、パパのあしに体をりつけた。

パパはソファーに座りながらルルをで、


「正面の良い席が取れたよ」


と二人に報告した。


「パパ、ありがとう。美波、今日絶対一番取るからね!」


と美波が興奮気味に言う。

相当そうとうに気合が入っている。

今にも駆け出しそうな勢いだ。


「ああ、頑張れよ。この三カ月間の特訓の成果を見せてくれ」


とパパが言った。


「まかせて! 私、絶対負けないから!」


と美波は力強く宣言した。



◇◇



開会式が終わると、まずは一年生の徒競走ときょうそうから競技が始まった。


美波の最初の出番は、プログラム八番の四年女子八〇メートル走からだ。

この徒競走ではグレースちゃんとは走る組が分かれてしまっていた。


「くっそー、決着をつけたかったのに」


と言って、美波はくやしがったが、パパはホッとした。

美波が負けるところは見たくなかったのだ。


問題は午前中のハイライト、クラス対抗リレーだ。各学年四クラスずつあるので、三年生以上は学年ごとにクラス対抗リレーが行われる。

 

一組と二組が白組で、白と緑のビブスとハチマキを着ける。

三組と四組が赤組で、赤とオレンジのビブスとハチマキだ。

美波は一組なので白、美波のライバル、グレースちゃんは三組なので赤だ。


男女混合(こんごう)リレーで、各クラスから男女三人ずつ選ばれ、一周百三十五メートルのトラックを男女交代で一週ずつ走る。


もちろん美波とグレースちゃんは、女子のアンカーだ。

二人の一騎打いっきうちになったらどうしようとパパもママも今からドキドキだ。

 

それはさておき、美波の四年女子八〇メートル走が始まった。

美波の走る組は女子の最後から二番目、グレースちゃんは一番最後の組なので、美波の列の真後ろに並んでいる。


だが、普段仲の良い二人も今日は口をきかない。二人ともガチに意識し合っている様子。

 

「美波、がんばれよ!」


とパパが近くまで行って声をかけると、余裕の表情でVサイン。


いよいよ美波の走る順番がやって来た。

グラウンドの中では、赤組と白組の応援団が大きな旗を振って応援合戦繰り広げている。


白組応援団を従え、応援団長の千秋ちゃんが、白いハチマキにはかま姿も勇ましく音頭をとっている。赤組応援団長の男子の声はれていたが、千秋ちゃんの声はんでいて、とても大きく会場全体にひびき渡った。

さすが劇団できたえた声だ。

応援する時の動作も洗練せんれんされていて、とてもカッコい。


[千秋ちゃん見ててね。美波がんばるから]


と美波は心の中で呟いた。


美波を含めた五人の女子がスタートラインに並んだ。美波はスタンディングスタートで前傾ぜんけい姿勢しせいをとる。


『位置について、よーい、パン!』


美波がスタートを切る。

美波は走りにくい一番内側のコースなので、最初は誰が一番なのか分からない。

外側のコースの女子達が前にいるからだ。


しかし、第一コーナーを抜けると、美波が早くも集団からけ出し、アッという間に先頭に立った。後は美波の独壇場どくだんじょうだ。

いつもの様に、


「あの子、えー」


「マジか! 信じらんねー」


とか、驚きの声が上がる。


走り方は少し変だけど、やはり美波は今年も速かった。

一緒に走っている他の女子たちがスローモーションで、美波だけがまるでビデオのコマ送りのように物凄い速さで駆けて行く。

速い、速い、速過ぎる。


後続に十メートル以上も差をつけてゴールイン。テープを切って一着の旗のところに並ぶと、美波はパパとママの方を見てとびっきりの笑顔で手を振った。

 

女子最終組のグレースちゃんも美波に負けずおとらず速かった。


グレースちゃんの走りは、天性のバネと長い手足を活かしたスムーズな走りだ。

体に無駄な力が全く入っていない。

まるで世界陸上で最多金メダルをったアリソン・フェリックスのように流れるような美しいフォームで走る。


美波とは対照たいしょうてきに後半に加速するタイプだ。

今回のレースでも、最終コーナーを回り切るまでは先頭集団にまぎれていたが、後半三十メートルで一気に加速し、集団から抜け出した。


美波と同じく、後続に十メートルほど差をつけてゴールした時は、会場内もどよめいた。


「スゲー、あの子も速えー!」


「さっきの女子より速えーんじゃね」


などと、会場から声が上がった。


グレースちゃんはゴールを切ると、右手を突き上げ高々とジャンプして喜びを表現した。ジャンプの仕方も黒人こくじん特有とくゆうのバネがいている。ゴール前の観客席で待っていた両親のもとにけより、祝福しゅくふく抱擁ほうようを受けた。


美波はグレースちゃんの走りを目の当たりにし、固く唇を引きしめめ顔を紅潮こうちょうさせた。


負けじ魂に火がついたようだった。



◇◇



運動会は各学年の徒競走、低学年の大玉転がしや玉入れ、楽しい表現ダンス、赤組対白組の応援合戦、五・六年生の騎馬戦、三年生のリレーも終わり、午前中の競技は四年生のクラス対抗リレーを残すのみとなった。


いよいよ午前中のハイライト、美波の最大の見せ場がやって来た。

みんなと一緒に駆け足で入場行進してきた美波は引きまった顔つきをしている。


唇を真一文字まいちもんじにむすび闘志とうしまん(まん)の表情だったが、少し緊張気味だ。

グレースちゃんはにこやかな表情でクラス席からの声援に手を振ってこたえている。

 

男女合わせて二十四人のメンバーが、トラックのスタート地点の内側に並んだ。

スタート地点は正面が校舎側、大会運営委員会と来賓らいひんせきの白いテントの前だ。

パパとママがいる席もテントの横なので、全体がよく見渡せた。

 

『位置について、よーい、パン!』


スタートのピストルの音がった。


いよいよ四年生クラス対抗リレーが始まった。一走目は女子だ。

白、緑、赤、オレンジのビブスとハチマキをした女子四人が一斉にスタートを切った。


大声援の中、四人の女子が全力を振りしぼりり一周してスタートラインに戻ってくる。


先頭赤、白二着、緑三着、オレンジ四着で二走目男子にバトンが渡った。

オレンジが若干じゃっかん遅れ気味ぎみだが、各組まだそれほど差は開いていない。


だが、二走目男子で順位が入れかわる。

三着の緑が、一着赤と二着白をごぼう抜きして一着に、赤は白に抜かれて三着に、四着のオレンジがかなり追い上げ赤のうしろせまってきた。


三走目女子にバトンが渡ると、赤はついにオレンジに抜かれて四着に、オレンジは三着となり、そのまま一着の緑と二着の白を猛追もうついする。一着から三着までの差はあまりない。


それぞれいちメートルほどの距離を保って四走目男子にバトンタッチ。

赤はかなり遅れて十メートルほど離された。


次は五走目女子、いよいよ美波の出番だ。


「もうグレースちゃんは、気にしなくても大丈夫だな」


とパパがママに言った。


ところが、四走目の男子たちがゴール前で混戦こんせん、ゴール八メートル手前で白が緑を抜いて一着になったと思った瞬間、ゴール三メートル手前で、猛追もうついしてきたオレンジが白を抜いて一着に、白は二着、緑が三着でゴール地点に団子だんご状態で突進とっしんしてきた。


ゴール少し手前まで出て、白の男子からバトンを受け取ろうと手をばしていた美波とオレンジの男子が交錯こうさくし、美波は受け取ろうとしたバトンをはじき飛ばされてしまった。


オレンジの女子もバトンを受け取るのに間取まどり、その間に三着だったはずの緑の女子が上手うまくバトンを受け取り一着でスタートを切った。

オレンジはすぐおくれて二着でスタート。


美波はバトンを受けそこなった瞬間、呆然ぼうぜんとして泣きそうな顔になったが、すぐに気を取り直してテント前にころがったバトンをひろいに行く。


その間に、遅れていた赤がゴールに到着、グレースちゃんにバトンが渡ってしまう。

赤は三着でスタート。


美波はバトンを拾ってようやく四着でスタートを切った。

グレースちゃんはもう美波の五メートルほど先を走っている。美波は、


「うおおー!」


かんだかたけびびを上げ、もうぜんとグレースちゃんを追いかける。


一着の緑はグレースちゃんの十五メートルほど先、二着のオレンジは緑の二メートルほど後を走っている。


ここからの美波の追い上げはすさまじかった。

爆発的なスタートダッシュで第一コーナーから第二コーナーを抜ける間に、ぐんぐんとグレースちゃんとの距離をめていく。


五メートルほど離されていた美波は、アッという間に三メートルほどグレースちゃんとの距離をちぢめた。


グレースちゃんも負けてはいない。

一度後ろを振り返ったグレースちゃんもギアを上げ、それ以上、美波の追い上げを許さない。


二人の距離は二メートルを保ったまま縮まらなかった。


第三コーナーを抜けるとグレースちゃんが最初に二着のオレンジをとらえ抜きった。

美波も後に続き、直後にオレンジを抜いた。


第四コーナーを抜けるあたりで、グレースちゃんは一着の緑を抜いたが、ここで美波の位置を確認するために、後ろを振り返ったのが良くなかった。


振り返ってまた前を向いた拍子ひょうしにバランスをくずし、少し足をもつれさせてしまう。


美波はその間に、緑を抜き去りグレースちゃんの真後ろまで迫った。

最後の直線三十メートル付近で美波はとうとうグレースちゃんに並んだ。


だがグレースちゃんも後半の伸びが素晴らしい。二人は並走しながら残り三十メートルを駆け抜ける。


二人とも一歩も引かない。


しかし、ゴール手前で美波はとうとう力()きてしまった。足をもつれさせながら六走目の白組男子にバトンを渡すが、グレースちゃんが長身を生かして一瞬先に赤組男子にバトンタッチ。


美波はそのまま前のめりに転んでしまい、地面に両手をついて一回転してしまう。

その横を緑とオレンジの六走目の男子が駆け抜けていく。


グレースちゃんも疲労ひろう困憊こんぱい

トラックの内側にしゃがみ込んだ後、あお向けに寝転んだ。


美波は六年生の運営委員に起こされてトラックの内側に移動した。  

今はトラックの中でしゃがみ込み戦況せんきょうめている。

 

トラックでは男子赤組と白組のアンカーが熾烈しれつなデッドヒートをり広げている。


先頭の赤と白の差は約一やくいちメートル。

赤の男子はサッカークラブに所属しているごう君。白の男子は野球チーム所属の翔太しょうた君だ。

この二人も俊足で有名だった。


二人は一メートの差をたもったまま一歩も引かない。二人に七~八メートルほど遅れて後続の三着緑と四着オレンジもまた熾烈しれつな争いを展開てんかいしている。


第三コーナーを回ったあたりで翔太君が剛君をとらえた。

しかし、剛君のよこりのひじ邪魔じゃまになってなかなか抜けない。


そのまま第四コーナーを抜け直線コースに入ったあたりで、翔太君は思いっきり横に出て剛君に並んだ。


ところが剛君に並んだと思った瞬間、翔太君は頑張り過ぎてひざの力抜けたのか、突然とつぜんガクンとこしとし、地面に両手と膝をつき転倒てんとうしてしまった。


「アーッ!」


「キャー!」


と会場からは悲鳴ひめいが上がる。


しかし、ここからの翔太君の頑張りは物凄かった。地面に両手をついて横ざまに一回転した後、素早く起き上がり、また走り始めた。


普通ならあきらめてしまうところだが、翔太君は違った。足元をふらつかせながらも懸命けんめいに走る。チームの皆のために決して諦めない。


もうすでに、赤はテープを切って一着でゴールしていたが、翔太君はふらふらになりながらも懸命に走った。


走る、走る、もうゴールは目の前だ。

緑とオレンジが真後ろに迫る。

三人はほぼ同時に並んでゴールした。


三人が三つどもえでゴールした瞬間、会場からはドッと歓声がき起こった。


まだ、順位は分からない。ゴール前では先生たちが何か話し合っている。


「偉いぞ、翔太!」


「白組よくやった!」


「美波ちゃんも偉いぞ!」


などと声援が飛んだ。


ゴールした後も、子供たちの死闘しとう圧倒あっとうされた観客は、しばらくの間ざわめいていた。


順位もまだ発表されていない。

先生たちがゴール前に集まってまだ協議きょうぎを続けている。


やがて、運営委員会の六年生の女子からレース結果の発表があった。


『ただ今のレース結果を発表します。

一位赤組赤、二位白組白、三位白組緑、四位赤組オレンジの順でした。なお協議きょうぎの結果、コース妨害ぼうがい失格しっかくはありませんでした。以上、結果発表を終わります』


結果を聞いた瞬間、赤組チームはグレースちゃんを中心に、みんな飛び上がって大喜び。


美波は地面を手でたたきつけてくやしがり、泣き出した。となりに腰を下ろした翔太君も美波の横で泣いている。

周りに白組チームのみんなが集まって来て、二人をなぐさめた。

しかし、結果を聞いた観衆は大歓声だ。


「よくやったぞー白!」


「偉いぞー、翔太! 美波!」


「白組最高!」


などと声が上がり、まるで白組が一位を取ったように、拍手はくしゅ喝采かっさいが会場からき起こった。

クラスの応援席からも、


「美波、泣かないで!」


「翔太、男らしかったよ!」


などと声援が飛んだ。


子供たちの激闘げきとうに圧倒された観衆のざわめきはなかなかおさまらなかった。



◇◇



クラス席に戻っても美波はまだ泣き止まない。心配した彩芽ちゃんが美波にタオルをしてくれた。彩芽ちゃんは控えめで心の優しい女の子だ。美波はタオルに顔を押し付けてずっと泣いている。


「美波、大丈夫か?」


と翔太君が声をかけてくれた。

さすが男の子だ、翔太君は立ち直りが早い。


「ウーッ、ヒック、ヒック、翔太ゴメンね。私がバトンを受け取れなかったから皆に迷惑かけちゃって、ウッ、ウッ」


と美波が言った。


「そんなこと気にすんなよ。美波の追い上げのおかげで白は二位になれたんだ。僕はそれだけで満足だよ」


と翔太君が返す。


「ううん」


と美波は首を振り、


「私がちゃんとバトンを受け取ってれば、絶対一位取れたのに。翔太もあんなに無理して転ばなくてすんだのに、全部私のせいだよ」


と言って、美波はまたタオルに顔をうずめて泣き出した。


「あれは、オレンジがぶつかって来たからしょうがないよ。あれじゃ僕だってバトン受け取れなかったと思うぜ。だから、もう泣かないで、いつもの明るい美波に戻ってくれよ」


と翔太君は言った。


その優しい言葉を聞いて、美波はさらに大きな声で泣き出してしまった。

こうなると、もう誰も手をつけられない。

翔太君も肩をすくめるしかなかった。


運営委員会から午後の日程の案内があり、整理体操も終わると、午前中の結果が発表された。校舎の四階の窓に赤組と白組の総得点が貼り出された。


赤組二八七点

白組二九二点


午前の部は白組が勝利!


白組から大歓声が上がる。

 

「ほら美波、見て見て、白組勝ってるよ! 翔太と美波のおかげだよ」


と未央ちゃんが叫んだ。


クラスの皆が美波と翔太君の肩や背中を叩き大喜び。美波も顔を上げ、掲示板を見てホッとしたように笑顔を見せた。



◇◇



昼休み。


美波はパパとママがいる席で、ママが腕によりをかけて作ってくれた美味しいお弁当を食べた。


もう泣き止んで、いつもの明るい美波に戻っている。


「美波、よく頑張ったな! お前、グレースちゃんより速かったぞ、パパ驚いたよ!」


とパパがめてくれた。


「ううん」


と美波は首を振り、


「そんなことないよ。グレースが後ろ振り向いたりしなければ、私あそこまで追いつけなかった。アイツは後半に伸びるタイプだから、また差がついたと思う。私は前半に強いタイプだけど、グレースは後半に強いタイプなのよ」


と美波は言った。パパは腕組みしながら、


「うーん、言われてみれば、確かにそうかもしれないな」


とうなずいた。


「たぶん私とグレース、まったく同じくらいの実力ね。あんな足の速いヤツ見たことないわ。私、週一回だけでもいいから、やっぱり陸上クラブ入ろうかな。このままじゃ、来年は負けちゃうわ」


と美波は言った。



◇◇



午後の部が始まったが、美波の午後の出番は表現ダンスくらいだ。


美波は午前中とはうって変わり、リラックスして運動会を楽しんだ。

もちろんクラス席では応援歌を歌いながら一生懸命白組を応援した。

午後の応援合戦の時は、千秋ちゃんたち応援団が美波のクラス席のすぐ前まで来て、音頭おんどを取った。


四年生の表現ダンスは沖縄のエイサーおどりだ。美波は緑のハッピに紫のターバンのようなものを頭に巻いて、エイサーを踊った。

美波は終始ニコニコ顔で、仲間と一緒に、


『イーヤーサーサー』


と掛け声を出しながら、楽しそうに踊った。


四年生と五年生の表現ダンスの合間に、高学年の綱引きや大玉転がしなども行われた。

それぞれ見応えはあったが、やはり六年生の組体操はぐんいて素晴らしかった。

さすが六年生だ。


先生たちの指導の下、みんながよく訓練を積んでいて一体感があった。

一人ひとりが、つま先から手の指先にまで神経しんけいがよく行き届いていて、一致団結して人間ピラミッドやウェーブなどの難しい技を次々に成功させていった。


特に、六年生全員で大きくて複雑なウェーブを成功させた時は、観衆から感嘆かんたんのため息がれた。組体操って本当に感動的で美しい。


いよいよ午後の部のフィナーレ。

五年生と六年生のクラス対抗リレーが、会場全体からの大歓声と大興奮こうふんの中で行われた。


美波たちも声も枯れよとばかりに、最後まで白組を一生懸命応援した。


五、六年生のリレーは、美波たちのレースほど劇的な展開ではなかったが、運動会の最後をかざるにふさわしいレース内容で、赤組も白組もほぼ互角ごかくの戦いだった。

やはり、高学年はみんな体も大きいし、とても迫力があった。六年生の男子なんて、先生たちより大きい子がいるんだもの。


だが驚いたことに、パパが試しに六年生で一番速い男子のアンカーのタイムをストップウォッチで計ってみると、美波とグレースちゃんの方がより速いタイムで走っていることが分かった。パパは自分の目を疑った。


美波は体育の授業で、同じ学年の男子と競争しても、一度も負けたことがないと言っていたが、まさか六年生の男子より速いとはパパも思っていなかった。


[そろそろ美波も陸上クラブに入って、本格的に陸上を習った方が良い時期かもしれないな。子供の才能をばしてあげるのも親のつとめだ]


とパパは思った。



◇◇


 

午後の部も無事終了し、閉会式が行われた。


結果発表をみんは固唾かたずをのんで見守った。


運営委員会の六年生の女子が朝礼台の上に

登る。



『ただ今から、結果発表を行います。

みなさん、得点掲示板にご注目ください』


得点掲示板は、今は一旦すべての数字が抜き取られ白紙になっている。


『それでは発表します。


赤組一の位二、白組一の位六。

赤組十の位一、白組十の位九。

赤組百の位六、白組百の位五。


赤六一二点。

白五九六点。


よって、今年の運動会は赤組の勝ちです。

以上で結果発表を終わります』



赤組はみんな飛び上がって大喜び。


白組のみんなからは、


「ああー」


とため息が漏れた。


「あーあ、ちくしょう!」


「あー残念、くやしい!」


などと声が上がる。


美波も唇をみしめて悔しそうだ。

中には泣き出す女の子もいる。



音楽が流れ、校長先生から赤組応援団長の男子に優勝旗が手渡され、白組応援団長の千秋ちゃんには準優勝のたてが手渡された。


千秋ちゃんも少し悔しそうだが、例のサバサバした感じで笑顔を見せた。



やがて、校長先生から運動会を総括そうかつし次のようなお話があった。



『赤組のみんな優勝おめでとう。白組のみんなも準優勝おめでとう。今日は赤組のみんなも白組のみんなも力を合わせて、よく最後まで頑張ってくれました。先生はみなさんの頑張りを見てとても頼もしく感じました。特にクラス対抗リレーで、転んでも諦めずに直ぐに立ち上がって、仲間のために最後まで走り切った四年生の男子。さらには、バトンを弾き飛ばされても決して諦めずに最後まで走り抜いた四年生の女子。彼らの姿を見て先生はとても感動しました。先生は今日の運動会のことを一生忘れません。白組は負けはしましたが、私は心の中で、白組にも優勝旗をあげたいと思います。赤組おめでとう! そして、白組もおめでとう!』

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