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美波は超特急~異次元の扉を駆け抜けた少女~  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
6/15

美波、おじいちゃんのお墓参りに行く


八月、夏まっ盛り。

青空に入道雲がまぶしい季節。


ぼんやすみになると、美波はパパとママと一緒に静岡のおばあちゃんの家に遊びに行った。

美波はおばあちゃんが大好きだ。

門の中に入ると、


「おばあちゃーん!」


と言って、美波は駆け出した。


「美波ちゃん、よく来たねえ。また大きくなったねえ」


と言って、おばあちゃんは玄関で美波を抱きしめ三人を迎えてくれた。


美波は赤ちゃんの頃から、おばあちゃんには本当にお世話になっている。

美波が生まれて間もない頃は、東京まで出て来てくれて、半年ほどパパとママの家に住み込んで美波の面倒めんどうを見てくれた。


もちろん、おじいちゃんにもお世話になったが、おじいちゃんはもう六年ほど前に亡くなった。美波が三歳の頃だったので、おじいちゃんのことは、あまりよく覚えていない。


でも美波がまだよちよち歩きの頃、近所にある久能山くのうざんに、おじいちゃんが美波の手を引いて、散歩に連れて行ってくれたことだけは、なぜかハッキリ覚えている。


久能山くのうざんは徳川家康がまつられている神社で、山頂の東照宮とうしょうぐうまでは千段以上の階段を登らなければならない。

おじいちゃんは、美波がまだ小さかったので山には登らず、入り口の鳥居の近くにある駄菓子屋さんで、よくあめ饅頭まんじゅうなどを買ってくれた。


「ほら、美波ちゃん、食べるかい?」


と言って、ニコニコ笑いながらおじいちゃんは買ったお菓子を美波に手渡してくれた。

本当に優しいおじいちゃんだった。

今回はお盆休みなので、おじいちゃんのお墓参りもかねて、三人で静岡まで遊びに来たんだ。


その日は、夕方近くに着いたので、どこにも出かけなかった。

夜はおばあちゃんが地元の海産物かいさんぶつなどをふんだんに使った手料理でもてなしてくれた。

久しぶりにおばあちゃんと四人でゆっくり食事をし、お風呂に入ると早めにとこいた。

だけど、美波は興奮して眠れず、


「ねえパパ、枕投げやろうよ」


と言って、パパに枕を投げつけた。

パパもしばらくつき合っていたが、


「もう、いい加減にしなさい!」


とママ叱られた。

それを見たおばあちゃんが、


「あら、あら、まあ元気なことねえ。あなた達が来るとにぎやかになって私も楽しいわ」


と言って笑った。



◇◇



二日目は、朝から四人でおじいちゃんのお墓参りに行った。

おじいちゃんのお墓は日本にほんだいらの近くにあった。


日本平は駿河湾するがわんや富士山、伊豆半島いずはんとうなどが一望いちぼうできる見晴みはらしのい山だ。

おじいちゃんのお墓はその山の近くにあった。


とても広い霊園れいえんで、広大な敷地には緑の芝生しばふが果てしなく続いている。

暑い中、美波が大喜びでその芝生の上を駆け回るので、ママは美波が熱中症ねっちゅうしょうになりはしないかと心配した。


「美波、もういい加減かげんにこっちに来て! おじいちゃんのお墓にお参りしなさい」


とママが美波を呼んだ。


美波はようやく、おじいちゃんのお墓の前に来た。おばあちゃんから言われた通り、墓石はかいし柄杓ひしゃくで水をかけたり、お線香せんこうをあげたり、生花せいかをおそなえしたりしている。

さっきとは打って変わって、とても神妙しんみょうな顔つきだ。美波は両手を合わせ、


「おじいちゃん、天国で私たち家族を見守ってね。お願いします」


つぶやいた。


お墓参りが終わり、昼過ぎにおばあちゃんの家に戻った。ソーメンやスイカなどの簡単な昼食をとった後、


「今日は久しぶりに、久能山くのうざんにでも行ってみるか?」


とパパが提案した。おばあちゃんは、


「私は疲れたから、三人で行ってらっしゃい」


と言って、三人を送り出してくれた。


おばあちゃんの家から久能山の入り口までは、歩いて十分ほどだ。

久能山の入り口に着くと、


「パパ、競争しよう!」


と言って、美波は走り出した。


「この階段、千段以上もあるからあまり無理するなよ!」


と言って、パパも追いかけたが、美波にはとてもかなわない。

たくさんの観光客の間をすり抜け、アッという間に美波の姿が見えなくなった。


久能山の中腹ちゅうふくの見晴らし台で、汗をぬぐいながらパパが休んでいると、頂上まで行って戻ってきた美波が、


「パパ遅い、何やってるの。 ママは?」


と訊いた。


「知らない。まだ下の方にいるんじゃないか」


とパパは息を切らしながら答えた。


「じゃあ私、ママを探してくるね」


と言って、またアッという間にいなくなった。十分ほどして戻ってきた美波は、


「ママって、本当に運動不足ね。パパ、先に頂上まで行って待ってよ。私なんてね、また入り口まで下りて戻ってきたんだよ」


と言って、パパの手を引いた。 


東照宮の入り口付近で、二人がアイスクリームを食べながら待っていると、やっとママが上がってきた。

ママは顔を真っ赤にし、タオルでほおかむりをしてハアハア言っている。


「ママ、遅いよ!」


と言って、二人はブーブー文句を言った。


その後、また急な階段を上がり、東照宮に三人でお参りした。

ママはまだハアハア言っている。

規模きぼは小さいけど、栃木県にある日光にっこう東照宮とうしょうぐうによく似ている。

とてもカラフルで美しい神社だ。


神社でのお参りが終わると、神社の裏手にある徳川家康のお墓にお参りした。

古いけど、とても威厳いげんのある大きなお墓だ。

ここに来ると、美波はいつも神妙な顔になり、静かにお墓に向かって手を合わせる。

家康のお墓には、やんちゃな子供でもおとなしくさせるおごそかな雰囲気があった。

美波もここで駆け回ったりはしなかった。


神社を出ると、ロープウエイで日本平の山頂まで行った。展望台に登ると、時折吹く風が心地よかった。

日本平という名前は日本武尊やまとたけるのみことにちなんでつけられた。


展望台からは富士山や清水しみずこう三保みほ松原まつばらなどが一望できた。

遠くには伊豆半島がかすんで見える。

本当にいい眺めだ。

美波はここに来ると、いつも胸が晴れ晴れし、とてもい気分になる。

パパが三保の松原の方を指さして、


「明日はあそこに行ってみようか?」


と美波とママに訊いた。


「うん、行きたい、行きたい、やったー!」


と美波は喜んだ。



◇◇



三日目は早朝から清水港に三人で出かけた。


「私は何回も行ったから、今日は親子三人水入(みずい)らずで行ってらっしゃい」


と言って、おばあちゃんは送り出してくれた。


清水港から三保の松原に行くには、船に乗るのが便利だ。

船に乗ると、たくさんのカモメが寄って来たので、美波は船の中で買ったエサをカモメに向かって投げた。すると、カモメも慣れたもので、空中で美波が投げたエサをくちばしで器用きように受け取って食べた。


対岸の船着き場につくと、三人は路線バスに乗って三保の松原に向かった。

三保の松原近くのバス停で降りると、三人はしばらく一般道いっぱんどうを歩き、三保の松原に向かう板敷いたじききの歩道に出た。

すると、美波はまた喜んで駆け出した。

たくさんの観光客の間をすり抜け、アッという間に姿が見えなくなる。

パパとママは顔を見合わせて笑った。


三保の松原はやはり何度来ても美しい。

天気が良かったので、雄大ゆうだいな富士山がクッキリと見える。

まるで浮世絵うきよえみたいだ。

いや浮世絵よりも、現実のこの景色の方が素晴らしい。

海の水もエメラルド色に輝いてとても綺麗。


美波とパパはしばらく海岸で石投げをして遊んだ。この辺りの海岸は石が多い。

パパが投げると、三回も四回もバウンドして海面を石が転がっていく。

美波も負けず嫌いなので、何度も挑戦ちょうせんした。

すぐに上達し、美波も三バウンドまではいくようになった。でもママは、


「もう、危ないから止めなさい!」


と二人をたしなめた。


石投げが終わると、美波は海岸のクネクネ曲がった松の木に登り始めた。

風雪を重ね、海風を受けて湾曲わんきょくした大きな松だ。さすがにこれは危ないので、パパも美波を止めた。


「美波、そこから落ちたらどうするつもりだ。骨折して、運動会出られなくなるぞ!」


とパパは言った。

かなり高いところまで登った美波もこわくなったのか、松のみきの低い所まで恐る恐る下りてくると、パパが差し出した腕の中に飛び込んだ。


その後、天女が舞い降りたという、羽衣はごろも伝説でんせつで有名な大きな松に手を合わせ、三保の松原を後にした。


そして、三人はバスに乗って、三保みほ真崎まさき海水浴場に向かった。

三保の松原は遊泳ゆうえい禁止きんしなのだ。


三保真崎海岸は正面に絶景ぜっけいの富士山をながめながら泳げる美しい海水浴場だ。

長くびた防波堤ぼうはてい先端せんたんには、真っ白な灯台とうだいがあって、富士山を背景に青い海とのコントラストが抜群ばつぐんだ。


波打ちぎわには小石が多く、海も遠浅とおあさではないので子供向きではなかったが、パパとママはここが好きで、美波が生まれる前から、よく二人で足を運んでいた。


パパとママはビーチパラソルの下でのんびり横になって過ごしていたが、美波は大喜びで砂浜を駆け回った。砂山を作ったり、


「おばあちゃんへのお土産みやげだよ」


と言って、綺麗な貝殻がらひろったり、寝ているパパの体の上に、砂を盛りあげてかためたりした。


「重いから、もう止めてくれ」


と言ってパパは逃げ出し、海に入った。

美波も浮袋を持ってついて行き、しばらく二人で海の中で遊んだ。


「ザブーン、ザブーン」


と波が来る度に、


「ぎゃあー! パパ、助けてー!」


と美波はパパの腕をつかみ、大声を上げて喜んだ。そこで夕方までたくさん遊んだ後、三人は帰路に着いた。



◇◇



四日目、いよいよ東京に帰る時が来た。


「私、帰りたくない。おばあちゃんと一緒に、いつまでもここに住みたい!」


と言って、美波は泣いた。


「美波、パパもママも明日からお仕事なの。わがまま言わないで。おばあちゃんもこまってるでしょう? さあ、早くしなさい」


と言って、ママは美波に帰り支度じたくをさせた。


門の前にタクシーが迎えに来た時、玄関先で美波を抱きしめたおばあちゃんは、


「また、冬休みに遊びにおいで。パパとママの言うことをよく聞いて、い子でいてね。体を大切にしてね」


と目に涙を浮かべながら言った。


「うん」


と美波は小さくうなずき、


「おばあちゃんも元気でね。冬休みになったら、また絶対来るからね。待っててね」


と言ってタクシーに乗り込んだ。


おばあちゃんはタクシーが見えなくなるまで、門の前でずっと手を振った。

美波もおばあちゃんの姿が小さくなって見えなくなるまで、タクシーの後部座席からずっと手を振り続けた。

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