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美波は超特急~異次元の扉を駆け抜けた少女~  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
4/15

美波、陸上の練習を開始する


六月に入りしばらくつと、美波の風邪かぜ

すっかり完治かんちした。


今は梅雨つゆ季節きせつ


学芸会が終わった後、美波は千秋ちゃんから熱心ねしん劇団入げきだんいりをすすめられた。


でも美波は、


「私、劇団でやっていく自信がないの。

ゴメンなさい」


と言ってことわった。


千秋ちゃんはとても残念ざんねんがったが、れいのサバサバした調子ちょうしでアッサリあきらめてくれた。


「そっかー、でも美波なら、絶対ぜったいやっていけると思うけどな。だけど本人がやる気にならなきゃ無理むりすすめても仕方しかたないしね。じゃあもしやる気になったら、いつでも私に声かけてね」


と言ってくれた。



◇◇



六月後半になると、美波はパパと一緒に毎朝

運動会に向けてトレーニングを開始した。


保育園のころは男の子とサッカーばかりして遊ぶだけで、陸上りくじょうの練習なんてしたことがなかった。でも小学校に上がってからは、運動会の三カ月前になると陸上の練習をすることにパパと決めていた。


「私、足の速さだけは誰にも負けたくないの。だからパパ、私に陸上教えて。明日から一緒に練習しよ」


と美波が言い出したのは、三年前の小学一年の時。ちょうど今と同じ季節、運動会の三カ月前だった。


「パパはわかいころ野球やきゅうはやってたけど、陸上りくじょうはやったことないぞ」


とパパが言った。


「ええーっ、もう、大人おとななんだから何だっておしえられるでしょ!」


と美波がおこる。


大人おとなだからって、何でも知ってるわけじゃないよ。こまったなー」


と言って、パパはしばらくかんがえていたが、


「じゃあ、陸上りくじょうクラブでもさがしてみるか?

パパもお前は足が速いけど、はしかたへんだから一度いちど専門家(せんもんか)指導しどうけたほういと思ってたんだ」


提案ていあんした。


「えっ、本当? やったー!」


と美波はよろこんだ。


ところが、パパがいざネットで調べてみると、なかなか近所に適当てきとうな陸上クラブが見つからなかった。


一番近いクラブまで電車で二時間近くかかる。これじゃあかようのが大変だ。


結局けっきょく、パパがネットや本で陸上の指導法しどうほうを調べて美波に教えることになった。



「美波、お前は足の回転かいてん素晴すばらしいけど、腕のりがよくないな。右腕はよく振れてるけど、左腕があまり振れてない。それに顔もアゴが上がり過ぎだ。もっとアゴを引いて、両腕を同じくらい均等きんとうに振らないとダメだ。太モモはもっと高く上げた方がいな」


とパパがはじめて指導しどうした時に言った。


「えっ、そう? 分かった。やってみる」


と美波は言って、最初のうちは素直すなおに言うことを聞いていた。

パパの指導しどうしたがってうでりやもも上げ、フォームをくするための反復はんぷく練習を熱心ねっしんかえした。

でも走る姿勢しせいは、なかなかわらない。

意識いしきして走っている時はかったが、全力疾走(しっそう)になると、また悪いフォームに逆戻り。

一進一退いっしんいったいだった。


そして、しばらくつと、


「もういい! 美波は自分の走りたいように走るから!」


と短気を起こし、パパの言うことをまったく聞かなくなった。


パパは仕方しかたなく、基礎きそ体力たいりょくたかめるトレーニングに比重ひじゅうくことにした。

坂道さかみちダッシュや階段かいだんダッシュ、スタートの練習を重点じゅうてん訓練くんれんした。


「パパ、私こっちのほうが、モモげや腕振うでふりの練習よりたのしい!」


と言って美波はよろこんだ。



パパは美波にうつくしいフォームをにつけてほしかったが、美波の脚力きゃくりょくにまだ上半身じょうはんしんちからいついていなかった。


たしかに美波の身体からだは、ふくらはぎやふとモモの筋肉きんにくは、普通ふつうの子供より格段かくだん発達はったつしていた。でも、上半身じょうはんしんはひょろりとしてせていた。だから、足の回転かいてんの速さに腕の振りがついていけず、アンバランスなフォームになる。くるしくてアゴもがってしまう。


[もっと、身体からだ成長せいちょうするまでは、無理むりにフォームを矯正きょうせいさせないほういな。そうしないと、美波の素晴すばらしい脚力きゃくりょくだいしになるかもしれない]


とパパはかんがなおした。



それから今年で四年目になる。今年もまた、美波とパパのトレーニングが始まった。


特に今年は、グレースちゃんという強力きょうりょくなライバルが出現しゅつげんしたので、美波の練習にも一段いちだんちからはいる。


グレースちゃんは、お父さんがアフリカけいアメリカ人で、お母さんが日本人のハーフの女の子だ。今年四月に神奈川から親子三人で越してきた。日本語も英語もペラペラ。

性格も明るく成績も抜群ばつぐん

美波と同じで、アッというにクラスの人気者にんきものになった。五月の学芸会では第三幕で主役を演じている。

神奈川では陸上クラブに入っていて、大きな大会にも出たことがあるそうだ。


黒人特有(とくゆう)のバネのきいた身のこなしとリズム感を持っていて、長い手足をしている。

チリチリにパーマのかかった、こしまでとどきそうな長い髪は、うしろで無造作むぞうさたばねている。

目が大きくて、はだいろくろいというよりも褐色かっしょくだった。笑うとしろがこぼれて、とてもチャーミング。一三五センチの美波より七センチほど背も高い。

今も週二回はお父さんの車で送ってもらい、神奈川の陸上クラブに通っているそうだ。


美波とは気が合うのか、クラスは違うがすぐに仲良しになった。

今は時間が合えば一緒に登下校とうげこうする仲だ。

だけど、おたがいに気を使って、あまり陸上の話はしない。

一度だけ、グレースちゃんが美波にいたことがある。


「美波ちゃんて、どうしてあんな走り方で速く走れるの? 気を悪くしたらごめんね。私、昼休みに美波ちゃんが校庭を走ってるところを見たことあるけど、すごいと思ったの」


「えー、分かんない。パパからもフォームをなおすように言われたんだけど、私、どうしても綺麗きれいなフォームで走れないの。小さいころからのクセがけないの。ぎゃくくけど、グレースちゃんはどうして、走り方が綺麗きれいなの? 私の方こそ不思議ふしぎよ」


と美波もいた。

美波も以前、校庭でグレースちゃんの走りを見たことがあり、脅威きょういを感じていた。


「私も分かんない。陸上クラブに小一の時から行ってるからかな。美波ちゃんは陸上クラブ入らないの? 速いのにもったいないよ。

美波ちゃんだったら、全国大会出ぜんこくたいかいでれるのに」


とグレースちゃんは言った。


「うーん、以前いぜん、パパと検討けんとうしたんだけどね。とりあえず、今はパパと二人で基礎体力きそたいりょくのトレーニングだけしようって決めたの。階段ダッシュとかね。もう少し体が成長せいちょうしてからでもおそくないってパパが言ってた」


「ふーん、そうなの」


二人ともそれ以上いじょうんだ話はしなかった。


でも、美波はけずぎらいだ。


「私、足の速さだけはだれにもけたくないの。グレースちゃんにもね!」


と美波はパパが仕事から帰ると言った。

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