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美波は超特急~異次元の扉を駆け抜けた少女~  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
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エピローグ


十一月、紅葉の季節。


秋晴れの空がすがすがしい。


もう直ぐ、美波の小学校の音楽祭だ。



パパと美波は、あれから警察署に出頭しゅっとうし、

事情聴取を受けた。

 

パパは一人で、美波は別室でママと一緒に

事情聴取を受けた。


だが二人が異次元の世界で陸上の練習をして

いたことを、いくら熱心に説明しても、警察

はまったく取り合ってくれなかった。


担当官はパパに、


「あなた失業して相当頭がまいってますね。明日から娘さんと一緒にカウンセリングを受けて下さい。今回は初めてのことなので警察も大目に見ますが、今度こんなことをしたら、たとえ親子でも犯罪になりますよ。娘さんも別室で、全くあなたと同じようなことを言っておられる。あんなに可愛いお嬢さんなのに可哀想だ。娘さんも精神的にかなり参っておられます」


と言った。


パパは仕方なく反省の態度を示し、今回は厳重げんじゅう注意ちゅういのみということで釈放しゃくほうされた。


家に帰ると、


「警察って頭が硬いよね。まったく、何様のつもり!」


と言って美波は腹を立てた。


だけどママは、


「美波、そんなこと言ったらダメよ。警察の人たちも本当に一生懸命あなたたちのことを探してくれたのよ。ママだって昨日、電話であなたたちの話を聞いた時は信じられなかった。でも、今日実際にあなたたちを見て信じる気になったの。あなたはこの三日間でずいぶん日焼けしてるし背も伸びてる。パパもずいぶんたくましくなったわ。それに何よりもパパのあの古代ギリシャ服と革のサンダルが確かな証拠しょうこよ。あんな物、そう簡単に手に入る物じゃないわ。ママは誰が何と言ってもあなたたちを信じるから」


と言って、美波をたしなめた。



ママは前日、パパと美波からの電話の後、

未央ちゃんや彩芽ちゃん、桜ちゃん、担任

の村神先生に直ぐ連絡を入れた。


この四人は美波が行方不明中、とても心配してお友達と連絡を取り合い、一緒にいろんな場所を探し回ってくれた。


みんなは美波の帰還きかんを聞くと、泣いて喜んでくれた。



◇◇



結局、美波は学校を三日休んだだけで通常の生活に戻った。


ルルもあの後、瀬田さんの家に戻った。

今でも時々、美波に会いに来てくれる。


いつものように、玄関先でキチンと前足を

そろえて待っている。


だけど、しばらく姿を見せない時もある。

そんな時、美波はこう思う。


[また異次元の扉をくぐり抜けて、どこかの不思議な世界に行っちゃったのかな?]


ルルは異次元の扉の場所を知っているはずだが、四六時中しろくじちゅうルルを監視かんししているわけにもいかない。


元来がんらい、猫という動物は神出鬼没しんしゅつきぼつだ。


ひょっとしたら、猫にしか通れない異次元の扉が、この世界のどこかにあるのかも。



◇◇



音楽祭で美波は、クラスの皆と一緒に、

『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』

と『この星に生まれて』という曲を鍵盤けんばん

ハーモニカで演奏えんそうした。


負けず嫌いの美波は、音楽祭の前に、パパと

一緒に猛特訓。パパも夜遅くまで美波の練習

につき合った。


「パパは出演しないから、吹かなくてもいい

だろう」


と断ったのに、美波はパパに無理やり鍵盤

ハーモニカを演奏させ、


「パパ、そこは違うよ。もっとテンポ上

げて! 違う、違う、もう一回やり直し!」


などと、自分が音楽監督のように振舞う。



パパは学芸会の時の様に、どちらが特訓され

ているのか、また訳が分からなくなった。




◇◇



異次元の世界から戻っても、二人は毎朝陸上のトレーニングを続けている。


筋肉を休ませなければいけないので、土日と雨の日は休養日。



神社での階段ダッシュも練習メニューに入っているが、二人は神社の裏の森には決して近づかない。


一人ではあの神社に行かないことも、

二人は約束した。



陸上クラブには入らず、今後もパパと一緒に練習を続け、来年の夏には個人の資格で全国大会の東京都予選にエントリーする予定だ。


「グレースも絶対、神奈川県の予選を勝ち上

がって全国大会に出て来るはずよ。私、絶対

負けないから!」


と美波は闘志満々だ。



◇◇



パパは今、隣町のファーストフード店でアルバイトをしながら、就職先を探している。


異次元の世界から戻って、パパは急に若返ったみたい。


五十代半ば過ぎのパパは十歳以上若返って、

今では四十代前半に見える。



パパは最近、土日に地元の少年野球チームのコーチを始めた。


運動会で活躍した翔太君に頼まれたんだ。

翔太君に頼まれたらパパも嫌とは言えない。


「パパ、やってみれば! 翔太の頼み、

聞いてあげて!」


と美波もお願いした。



パパの指導は、理論的で分かりやすいと

子供たちに評判だ。



◇◇



ある日、美波がパパに訊いた。


「ねえ、パパ。結局あの黒いボールって何だったのかしら? あの異次元の扉もさ、最後はゼウス様の雷霆らいていこわされちゃったでしょ? 私あの世界って、もう無くなってるような気がする。もしかしたらあの世界って、宇宙人の仕業しわざとかじゃなくて、ゼウス様がつくった世界だったのかもね」


「そうだな、あの異次元の世界は、現在・過去・未来の時制じせいに関係なく人々が共存きょうぞんできるような世界だったのかも知れないな。あの黒いボールの中には小さな雷がいくつも見えたろ? ゼウス様の最大の武器は雷なんだ。そう考えると、あの黒いボールはゼウス様の武器の一つだったのかもしれないな」


とパパが言った。


「そっかー! だけど、何でゼウス様は私たち

親子をあの世界に呼び寄せたのかな?」


と美波が首をかしげながらいた。


「それは、パパにもよく分からない。ただ、ギリシャ神話に出てくるゼウス様は何度も浮気して、結婚と離婚を繰り返した結構けっこう人間にんげんくさい神様なんだ。もしかしたら、ゼウス様はただなつかしくて俺たち親子を呼び寄せたのかも知れないな。あの親子は昔生きてた時と同じ様に、今でも困難こんなんに負けずに、ちゃんと頑張ってるかな? あの時と同じように、異次元の扉を駆け抜けることが出来るかな? ってな」


とパパが言った。


「うーん、なるほど。じゃあ、ゼウス様は時間を超越ちょうえつして、現代の私たち親子と、過去の私たち親子を試したわけか。そう考えると、たしかに素敵ね! うん、分かった。私とりあえず、今のパパの意見に賛成さんせい!」


と美波がうれしそうに言った。



二人はしばらく、ゼウス様の威厳いげんある姿を頭の中に思い浮かべた。



玉座ぎょくざに腰かけた象牙色ぞうげいろの巨大なゼウス像は筋骨隆々で、今にも動き出しそうにリアルだ。


眼は大きく、豊かな長髪と長いひげを生やしている。


左手に槍のような長い棒を地面に突き立てて持っていた。先端には鷲が止まっている。


玉座の左の肘かけには、勝利の女神ニケの彫像ちょうぞうっていた。右手には両端りょうたん三叉さんさ

に分かれた雷霆らいていを持っている。



頭に浮かんだ映像の中で、二人はゼウス像

を見上げた。


するとゼウス様が、少し笑ったように

見えた。



かん

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