プロローグ
美波はとても足が速い女の子。
保育園のリレーの時なんか、美波の一走
前の男子が転倒し、先頭から半周近く離
された。
でも、アンカーの美波にバトンが渡った
途端、アッという間に大逆転。
速いのなんの、まるで美波の足には神様
がくれた見えない翼が生えてるみたい。
走る時の姿はそんなに綺麗じゃないけれど、
美波が走ると、周りの景色がすべて止まって
見えた。
「あの子超速えー!」
「マジ速過ぎ!」
と観衆もざわめいた。
ゴールした瞬間なんて、どっと会場が沸い
ちゃって、完全にみんなの度肝を抜いた。
それで、ついたあだ名が、
『超特急』
美波はまさに、スーパーエクスプレスな
女の子。
◇◇
だけど天は二物を与えず。
とても明るく元気な女の子なのに、なにせ
短気・勝気・生意気と三拍子そろってる。
保育園でも女の子とは遊ばず、いつも男の子
とサッカー三昧。
ケンカをしては男の子を泣かせたり、いたずらしては先生に叱られたりで、美波のママはいつも心配でハラハラドキドキだった。
でも大好きなパパは、いつも美波の味方。
美波が保育園でどんなに問題起こしても、
家ではいつもニコニコ顔で、
「美波ちゃん、可愛いね」
と言って、抱きしめた。
それもそのはず、美波はママが三十代半ば、
パパが四十代半ば過ぎに生まれた初めての
子供だったから。
パパは目に入れても痛くないほど、
美波を可愛がった。
◇◇
美波が生まれた時、パパはママの出産に
立ち会った。
美波はママのお腹から出て来た瞬間から、
パパの顔を見てニコニコ笑ってたんだって。
「美波、お前、生まれた瞬間からパパの顔を見て笑ってたんだぞ。まるで『パパ、私頑張って生まれて来たよ。またパパに会えて嬉しいよ』って言ってるみたいにな。パパ不思議な気持ちだったよ。新生児は目が見えないっていうけど、そんなことないんじゃないかと思ったよ」
パパはよくこう言って、美波が生まれて来た
時のことを話してくれた。
そして、決まって最後にこう言った。
「美波、お前とは、魂の深いところでつな
がっている様な気がするんだよ」
すると美波は、いつも決まってこう答える。
「パパ、私もそんな気がするよ。美波、生まれて来た時のことは覚えてないけど、感覚がパパと凄く似てるなって思うの。だって、私とパパとママの三人で、テレビとか映画をよく見るでしょ? そしたら私、必ずパパと一緒のところで笑うもんね。ママが笑わないところでね」
「確かに、そうだな」
パパも頷き、二人で顔を見合わせて笑った
ものだ。