2.アクトの過去
グレゼリオン王国のとある町に二人の夫婦がいた。
男は冒険者で、女は専業主婦として働いていた。どこにでもいる普通の家庭であったが、それ故に幸せだった。また、二人とも人柄がよく様々な人間に愛されてもいた。
しかし、その幸せは続かなかった。幸せの象徴ともいえる『子供』が産まれることによって、この夫婦は普通とは違う道を歩みだした。
その子供は普通とは違った。黒い目と白い目を持つオッドアイの子供。両親のどちらとも瞳の色が違ったのだ。しかし夫婦は互いを深く信用していたために、それが自分たちの子と疑うことはなかった。
だが問題は別のところにあった。
日に日に産まれたばかりの赤子は衰弱していき、一週間がたつ頃には体内から魔力が消失していた。夫婦は直ぐに赤子を教会へと連れて行った。そして初めて夫婦が子供が持つ目が特殊な眼であることを知り、そのせいで魔力が制御できていないことが判明したのだ。
夫婦は絶望した。まさかたった一人の子供が、自分たちと話すよりも早く死んでしまうのかと。そして誰よりも早く父親が行動を起こした。魔力の流れを良くすることができる霊薬を取るために、異国へ霊草を取りに行ったのだ。
しかしそこで更に不幸が襲う。子供の無事を祈ることしかできない母のもとに悪魔が現れたのだ。悪魔は弱っていた心につけこみ、無理やり母と契約を交わしてしまった。代償として母は体を永遠に蝕み続ける『呪い』にかけられしまったのだ。
そして霊草をもった父が帰ってきたのは、ちょうど契約を終えた後だった。
そして父は悪魔と戦い、殺された。母は永遠に動けなくなる呪いにかかった。唯一無事だったのは悪魔によって魔力の制御を可能とした赤子だけだった。
そしてその赤子が、俺である。この俺アクト・ラスなのだ。確かに俺は悪くない。自分が生まれてくることなど、防ぎようがなかった。しかし、考えてもみろ。俺さえ生まれなければ、両親は幸せに暮らせていたと一度でも考えてしまえば――
――俺は、自分を呪わずにはいられない。
そこから先は、大変だった。母は生活保護を受け、ずっと寝たきりながらも生き長らえることはできた。全ては俺を育てるため。だからこそ俺も冒険者となり、その稼いだ金の全てを母のために使ったのは、なんらおかしい事じゃないだろう。グレゼリオン学園に行ったのも、給料が高い騎士になるのに都合がいいから。自分の身を滅ぼしてまで俺を救おうとした母を、どうして愛さずにはいられるだろうか。
必死に戦った。強くなれば、あの母を呪った悪魔すらも倒せるほどの強さがあれば。それが俺にできる唯一の親孝行であり、唯一の贖罪なのだから。
これが俺の罪。生まれてきたという罪である。
あんまり長く書き過ぎるといい感じに区切れる場所が見つからなくなる。だからといって短く区切っていくと少し書き手からしたら物足りない。やはり技量が足りないのかなあ。




