1.アクト・ラスの英雄記
さあ、アクト・ラスの英雄記を紡ごう
俺には一人の母親がいる。代え難いたった一人の母親だ。
「調子は、大丈夫?」
場所は教会。俺は生まれてから一度も、母親がその二本足で立った姿を見たことがない。それどころかベッドから出たことさえも。いや、少なくとも俺の記憶にはない。
下半身不随?そんなもの金さえ積めば直せる。例えどんな『病気』であっても現代の医療技術をもって直せないものは存在しない。多少金がかかるかもしれないが。
「大丈夫に決まってるじゃない。いつもアッくんは気にし過ぎなのよ。」
これが俺の母だ。『病気』ではなく、悪魔の呪いにかかって一生かけて体を蝕み続けられる呪い。
「……それじゃあまた来るぜ。今度は何持ってきて欲しい?」
「もう十分よ。アッくんが色々と持ってきたからもう欲しいものなんてないわ。後はアッくんが無事ならそれで全部良いのよ。」
「なら良かった。これからも健康に生きることにするぜ。」
俺はそう言って病室を出る。
――少し、過去の話をしよう。この俺、アクト・ラスの人生を決定付けたとある運命の話を。
少し、長くなるかもしれない。しかし聞いて欲しい。これは確かに、俺は悪くなかった。しかし、間違いなく俺が懺悔すべき話なのだから。
この作品の中には平凡な英雄記がいくつも束になって存在しています。ただジン・アルカッセルがその中で最も優れた物語を紡いだだけで。




