4.そして、一日が終わる
俺とシルフェが一言も発さず、グラム公爵も黙ったきり。そんな状況に耐えかねたのかシルフェが俺へ質問する。
「どういうことですか?」
「知らん。」
シルフェはため息を吐き、ジロッとグラム公爵を見る。
「お父様?」
「今日はお見合いをすると言ったはずだ。」
「相手がジンさんとは聞いていませんよ。」
「相手のことを知るためにお見合いをするのだろう?」
シルフェはもう諦めたような顔をして、目を細める。
「今更面と向かって話すことはありませんよ。」
「まあ、そうだろうな。で、お前はどうしたいと思っているのだ?」
「なんともありませんよ。仲の良い親友というだけです。」
「ならジン。お前に聞こうか。」
ここで俺に飛んでくるか。いや、まあ結婚という事自体には興味がないわけではない。まあいずれはしたいとも思っているが、別にシルフェと婚約するほど切羽詰まっていない。それに俺の精神年齢的にかなり無理が過ぎる。
「うちの娘は私が言うのもなんだが、優秀だぞ?きっと後悔することもないだろう。」
「そういう心配はしてねえよ。」
「ハハハ。まあそうだろうな。」
そう言ってグラム公爵は手を一回、響くように叩く。
「なら、こうしよう。」
「……事前に考えていたくせに。」
「なにか言ったかシルフェード。」
「いえ、別に。」
シルフェはそっぽを向き、どこか疲れたような顔をしている。
「互いに婚約は嫌だ。しかしいつか婚約をしなければならないがために、何度もお見合いを行う必要がある。しかもエース殿下からの『お願い』も来ている。これら全てを解決するには一度婚約し、後ほどゆっくり結婚する人を探せば良いのだ。これなら誰も困らない。」
「俺である必要性は?」
「貴族だったらそんなに簡単に繋がりは断てない。更に平民の中でも学がなければ少し問題となる。それに見知らぬ人間は何をするやも分からんから駄目。となるとお前が一番条件にあっているのだ。」
反論は、できないな。
「だから一度婚約をしておけ。それが楽だ。公表もせんし、手続きも全て私がやろう。デメリットはないはずだ。」
シルフェと目が合い、俺は任せるという風に目を閉じて椅子にもたれかかる。
「……分かりましたよ。それではそういう風にやりましょう。」
「よし。ならば問題ないな。」
再び景色が瞬時に切り替わる。場所は恐らく屋敷の門の前。服装も元に戻っており、シルフェもドレスから私服になっている。
「ゆっくり学校へ戻るといい。」
門を開け、そのままグラム公爵は屋敷の中に戻っていった。
「随分と個性的な親だな。」
「ええ。あれで空間魔法を極めた『賢神』の一人なのですから、何においても勝てないんですよ。」
「どうりで……」
俺とシルフェは顔を見合わせ、歩き始める。
「どうやってここまで来たんですか?」
「走ってだよ。」
「走って簡単にこれる距離じゃないと思うんですけど。」
「ああ簡単じゃなかったな。回復魔法なんていう便利なものがなかったら今頃話すこともできなかっただろうぜ。」
「ということは魔力はほとんど尽きてるのでは?」
「帰りは任せた。」
シルフェは呆れたような顔をして、一度溜息をする。
「分かりましたよ。行きましょう。」
「おうよ。」
そうしていつもより少し騒がしい一日が終わった。しかしこの時の俺は知る由もなかった。帰ったら、もっと騒がしい日々が始まるなどと。
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