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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第3.5章〜どうしてこうなった〜
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2.ファルクラム領へ

最初に疑問を感じたのはシルフェの外出回数が異常に多かったからだ。定期的に学園外に出て、戻ってくる。ちょっと外出履歴を見たときにわかった。


俺に話さないぐらいだし、多分聞いても話してくれないだろうと判断した。ならば追跡をと思って行動に起こした。そう、始まりはこれだけ軽い気持ちだったのだ。



「転移門で移動か……行先はファルクラム領だが、転移門は予約がねえと使えないしなあ。」



まあ、走っていくしかあるまい。行先はグレゼリオン最東の地。しかし今の俺ならそう遠くはない。



加速アクセラレートッ!!」



俺は山道を走り抜ける。地上には魔物がいないから人とぶつからないことだけを考えて。



「ここを通りたきゃ有り金全部置いていきな――



え?盗賊はって?



「退け!」



ぶっつぶすに決まってんだろ!



「風が気持ちいいねえ!」



走り抜ける。一直線に。






==========






俺は街の中で息を乱しながら、壁にもたれかかっている。ついた。ついたにはついた。しかし、全速力でこの距離は普通にキツかった。距離としては中国を横断するぐらいの距離があったよ。ちなみにグレゼリオンの領土面積は大体ロシアぐらいある。



「まあ、間に合ったがね。」



丁度転移門からシルフェが出てくるのを確認する。転移門に並んでから、転移門に入るまで。それまでに到着すればいいだけの話。数十分で来る距離じゃねえよマジで。長距離走が終わった後独特の気持ち悪さがある。



「やっぱり、行き先は、屋敷か。」



ファルクラム家の屋敷。ファルクラム領の中でも中々の大きさの建物だ。しかし煌びやかではなく、質素で凛とした感じの綺麗さがあるのはそういう性格を一族がしてるからなのだろう。といっても、節々から豪華さは伝わってくるがね。



「……侵入できるか?いや、流石に捕まりかねんからな……」



いくらなんでも侵入は難しい。俺はそう思いながら塀にもたれかかる。取り敢えず呼吸を落ち着かせなくては。



「水はいるか?」

「ああ、いる、け、ど?」



違和感なく俺に水筒を渡してくる。その男は平民というにはあまりにも小綺麗な服装をしていて、貴族というには質素すぎる服装をしていた。



「だれ?」

「お前がさっき侵入しようと検討していた館の主だ。」



その男の言葉と同時に視界が切り替わる。気付けば部屋の中にいた。



「空間魔法は少し得意でな。」



部屋の中は見るからに書斎という事が分かった。様々な書類と本。細やかな装飾品。黒い木の机と椅子。その椅子に男は悠々と座った。



「話をしよう。」

「いやちょっと待てぇ!」



いや、いやいや!納得できねえよ。説明が足りねえよ。雰囲気出したら会話が成立すると思ってんのか。



「せめて状況を説明しろ!俺はまだお前の名前も知らねえんだぞ!」

「ふむ。それもそうか。」



男はカップを持ち、一口飲んだ後に言う。



「私の名はグラム・フォン・ファルクラム。ファルクラム家現当主だ。」

「ッ!ッ?……そうか。俺はジン・アルカッセルだ。」



俺は無難に自己紹介を返す。色々と聞きたいが名乗られたら名乗り返すのが礼儀だ。



「お前のことは娘からよく聴いている。そして最近、国王から次代の勇者が誕生したという情報が届いた。随分と優秀だと思ってね。話がしたかったんだ。」

「公爵様が聞くような事なんざねえんじゃねえか?」



暗に何も悪いことはしてないという風に言う。



「いいや、ある。そのためにわざわざ今日は仕事を早めに終わらせたのだ。」

「その言い方じゃ、まるで今日来るのが分かっていたみてえじゃねえか。」

「ああ。その通りだ。」

「へえ……」



やはり、警戒に値する人物だ。相当な切れ者だぞこいつ。



「ここにお前が来ることは分かっていた。そのわけを話すにはファルクラム家、というよりは四大公爵について語らなくてはならない。構わんか?」

「問題ない。」

「なら言おう。シルフェードが学園外に何度も出ていたのはお見合いをするためだ。」

「お見合い?なんでそんな急に。」



普通そういうのは段取りを組んで行うものなのでは?



「四大公爵にはそれぞれ青竜のように受け継がれている力がある。そしてその力を受け継いだものが次期当主となるのだ。」

「だから婿を取るためのお見合いと?」

「その通り。本来なら卒業後にゆっくり決める予定だったのだが、まさか自分から青竜を継承しようとするとはな。」

「他に子供はいねえのかよ。」



俺のその言葉で始めて言葉が止まり、少し思案した後に言葉を発する。



「……妻は、シルフェードがまだ幼い頃に死んでね。一人娘なのだ。」

「そうか……すまないな。」

「いや、構わん。」



そうか。シルフェの母親は既に死んでいたのか。・・・そうか。



「だが、何度もシルフェードが欠席をしていれば疑問が出る。そして、実際にここまで来るのが今日とよんだだけだ。まあ外れてもなんら問題はないことだ。むしろこんなに早く来るということはシルフェードの事を余程大切に思っているのだろう?」

「当たり前だ。一番の親友なんだからな。」



シルフェに俺は救われた。だから俺もシルフェが困ってるなら救わなくちゃいけない。それが友情というものだ。



「それじゃあ色々と聞く前にこれに目を通してくれないか?」

「手紙?」



俺が手渡されたのは一枚の手紙。かなりしっかりと作られた紙だ。恐らくそこそこの値段がするはずだ。



「第一王子。つまりエース殿下からの手紙となる。」



ええ?

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