8.変化
一日の期間をかけ、俺の体は無事治った。無理矢理口ん中にポーションの瓶を突っ込まれて、飲み切ったと思えば全回復した。部位欠損まで治るんだから結構高いとは思うけど、元はといえば手を抜いてあんな弱い結界を張った父さんが悪い。まあそんなわけで今日も元気に修行をしているわけだ。
「そういや気になるんだけど。1つ質問してもいい?」
「……別にいいが、お前ほんとにタフだな。」
父さんにズタボロにされた状態のまま言葉を続ける。
「父さんと模擬戦して何で俺が原型留めてんの?いくら力抜いても俺ぐらいならバラバラになりそうなんだけど。」
「今更そんな事気にするか?」
まあ確かにそうかもしれない。俺は既に8歳になり、小学生でいうなら2、3年生ぐらいの歳になった。片手剣術にも結構慣れてきて、形になってきた頃だ。まあ2年ぐらいやってるんだから今更感あるよな。
「『手加減』っていうスキルだ。身体能力を指定したレベルまで下げれるよだよ。」
この時に言う『レベル』というのは現実に存在する実数値を指す。レベル1からレベル10まで存在し、上がれば上がるほど強くなる。
「じゃあいつもどれぐらいのレベルでやってんの?」
「レベル1だ。」
俺は今もまだレベル1なのだが、同じレベルでこんなに差が出るもんなのか。単純に俺がまだ子供だからか?
「それじゃあ元のレベルは何なんだよ。」
「もちろん10に決まってるだろ。」
「10!?」
レベル10とは最高のレベル。最高レベルに至った人間はあまりにも少ない。世界でも三桁にも満たない、数少ない実力者の一人というわけだ。
「ま、これぐらいお前ならすぐなれる。」
「そう?」
正直言ってレベル10には簡単になれる気がしない。下手したら一生なれないかもしれんし。
「よし。ならもう一回やろうぜ。」
「まだやんのかよ。」
呆れたような目でこっちを見る。俺は早く強くなりたいのだ。ここで立ち止まる必要などない。そう思い立ち上がり剣を構える。
『スキル[剣術]を会得しました。』
その時に頭に声が響く。なんだこの電子音みたいの。
「あ?どうした?」
「いや、なんか剣術を会得したとかどうとか。」
「お、やっとか。」
やっと?どういう事?
「ま、単純な剣術のスキルだ。剣術のレベルがある程度高いと会得できる。」
「効果は?」
「特にねえよ。」
飾りみたいなものか。だがそれほどまでに上手いという象徴にはなるな。英検とか漢検とかそういう扱いだろう。
「んじゃあ続けるか。剣術も覚えたし、ちょっとレベルを上げるぜ。」
そう言い父さんは構える。父さんは今まで模擬戦で構えたことがない。つまり今までと同じようにはいかない。
「安心しろ。そんな大した事はやらねえからよ。」
俺が息を吐き、心を集中させようとする瞬間。もう既に俺の目の前に立っていた。
「ッ!『水の束縛』」
水が鞭のようにしなり、父さんの四肢を縛る。が、闘気を込めて瞬時に振り払われる。その間に距離をとるが、再び間合いを詰められる。互いに睨み合い様子を見る。先に動いたのは俺。父さんへ一番効果的なのはフェイントではなく最速の一撃。文字通り一瞬で木刀を持つ手首を狙う。
「はあ!」
しかし父さんはわかっていたかのように手首をずらし、俺の攻撃を避け俺の頭に木刀を振り下ろした。
「あぐっ!」
防げたには防げたが、体全体を使って鞭を打つように放たれる一撃。しかも上段から放たれた一振りは俺の想像を絶する威力があった。
「防ぐんじゃねえよ。」
そう言って俺の体が痺れているうちに脇腹へと木刀が放たれた。俺はそのまま真っ直ぐ左に飛んで行った。
「終わりだな。そろそろ切り上げるぞ。」
父さんに手を貸してもらい、俺は立ち上がる。今日も身体中が痛い。
「どうしてこうも上手くいかないんだ……」
俺はぽつりとそう呟く。
「はっ!ガキのうちから気負ってんじゃねえよ。8歳でここまでいけたら上出来だっての。」
「そう、かなあ。」
今日も一日が終わる。まあ、確かにすぐ強くなる必要なんてない。だが、だからといって何もしなくていい理由にはならない。