16.勇者と呼ばれるはずだった魔王と、英雄と呼ばれるはずだった勇者
俺は精霊宮殿を背に、もたれかかって座っている。右腕からの流血が酷い。あんまり体を動かしたくないのが本音だ。そんな感じで動けないでいると、シンヤが隣の通路から出てきた。
「ああ、ここにいたのか。って酷い傷じゃないか。ちょっと待ってくれよ……」
シンヤは右手の指先を切り、俺の右腕の切断面に血を垂らす。すると瞬く間に傷が癒え、腕が生えてきた。
「不死鳥の血は万物を癒すんだよ。知らなかったかい?」
「ああ、知らなかった。」
本当にこいつ何でもできるな。
「……勇者になったんだね。」
シンヤは聖剣が無い台座を見て、ポツリとそう呟く。
「ああ、自分勝手ですまねえな。なんだかんだ言って、俺は勇者になりたかったんだよ。」
「いや、まあ、君はそうだろうね。寧ろ君が勇者になってくれて嬉しいよ。」
嬉しい?
「君以上に命を賭けて人を救える人なんていないさ。少なくとも、俺の知ってる中ではね。」
「はっ。それは買い被り過ぎだぜ。お前の方が凄い。俺はお前の事を嫉妬してたんだからな。」
「ああ。それは俺もだ。」
シンヤは俺の隣に座る。
「俺は誰よりも自分らしく、自由に生きれた君に嫉妬した。まあ、今はそんな事思ってないけど。」
「もう答えは見つけたんだもんな。」
「ああ。」
俺は少し躊躇った後に言葉を紡ぐ。
「俺は、同郷出身にも関わらず、俺より遥かに楽に強くなって、俺が追い求めた所に立とうとしたお前に嫉妬した。」
「だけど、今そこには君が立ってるだろ?」
「ああ、その通りだ。」
俺は軽く笑みを浮かべる。
「結局。人ってのは足りないものを互いに求め合うんだよ。そのためにこんなに数がいるんだから。」
何千、何万、何億と存在する人類が、こんなにいても一人一人に価値がある理由はそれだ。その人にしか持てないものが絶対にあるはずなのだ。一生気付けなくても。
「つい欲望が前に出て、聖剣を抜いちまったな……」
「欲望だけで抜けるもんじゃないよ。」
「いいや、抜けるさ。それを正しく使おうと、誰よりも思い続ければいいだけだ。」
正しく生きる。他人を気遣って、助け合って、それで生きていく。そんな当たり前の事が完璧にできている人間が、そもそも存在するかも分からない。けど、それができる奴が多分二代目勇者だったんだと思う。
「なあ、地球に戻れる方法って知ってるかい?」
「戻りたいのか?」
「いや、元々孤児院で育ったからね。親代わりはいるけど、本当の家族と言える人はいない。思い入れはないけど、恋しいのさ。地球が。」
「……俺はもう生き疲れたからな。探そうとも思わなかった。お前は異世界転移だろ?俺は多分、憑依だ。」
俺は5歳からしか記憶がない。それ以前の記憶もあるにはあるが、漠然としている。だから恐らく憑依したのだろう。5歳の頃の『ジン・アルカッセル』に。
「そうか。まあ、なら、仕方ないか。」
シンヤは立ち上がる。
「それじゃあまた会おう勇者よ。オルゼイ帝国にいつか来る時があるのならば、俺は歓迎しよう。」
「ああまたな魔王。今度は俺がそっちに行くよ。」
シンヤは翼を生やし、空間を歪ませ転移した。
「ジンさーん!どこですかー!」
シルフェの声が聞こえる。その他にも騎士の鎧の音も。さて、どう説明したものか・・・
個人的に二章以外は仕方ないから書いた話。書きたい話だけ書いたら物語が繋がらないから。どちらかと言うと、次の章辺りから書きたい話になってくるから面白くなる、かなあ?多分ならない気もするし期待せずに。




