14.勇者議会
白い床が地平線まで続き、空も白く、太陽がない。だが物凄く明るい場所。気付けばそんなところで椅子に座っていた。俺以外にも円卓を囲み、椅子に座っている人が九人いる。しかしその姿も白く、誰一人として、いや、訂正しよう。一人を除きその姿を見れない。
「君が、聖剣を持とうとする者か。」
その唯一姿が見える男がそう発する。
「ここは……」
「聖剣の中さ。君は勇者議会に招待されたんだ。」
聖剣の中。精神だけ聖剣に引きずり込まれたのか?
「君の覚悟を聞こう。君は明確な意思を持って聖剣を握った。俺は君に興味を持った。君の思いを聞くためにここに招待したわけだ。」
その金色の目が俺を貫く。有無を言わせぬ迫力がある。
「英雄になりたいだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。勇者になれば英雄に近付ける。聖剣を振るえば英雄らしく人を救えるからな。」
俺の最近の行動のほとんどは英雄になるためで完結している。少なくともそれが今の鍛錬をする理由。
「……それは勇者の動機ではない。」
席に座る白い人の一人がそう言う。
「それは偽善だ。英雄になる自分に酔っているだけのな。人を救う自分がカッコいいと思っているから人を救うのだろう?ならば偽善で間違いない。」
「それの何が悪い。」
俺は即答する。既に知っている。そんなこと。英雄に何故なりたいか。どんな理不尽も突き返し、直向き人を救う姿に憧れたからだ。決して英雄そのものになろうとしたわけじゃない。
「確かに俺はエゴイストだとも。自分の周辺の人さえ救えたらそれでいい。自己完結したエゴイストだ。だが、そんな中生まれた夢が英雄なのさ。英雄は自分の周辺以外も救う。少なくとも俺の目指した英雄はそうだった。」
子供はみな、一度同じものに憧れたんだよ。
「夢のためにやりたくない事をする。それの何が悪い。」
「……そんな半端な覚悟ではいずれ限界がくる。」
「なら、それがお前の限界だ。」
舐めんじゃねえよ。そんな半端な覚悟しか持てないなら一つ丸ごと人生を捨ててなんかいなかったんだよ。
「お前らが認めるなんかどうでもいい。聖剣を寄越せ。そのために今、俺はここにいる。」
殺気を持ってこの議席に座る九人を睨む。恐らくだが、ここにいる九人は歴代勇者なのだろう。歴代勇者も丁度九人。もちろん全員俺より強いだろう。しかし、そんなこと関係ない。
「そこを退け。過去の英雄よ。賞賛もしよう。敬意も払おう。しかし、ここから先は俺の、俺たちの時代だ。老害どもが出しゃばってんじゃねえよ。」
人の運命は人が切り開くものなれば。
「フフッ!フハハハハハハハハッ!」
姿が見える男が大きな声で笑い始める。
「やはり呼んで正解だった!ああそうだとも!君の言うことは正解だ!偽善だったとしても、それを貫き通せるなら問題などない!それに君の言う通り、俺たちも老害だ!過去の栄光に縋り続けても、それは栄光を作り出す今の英雄には敵いはしない!」
姿が見える男は立ち上がり、俺に指を指す。
「だからこそ、再び問おう!何故、勇者にならんとする!」
答えは決まり切っている。
「カッコいいからに決まってんだろうがッ!!」
「なら良しッ!ならば我々は君を十代目勇者として承認しよう!」
魂が震える。この瞬間を待ちわびていたかのように。
「戦うがいい!己が信ずる正義のために!勇者とは自分のエゴを通すために、口ではなく剣を握った野蛮人どもの代名詞だ!」
白い世界が崩れていく。白い人は次々と消え、俺と姿が見える男が残る。
「我が名は二代目勇者ヴァザグレイ!十代目勇者ジン・アルカッセルよ!君の信じる英雄へと至るために戦え!」
再び意識は光に呑まれた。




