13.勇者誕生 後編
「さて、俺も行くか。」
俺は再び地面を蹴ろうとした瞬間、辺りが魔力で満ちる。
「ほう。これが、聖剣か。」
声が、響く。その目線の先には、外の奴らと同じ黒いローブを纏ったている少し痩せているように見える男。気付かなかった。否、気付けるはずがなかった。
「ああ、初めまして。精霊王諸君。それに、君は……勇者候補かね?」
「外に馬鹿でかい魔力があんの分かるだろ。そっちだよ。」
圧倒的な格上だ。外の奴と同じ黒ローブを纏っているが、全く相手にもならない格上。全力で『神鬼乱血』を撃って倒せるかどうか。
「ほう。ならば君は何故ここにいるんだい?」
「そりゃ、こっちの台詞だろ。」
「おお失敬。まあ名は訳あって話せないが、要件なら告げれる。聖剣を壊しに来たのだ。」
六人の精霊王が即座に男を取り囲む。俺が斬った奴も既に回復している。
「愚か者が。我ら精霊王に仇なすつもりか。」
「ああ。偽りの精霊王達よ。これにて任務終了だとも。」
精霊王達の体が光の粒になって崩れ始める。
「これは、まさか……」
一体、何が起こっている。俺のそんな思考を他所に、男はこちらへゆっくりと歩いてくる。
「さて、どいてくれないか。君も命は惜しいだろう?」
圧倒的強者。しかし、ここで退いてはいけない。こいつが俺を生かす確証はないし、もしかしたらこの精霊界自体を破壊するかもしれない。
「断るね。」
「なら死ね。」
反射的に『絶剣』を放つ。本能がそれを選択した。折れた木刀では不完全だったのか、それともこいつの攻撃が強過ぎたのかは知らないが右腕が抉れるような激痛が走る。
「ほう。」
相手の攻撃そのものを斬った。どんな攻撃が放たれていたかは知らないが、多分言葉の通り死んでいただろう。その代わり右腕はボロボロだ。右腕からありえないほどの血が出ており、それが危険な状態である事を脳が訴えかけてくる。
「はて、中々不思議な剣技を使うな。」
「そうかよ。ならそのついでに見逃してくれねえかな!」
「それは無理な願いだ。」
男が再び腕を振り下ろした瞬間。プツンといった感覚と同時に一拍遅れて自分の右腕が切断されたことに気付く。
「『肉体補完』」
俺のオリジナルの魔法。完璧に肉体の構造を模した氷の肉体を作り出す。まあ感覚は通ってねえが、血液を循環させることはできる。
「ふむ。一撃で頭を潰さなくては意味がないか。」
俺は確信する。絶対に普通にやってたら勝てないと。
「おい精霊王ども!文句は言うんじゃねえぞ。」
決心する。シンヤは、勇者にならないと決めた。ならば別に、俺がこれを使っても構わんのだろう?
「……バカな事を。」
俺は聖剣を握る。その瞬間、脳内に声が響く。
ーーー汝、聖剣に認められし者であるか?
否。聖剣なんかに認められる存在じゃねえ。
ーーー汝、勇気ある者であるか?
否。俺は臆病者だ。勝てない勝負には挑みたくないし。安定な道だけを通りたい。
ーーー汝、人のために剣を取る者であるか?
否。己がエゴのために剣を取る。
ーーー汝、愚者に非ずか?
否。一つの人生をゴミ箱に放り投げた馬鹿だ。
ーーー汝、人々に認められし者であるか?
否。人に俺の生き方が認められた事なんてない。
ーーー汝、魔王を討つ者であるか?
否。戦うべき敵と戦う。
心の中で響いた声を返し終えた。
「愚か者め。聖剣に認められていないものが聖剣が抜けるわけなかろう。」
「うるせえよ。」
俺は即座に言い返す。
「それを決めるのは俺だ。お前じゃねえ。」
必要なら勇者にもなろう。聖剣も使おう。英雄とは、この世で最も貪欲な者。飽くなき何かを持つ者であるのだから。
「てめえを倒すのに、必要だから勇者になるってだけだろうが。」
頭の中に電子的な声が響く。
『勇者項目六の内、達成数零。不適格者です。二代目勇者から勇者議会の要請。投票を行います……半数以上の承認を受けました。勇者議会を開廷します。』
俺の思考は光に沈んだ。
前編から後編まで一日で書きあがってしまった……




