12.勇者誕生 中編
今回の護衛が少ない理由は他ならぬ勇者自身がいる事だ。シンヤを倒せる奴なんて束になっても早々いやしない。だから格上相手でもシンヤが来れば倒せる。その思いで全員が時間稼ぎの為に戦ったのだ。
俺が対峙するのは素手で戦う大男。素早さで翻弄して避け続けるが、相手の防御が上手いせいか良い一撃が入らない。
「確かに速い。だが、この私には敵わない!」
大柄な男が急に加速し、俺へと拳を振るう。反射的に木刀で防御するが、木刀が折れ、そのまま俺へと拳が振るわれる。
「ジンさん!」
「ジン!」
シルフェとアクトの声が聞こえた瞬間、精霊宮殿の方に真っ直ぐぶっ飛んだ。
「がっ!」
足をしっかりとつき、徐々に減速して止まる。口から血を吐き出す。直ぐに体を魔法で回復させ、地面を蹴ろうとした瞬間。その思考は掻き消された。
「ジン!大丈夫か!やっぱり俺が出た方が……」
それは聖剣を抜かず、悩んだ顔をしたままなシンヤの姿だった。
「おいテメエ。何してんだ。」
俺は最近で一番怒り狂ったのかもしれない。ここまでバカだとは思わなかった。半分呆れに近い感情がある。
「なんで、聖剣を抜いてねえんだよ。」
「俺が、出た方が確実に対処できると思って……」
「なら何で今、戦ってねえんだよ。」
「だけど、聖剣を抜いてから戦った方が良い気もしたんだ。もしその間に聖剣が壊されたら……」
俺はシンヤの顔面を殴る。
「え?」
ああ知ってる。別にシンヤは痛くも何ともないだろう。それぐらい実力差があるのだ。そんなに力があって尚、こんな事をするのだから。
「今!戦ってる奴は全員お前を待ってんだよ!」
俺はシンヤの胸ぐらを掴み、そう言う。
「テメエなら一瞬で片付けられる奴と分かってて、聖剣を抜くのを待ってやってんだよ!」
シンヤが出たらあんな雑魚。十分あれば全滅する。それ程までに圧倒的な実力差があるのだ。
「なのにテメエは数十分ここで悩んでるだけか!?許されるわけねえじゃねえか!」
ああ、馬鹿だとは知っていたがここまでの愚か者だったとは。
「いい加減、全部自分で決めろよ!勇者になるのも!その七大騎士っていう肩書きも!聖剣を抜くのも!人に言われたからで決めようとしてんじゃねえよクソガキが!」
子供じゃねえんだよ。いつまでも悩んでんじゃねえよ。この国では15で成人なんだよ。地球は二十歳だったかもしれんがな。
「選べ!神崎真也!」
今思えば、同郷だと知っていたからこそここまで肩入れしたのかもな。
「俺は、俺は!」
シンヤは少し悩みながらも言葉を発する。
「勇者には、ならない!」
声が響く。精霊王達が動揺したのが伝わる。俺にとっては予想通りだが。
「なら、やる事は決まってんだろ?」
「ああ!」
シンヤは駆け出す。
「許されぬ。それはあってはならぬ。今、この場で勇者を誕生させねばならぬのだから。」
「然り。聖剣はこの機を逃せば、次に抜けるのは更に何年も先になってしまう。」
「うるせえよ。テメエらも聖剣なんかに頼ってんじゃねえよ。」
俺はシンヤの行く先にいる精霊王を『絶剣』にて切り裂く。例え遥か格上でも俺の絶剣は切り裂く。
「行けシンヤ!誰もお前を止めやしねえ!」
「ああ!わかった!」
シンヤは突き進む。もう迷う事は、ないだろう。
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ああ!そうだ!簡単な事だったんだ!自分の正しさも!自分が何をしたいかも!自分で決めてしまえば良かったんだ!
俺はグローリーを確かに殺した。しかし、俺はこの、魔物を支配する力をグローリーから受け継いだ。俺が持つ本来の能力は強欲!全てを奪う力。全てを欲する力。何故、俺が自分自身を節制する必要があったのだ!
グローリーは楽になりたかったから殺されたんじゃない!俺にこの力を与えたかったから、俺に殺される事を選んだんだ!他ならぬ俺自身に!
ならば答えは出た。俺は勇者にならない。勇者になりたくなんてなかったんだ。俺は、自分のやりたいように生きる。そこに聖剣が必要なかっただけの話。
「一応。名乗らせて頂こう。」
俺は確実に一歩踏み出し、魔力を溢れさせる。
「元勇者候補。七大騎士が筆頭、シンヤ・カンザキ。」
俺は体を変質させる。
「それが、俺の名だ。」




