10.勇者の歴史
この世界の最初の勇者は神代に現れたとされている。
全種族が世界中で戦った『原初の世界大戦』において、魔王を倒して戦争を終結させた人間。当時、人間には魔法という神秘の力がなく、全種族の中で最も劣っていた。そんな中たった一人で魔物以外の全種族と平和条約を結び、平和に賛同しなかった魔物の長である魔王を下したのだ。
神が作りし聖剣を授けられた唯一の人間であり、人間に勇気を与えし者として勇者と呼ばれた。そして初めての人間が治める国家であるグレゼリオンを建国。その国は今でも強靭な国として残っている。
しかし資料的にも不明な点が多く、本当に実在したのかも不明であり、彼を初代勇者として認めない人間も一部いる。
二代目勇者は勇者としてのルールを確立させた。現在、九代目まで受け継がれた聖剣を振るっていた勇者。自分以外にも三人の仲間を連れ、魔王を倒した。この四人が後の四大公爵の開祖である。
二代目勇者は宇宙から神が落としたとされる隕石から、 二振りの剣を作った。しかし最初はとても丈夫なだけのただの剣だったという。その剣は『鍛冶王』に何度も何度も強化され、魔王を倒す頃には聖剣に相応しい強さを持っていた。
そしてその聖剣の一本は精霊界で精霊王によって管理され、今でもその制度が続いている。だがもう一本の所在はそれ以来分かっておらず、失われた聖剣と呼ばれている。
三代目勇者は四大公爵のヴェルザード家から現れた。誰にも抜けなかった聖剣をいとも容易く抜き、現在のグレゼリオン大陸を統一するために戦った。億を超える魔物をたった一人で抑え込み、魔王を倒したという。
四代目勇者は平民から現れた。四代目勇者は手段を選ばず、どんな手を使ってでも多数を救った。大を救うために、小を捨てた。その時に故郷を捨てた四代目勇者の話は、悲劇として現在にも語り継がれている。そして四代目勇者で、やっと大陸統一が叶った。
五代目勇者は死刑囚から現れた。大量殺人犯であり、最も悪しき勇者として歴史に残っている。何かを殺すのに快感を覚える快楽殺人者であり、魔王を殺すという快感を得るために魔王と戦い、相討ちした。後々分かったことになるが、殺した人間は全て重度の犯罪者であり、実は正義のために殺していたのではないかという説がある。しかし事の真相は今では分からない。
六代目勇者は闘技場から現れた。闘技場最強と呼ばれた『決闘王』である。六代目勇者は歴代勇者の中で最も勇敢であり、その冒険は波乱万丈なものであった。その物語は数ある物語の中で最も好まれており、吟遊詩人が語る物語の大半は六代目勇者の物語である。
七代目勇者は異界から現れた。七代目勇者は唯一その手で魔王を倒すことはなく、人に魔王を倒させた勇者。ありとあらゆるものを癒す力を持っており、戦うことではなく癒すことで戦った勇者。当時流行ったいくつもの伝染病への特効薬を開発し、現在まで通じる医療体制を整えた勇者でもある。
八代目勇者は隣国の奴隷から現れた。当時奴隷国家であったとある国から全ての奴隷を救い出した英雄。その後も全世界から奴隷を救いながら魔王を倒した。奴隷制を撤廃させ、常に自分の身を削るように戦った八代目勇者は希望の勇者と呼ばれた。
九代目勇者は人から現れた。九代目勇者は最も、勇者らしき勇者であった。聖剣に選ばれ、人々を鼓舞し、誰よりも先頭に立って誰よりも戦った。最も理想の勇者像を追い求めて戦った勇者でもあった。
そして、これから生まれるのが十代目勇者である。




