9.精霊界
「それでは準備はいいですか?」
「うむ。問題ない。」
俺たちは転移門の前に待機している。本来、俺らは付いて行けないのだが。まあ学園長が報酬ということで特別にねじ込んでくれた。
「そういえば皇太子様はいないんですか?」
「ああ、来ねえらしいよ。勇者が面白くなかったからってな。」
「本当に自由ですね。」
エースにとって人の判断基準は面白いか、面白くないかだ。まああいつの面白い奴ってのは大体ぶっ飛んだ奴ばっかりだからな。
「それでは行きます。付いてきてください。」
そうやって精霊の後を、王国騎士と一緒に進んでいく。転移門を通り抜けると、そこには見たことのない光景が広がっていた。
「それでは、ここから先は勇者候補様だけが来てください。」
「わかった。」
そうやってシンヤだけが精霊についていき、俺たちはここで待機となった。
「ここが、精霊界か。」
俺たちは辺りを見渡す。
「こんなに精霊がいるとこなんて見たことねえぞ……」
「精霊達の安住の地でもあるからな。」
俺はアクトの言葉にそう返す。精霊界とは文字通り精霊が住まう地であり、最高位である六人の精霊王が存在する場所。そもそも精霊とは何か。それは悪魔や天使と同じ魔力生命体であり、肉体もあるが精神の方に重きをおく存在である。それに対し俺たち人間や獣人、エルフとかは肉体生命体となるわけだ。
そして火の精霊、水の精霊、風の精霊、雷の精霊、土の精霊、木の精霊の合計6種類の精霊が存在する。実は古代にこの精霊の力を真似たのが、今現在使われている魔法なのだ。火属性、水属性、風属性、雷属性、土属性、木属性というように。
なら光と闇、後無はどうしたと思うだろう。しかしそもそも闇属性は悪魔が使っていた魔法の事を指し、光属性とは天使が使っていた魔法を指す。無属性は純粋な魔力運用そのものだ。つまり元々人間が使えた魔法は無属性だけということになる。
さて、話は戻るが精霊とは悪魔と同じように契約が可能である。というか精霊と契約する方が多い。確かに悪魔は強大な力を得られるが、その分代償も大きい場合がほとんど。ハイリスクハイリターンというわけだ。それに対し精霊は魔法の補助程度にしか使わないから、上級精霊以上でないとリターンが少ない。その代わりに負荷はほとんどない。ローリスクローリターンな契約となる。
まあリスクはないんだが、基本精霊は精霊界から出ない。だから精霊を扱う種族は主に精霊に好かれる種族だけだ。エルフ、ドワーフ、獣人、小人、巨人、天使の六種族。天使は天界にいるし、巨人と小人はあまり精霊と契約をする事はない。だから精霊の種族と言われるのは基本、エルフ、ドワーフ、獣人の三種族のみである。
「確かここには魔物が入れないんだよな。」
「ええ、そうですね。」
精霊界の大きな特徴の一つに、魔物が入れないというものがある。魔物は精霊の強力な結界によって精霊界へ入ることができない。正確に言うなら入った瞬間にチリとなって消える。だからここに聖剣を安心して置ける。更に精霊王自体も強大な力を持っていることから、魔王であっても近付けない場所なのだ。
『うぐう……気持ち悪いぞ契約者……』
「黙れ。」
「うん?どうしたジン。」
「いや、なんでも。」
まあこの結界は悪魔も弾くタイプだからな。そりゃそうだ。ということは今回アクスドラのサポートは期待できないわけだ。
『まさか我輩が精霊界へ来るときが来ようとは……』
知らねえよ。というか最上位の悪魔のくせに情けない。
『今出たら契約者にぼろ負けする自信があるぞ。油断したらそこら辺の冒険者にも負けるやもしれん。』
まあそれでも生きてるだけで強い悪魔なのだ。並大抵の悪魔は入っただけで即死だろう。
『そうだ契約者よ。少し勇者の話を聞かんか?』
いや、どうした。いつもお前無口なのに今日はやたら話したがるじゃねえか。
『いや、なに。何か話さぬと返って気持ちが悪い。それに契約者にとっても気になる話ではないか?』
まあ否定はせん。
『ならば話そう。そもそもこの世に聖剣は三本存在する。その内の一本こそが勇者候補とやらが抜きに行くものだ。』
聖剣ってそんなにあるのか。てっきり一本だけかと思っていたが。
『そもそも聖剣などと言うが、別に魔剣と大差はない。ただ魔王を倒した人間が勇者と呼ばれ、たまたまその人間が持っていた武器を聖剣と呼ぶのだ。』
へえ。じゃあ強力な魔剣なら聖剣も上回れるってわけだ。
『然り。ただ聖剣と呼ばれる武器は偶然にも一つの共通点を持つ。それが神力の有無である。』
神力?
『ああその通り。神力とはファルクラムの青竜も持つ力である。神力というのは神が持つ魔力のようなものだ。使える幅が広いだけで大した違いはないと思ってよいだろう。』
まあ元々魔力は基本的に万能だからなあ。
『さて、その上で勇者の話を聞くと良い。我輩は初代勇者の時代から存在する悪魔である。有用な話ができよう。』
アクスドラはそのまま話を続ける。




