8.勇者誕生前日
まあ、結果としてはお察しの通りだ。いくら十分だけ耐えればいいとはいえ、シンヤは世界最高峰の実力者だ。手加減してても常人の何十倍も強い。
「以上!これで特別授業を終了する!」
シンヤは倒れている生徒の前でそう言い、寮の方。つまり俺の方にやってくる。
「これで、この学園での仕事は終わりだね。」
シンヤは椅子に座りながらそう言う。
「ああ。精霊界へ行くのは丁度明日だからな。それが終わったら俺たちもお役御免よ。」
手続きは意外と簡単に終わり、なんと明日には行けるということになった。
「そうだね。いよいよ、か。」
「まあやることは聖剣を引き抜くだけだからな。そんな気負うことはねえよ。」
精霊王から承認を得て、聖剣を引き抜く。限定的な転移門の設置は完了しているし、明日中に終わるのではないのだろうか。
「そういえばファルクラムとアクトは?」
「二人とも丁度用事があるんだってよ。」
二人とも、なんか大切なことがあるらしかったからな。
「そうなんだね。」
シンヤはいきなり立ち上がる。
「勇者として頑張らないとな!それじゃあ明日はよろしく頼むよ!」
そう言いながら走って自分の部屋へ向かっていった。
「……はあ。」
どこかで、いい感じに間違いを直せないだろうか。
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俺は、ずっと自分の選択を悔いていた。自分の育ての親を、自分の手で殺してしまった日から。
グローリーは確かにそれを望んでいた。しかし、どうにかすれば二人で平和に暮らせたりしたんじゃないかと。今でもずっと思っている。
そして勤勉に会った時に、感情を抑えきれずに聞いた。何故グローリーはあんなに自分を追い詰めたのか。何故俺と生きてくれなかったのか。俺は犯してはいけない過ちを犯したのではないのかと。
しかし、聞いておきながら俺は心のどこかで『間違っている』と言われたかった。そうしたらこの胸のとっかかりが取れる気がして。誰かから罰を受けたかったんだ。この罪を、断罪して欲しかったんだ。
だけど結果は違った。寧ろ、俺は間違っていたのか分からなくなった。グローリーはあの時、何を願って死んだんだろう。何を願って俺にこれを託したんだろう。一週間それだけをずっと考えても分からなかった。
……それでもやらなくちゃいけない事がある。俺は聖剣に選ばれたんだ。俺が勇者になってみんなを救わなくちゃいけない。魔物の王である魔王を倒さなくちゃいけない。俺が選ばれたのだから。
最近、久し振りに筋トレしたらすっげえ辛かった。ちゃんと体は動かした方がいいね。




