5.正しさ
シンヤはどこか焦ったように言葉を紡ぐ。
「だ、だけど!君は救われたんだろう?なら、俺だってグローリーを救えたはずなんだ!」
ああ。そうだろうな。
「俺は、どうやったらグローリーを救えたんだよ!どうやったら助けられたんだよ!」
「……俺はそいつに会った事はないから何も言えねえ。それどころかお前のことも全然知らないからな。」
勤勉の保持者は確かに似ている人間が多いだろう。しかし似ているだけだ。
「ただ、お前はグローリーを殺したのを後悔しているんだったら。」
それでも確実に言える事がある。これは一、人間としてだ。
「過去を恨むな。過去から何をするかだけ考えろ。それは英雄としての生き方じゃねえ。」
「だけど、俺は恩人を!親だったはずの人をこの手で殺したんだぞ!」
「うるせえ!そんな答えの出ない禅問答みてえなのやっても意味がねえんだよ!」
ああ、意味のない。何故なら答えがないのだから。
「本当にグローリーが救われなかったのかも分からねえんだろうが!」
「え?」
「最強になれなかった事は心残りだろうよ!だけど心残りなんて一切なく死ぬような人間なんざいねえんだよ!」
あの天才の幼馴染すら、心残りを死に際に残していた。
「答えを勝手にてめえが決めんじゃねえよ。本当にお前は救えなかったのか?本当にお前は正しくなかったのか?そんなの当人に聞かなくちゃわかんねえだろうが。」
「確かにそうだけど!」
「そうだけどなんだ?まさかお前の勝手な都合でそのグローリーに永遠に生き続けて欲しかったと?はっ!笑わせんじゃねえよ。」
少なくとも、絶対不変の正しさなんて存在しない。
「お前はそのグローリーに、何かを託されてんだろ?」
「なんで、知って……」
「自分の築き上げた何かを託すのは、俺たちは大好きなんだよ。」
誇りなんてない。自分の積み重ねてきた全てを渡すのに躊躇なんてない。それが俺らなんだ。
「言ったろ。強い奴になりたいだけなんだよ。俺たちはな。だから自分の力を無駄にする方が、よっぽど嫌なんでね。」
「託された、もの。」
シンヤは唖然として、動かなくなる。
「後は、自分で考えな。その託された意味を。何を考えて、それをお前に渡したかをな。」
俺は扉を開けて、部屋の外に出る。結局正解は聞いてみなきゃ分からない。ただ、推し量ることはできる。例えそうは思ってなかったとしても、それは一種の答えだ。長年一緒にいた二人であるなら、必ず真実に近い答えが出るはずなのだ。真剣に考えれば考えるほど。
「おや、ジンさん。随分と疲れたような顔をしていますね。」
「シルフェか。」
俺はスッと力が抜け、少し笑みを浮かべる。
「思いの外、勇者候補がめんどくさかったってだけだ。」
「それは、一学期の頃のジンさんのようにですか?」
「ま、そんなもんかもな。」
何かに取り憑かれると、正しさが分からなくなる。正しさなんて自分で決めるものなのにな。




