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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第3章〜魔王と呼ばれた勇者〜
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5.正しさ

シンヤはどこか焦ったように言葉を紡ぐ。



「だ、だけど!君は救われたんだろう?なら、俺だってグローリーを救えたはずなんだ!」



ああ。そうだろうな。



「俺は、どうやったらグローリーを救えたんだよ!どうやったら助けられたんだよ!」

「……俺はそいつに会った事はないから何も言えねえ。それどころかお前のことも全然知らないからな。」



勤勉インダストリアの保持者は確かに似ている人間が多いだろう。しかし似ているだけだ。



「ただ、お前はグローリーを殺したのを後悔しているんだったら。」



それでも確実に言える事がある。これは一、人間としてだ。



「過去を恨むな。過去から何をするかだけ考えろ。それは英雄としての生き方じゃねえ。」

「だけど、俺は恩人を!親だったはずの人をこの手で殺したんだぞ!」

「うるせえ!そんな答えの出ない禅問答みてえなのやっても意味がねえんだよ!」



ああ、意味のない。何故なら答えがないのだから。



「本当にグローリーが救われなかったのかも分からねえんだろうが!」

「え?」

「最強になれなかった事は心残りだろうよ!だけど心残りなんて一切なく死ぬような人間なんざいねえんだよ!」



あの天才の幼馴染すら、心残りを死に際に残していた。



「答えを勝手にてめえが決めんじゃねえよ。本当にお前は救えなかったのか?本当にお前は正しくなかったのか?そんなの当人に聞かなくちゃわかんねえだろうが。」

「確かにそうだけど!」

「そうだけどなんだ?まさかお前の勝手な都合でそのグローリーに永遠に生き続けて欲しかったと?はっ!笑わせんじゃねえよ。」



少なくとも、絶対不変の正しさなんて存在しない。



「お前はそのグローリーに、何かを託されてんだろ?」

「なんで、知って……」

「自分の築き上げた何かを託すのは、俺たちは大好きなんだよ。」



誇りなんてない。自分の積み重ねてきた全てを渡すのに躊躇なんてない。それが俺らなんだ。



「言ったろ。強い奴になりたいだけなんだよ。俺たちはな。だから自分の力を無駄にする方が、よっぽど嫌なんでね。」

「託された、もの。」



シンヤは唖然として、動かなくなる。



「後は、自分で考えな。その託された意味を。何を考えて、それをお前に渡したかをな。」



俺は扉を開けて、部屋の外に出る。結局正解は聞いてみなきゃ分からない。ただ、推し量ることはできる。例えそうは思ってなかったとしても、それは一種の答えだ。長年一緒にいた二人であるなら、必ず真実に近い答えが出るはずなのだ。真剣に考えれば考えるほど。



「おや、ジンさん。随分と疲れたような顔をしていますね。」

「シルフェか。」



俺はスッと力が抜け、少し笑みを浮かべる。



「思いの外、勇者候補がめんどくさかったってだけだ。」

「それは、一学期の頃のジンさんのようにですか?」

「ま、そんなもんかもな。」



何かに取り憑かれると、正しさが分からなくなる。正しさなんて自分で決めるものなのにな。

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