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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第3章〜魔王と呼ばれた勇者〜
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4.勤勉を持つということ

その後、学生寮のシンヤの屋根に集まった。あまり外に聞かせたい話ではないらしいからな。



「で、話ってなんだ?」

「薄々感づいてはいるだろ。」



まあな。勤勉インダストリア関連なのは予測できる。まあそれ以上はあくまで『予想』の域を出ない。



「君が、勤勉インダストリアの保有者であるなら。俺は知りたいこと、いや、知らなくちゃいけないことがあるんだ。」

「知らなくちゃいけないこと?」



勤勉インダストリアに表も裏もないと思うが。



「ここから話すことは他言無用で頼む。聞きたくないかもしれないが、それなら補佐官として無理にでも聞いてほしい。俺にとってはそれぐらい大切な事なんだ。」

「……分かった。」



シンヤは不安そうな、それでいて期待しているような目を俺に向ける。



「まず俺のことについて話そうか。俺は今こそ七大騎士セブンスナイツのリーダーなんかやってるけど、二、三前までは七大騎士セブンスナイツの誰にも勝てなかった。そしてレベルは1だった。」



いや、だがちょっと待て。その言い方だとまるで二、三年でレベル10まで上がったような。



「俺には師匠がいた。それがジンと同じ勤勉インダストリアの保有者だったんだ。」



俺の疑問をよそに、シンヤは話を続ける。



「それこそが先代の七大騎士セブンスナイツ筆頭騎士。名をグローリー・ヴァルヴァトス。俺の父親代わりだった。」

「おい。勤勉インダストリア保持者が結婚なんてするか?時間の無駄になるだろ。」

「ああ、もちろん。俺は拾われたんだよ。」



グローリー。聞いたことがある。昔、理由も明かされずに突如消えた最強の騎士。



「グローリーは確かに強かった。それこそ人類最強の名をあのディザスト・フォン・テンペストと奪い合うぐらいには。」



ディザスト。誰もが認める世界最強。しかしそれが確定したのはつい二、三年前。そう。丁度グローリーが消えたのと同時期。つまりグローリーはあの最強の男に勝つ可能性があった人間なのだ。



勤勉インダストリアの保有者として相応しいようにグローリーは自分の技を極め続けた。」



勤勉インダストリアを保有しているものは、一人の例外もなく、強くなるために手段を選ばぬ人間だ。ブレーキを失ってしまった人間達だ。



「そして、限界が来た。」



だが、限界は来る。ブレーキを失っても、アクセルを踏む力が弱くなればいずれ止まる。例えどれだけ速くても。



「グローリーは老いには勝てなかった。ディザストは無限の命を持っていたが、グローリーはそれを持っていなかった。それが世界最強を競った男の決着だったんだ。」



間に合わなかったのだろう。その無念は痛いほどわかる。俺も、前世幼馴染にそれをやられた。



「そしてグローリーが選んだ道は、死だった。俺にとどめを刺される事だった。」

「そうか。」

「最強かもしれない、弱くなる前に、朽ち果てる前に死ぬ。それをグローリーは選んだんだ。」



シンヤは自分手のひらをまるでおぞましいものを見るように見る。



「だけど、俺は死んでほしくなかった。生きていて欲しかった。」



そして俺の目をしっかりと見て、少し躊躇いながらめ言葉を発する。



「結局、俺はグローリーを殺した。だけど聞きたいんだ。かの2代目勇者は勤勉インダストリアを保有しながら、幸せに生きたと言われている。つまりあの呪縛は解けるはずだったんだ。」

「まあ、そうだろうな」

「だから聞きたい。他ならぬ君に。なぜ、君たちはそこまで強さを求める。なぜ、人生を強くなる事以外で楽しめない?どうやったら、俺は、グローリーを救えたんだ!」



救えた、ねえ。



「俺たちはな。」



まあ、俺なりの答えを返そう。



「強さを求めたわけじゃないんだ。」



俺らに強さだけを求める存在がいるだろうか。否、そんな人間いるはずがない。



「強さに憧れる奴なんていない。強い奴に憧れるんだ。」



強い奴になろうとする。単純な技術に憧れた奴は、勤勉インダストリアは手に入らない。



「そして強い戦士に、強い魔導師に、強い剣士に。なんであれ何かに憧れ、そしてそれを極めようと努力する。」



これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。孔子の言葉だ。この楽しむ者こそが、強さに憧れた奴だ。剣術を身につけるたびに、その快感を楽しみ、更に求めようとする。俺たちとは違う。



「苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで。その強い奴になろうとする。」



俺たちは修行を楽しいと思ったことはない。俺たちが喜ぶのは自分の実力がついたと知った瞬間だ。修行は地獄であり、楽しみなんてありはしない。



「その結果、憧れたものを忘れる。」

「ッ!?」

「時間なんて一秒でも惜しい。無駄な思考はいらない。だからこそ自分が何になるためにそれをしているのかを忘れ、その結果強さを求めていると勘違いした傀儡が完成する。」



更に言葉を続ける。



「俺たちは強さを求めるのを楽しいと思ったことはない。むしろ楽しくない。だから敗北するその瞬間まで走り続けることしかできない。今までやってきた事を反復するように。」



正に傀儡だ。エースの言う通りだった。



「そして敗北を、限界を知った瞬間。人生の意味を見失う。幼き頃の情熱をそのままに突き進む事しか知らなかった。だから、一度止まれば。やめる生活なんて信じられない。」



だから勤勉インダストリアは敗北と最強のどちらも許されない。どちらも壊れる条件なのだ。



「そして今までの人生が最高潮のうちに終わらせるなんてのは、簡単に想像できるだろ?」



だって、人形がこれから違うことができるわけないじゃないか。

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