3.転校生
こっからほとんどシリアス。
このグレゼリオン学園が何故、世界で最も優れた学園であるか。その理由はいくつかある。しかし、一番大きいものと挙げるのなら一つに決まるだろう。
それは教員の質である。例えば戦闘学部だが、レベル8以上であることが前提条件。そこから教員の資格を持つものとして選別されていくのだ。故に様々な経験があり、ありとあらゆる分野から生徒をサポートできる。
だからこそ戦闘学部は完璧な実力主義を達成できるのだ。普通の学校ならテストの成績さえ良ければ後はもういいなんてできるはずもない。
さて、ここまでの前置きで何を言いたいのかというとグレゼリオン学園にはクラスという概念がないというわけだ。というか必要ない。卒業時にはどうせ十数人程度しか残らないのだ。だから授業など出る必要はないし、成績さえ取れればいい。だから転校生が来たというのは引くほど気付かれにくい。
「どうもどうも。」
「これから宜しく頼むぞ。ジン・アルカッセル殿。」
「その外見だけ取り繕った話し方いらねえから。」
「……そうか。ならいつもの口調で話させてもらおうか。」
俺の目の前に立つのはこの世界では珍しい俺と同じ黒髪黒目。制服を着ていることから分かる通り、一応学生ということになっているやつ。
「俺の名前はシンヤ・カンザキ。役職は知っての通りだし、目的も通っているだろう?」
七大騎士筆頭にして勇者候補。今回の目的は聖剣の儀を執り行うため。何故勇者として大きく呼ばないのかと言われるなら、もしも失敗した時の負担が大きいからだ。あくまで候補だからね。
「俺の名前は知っての通りジン・アルカッセル。グレゼリオン学園一年生徒会副会長にして、帰宅部に所属している。」
「ジンと呼んでもいいか?俺もシンヤで構わないから。」
「分かった。」
物腰が柔らかいな。レベル10にしては珍しい。この大人しさが勇者候補に選ばれた理由なのだろう。
「それじゃあ今回は一ヶ月間補佐を頼むよ。」
「あいよ。」
名義は留学だ。だからどれだけ長期でも一ヶ月。聖剣がある精霊界に行けるようになったら即座に出発という形になる。
「それじゃあ学園長のところへと案内してもらえるかな?」
「いや、多分必要ないと思うぜ。」
「ま、そうじゃな。」
なんの脈絡もなく視界が切り替わる。学園長室だ。この学園には結界が張っている。その結界内にいる限り、学園長がいつでも転移させられるように。
「久しいな。『賢神』オーディン・ウァクラート。」
「お主こそ元気そうで何よりじゃ。」
「それで、この学園内で私は何を行えば?」
「特に大きな用はないがの。強いてあるとするなら、講師としての活動じゃな。留学とは言うが、お主の実力は教える側のものじゃ。まあ学園内にもそう言う人間は何人かおるのじゃが。」
エースとか生徒会長だな。並の教師じゃ相手にならないだろう。別に教師が弱いわけではないのだが。
「対象は一年生じゃ。方法は任せるが、取り敢えず一年生に世界の広さを教えてやれば良い。」
「了解した。ならば私の方で準備を進めよう。」
ふーん。というか俺が補佐に回る必要あるのか?
「ところでシンヤよ。そこのジンは勤勉を保持しているのじゃ。」
「ッ!?勤勉を持っているのですか!?」
ここでシンヤが凄い形相でこっちを見る。
「いや、だが、確かに……」
「しかし克服しておる。あいつは克服できなかった一種の呪いをな。」
俺を置いてけぼりにしてシンヤと学園長が話を続ける。
「一体どうやって……」
「ジンから生き方を学ぶのじゃな。あいつが死んでから、お主が失ってしまったものじゃからな。」
「生き方を……」
参考になる生き方なんざしてねえけどな。
「それじゃあ日時は後日伝えるのじゃ。また今度の。」
「……は。分かりました。」
そう言って退室するシンヤに続いて俺も出る。
「少し、話を聞いていいかい?」
シンヤは俺にそう告げた。




