5.夏と海は切りきれぬ 後編
「で、なんでこっちの孤島にいんだお前は。」
バカンスとかならここに来る必要はない。というかここに人はあまり寄り付かん。人もいないし、橋もかかってないし、船も通っていない。来る必要がない。
「まさかこの我に人混みの中で、塵芥供と一緒に海に入れと?ハッ!笑えんジョークよ。」
「どんだけプライドたけえんだよ。」
というか仮にも国民を塵芥って……
「逆に貴様はなぜここに……ああ、言わんでもいい。既に読んでいる。」
「ナチュラルに心読むんじゃねえよ。」
「ふむ。貴様らさては馬鹿か?」
「うるせえな。」
まあ確かにたかが競争に使うパワーではなかったな。
「そういや、さっきからアクト静かだな……」
俺はそう思い振り返るとアクトがいなかった。
「うん?」
「ジン。我は決して許したとは言っておらぬ。例えそれが間違いであっても、我が婚約者を奪おうという愚考をした者は相応の罰を与えねばなるまい。」
周りをよく見ると木に鉄の檻がぶら下げられていた。その中にアクトが入っている。
「扱いが珍獣じゃねえか。」
「音声遮断の術師を刻んだオリハルコンで作った檻よ。猛獣を縛りつけるのに最適な檻だな。」
そう言ってエースは高笑いをする。アクトは檻を叩きながら何か言っているようだが聞こえない。
「それでは我は睡眠を取ってこよう。エルはよく話しそうであるしな。」
エースはチラッとシルフェの方を見た。まあ確かに結構これから話し込みそうな気はするしな。
「ではさらばだ。」
そう言って欠伸をしながらエースは木の家に戻っていった。
「……アクト。助けてやろうか?」
俺はアクトの檻の前に立ってそう言う。するとアクトは首をもう取れるんじゃねえかってぐらい超高速で振る。
「しょうがねえな。『絶剣』」
俺が降った剣は宙を切る。すると檻だけが切れ、アクトが真っ直ぐ落下する。
「かーッ!次に会ったら絶対にボコボコにしてやる!」
「いや、無理だろ。」
冗談でも無茶だ。俺は手加減されまくってぼろ負けしたし。
「今は無理でもいつか勝ちゃあいいんだよ!」
「この俺を倒せんうちには無理に決まってんだろ?シルフェにも負けてんだからよ。」
「ああ?俺聞いてるからな。お前ファルクラムに負けてんだろ?なら俺とお前がどっちが強いかの優劣はまだついてないわけだ。」
「あ?ならここで決着つけるか?」
俺は木刀を抜き、槍を構える。
「いいじゃねえか!折角だからここで試験のリベンジ果たそうじゃねえの!」
「それじゃあやろうか。蹂躙してやんよ……」
そう言って今にも飛び込もうとした瞬間。海の方から魔力を感じた。
「……クラーケンか。」
「どうでもいいだろ。やろうぜ。」
「いや、やっぱやめた。お前まだレベル5だろ。」
「あ?お前も5だろうが。」
「帰宅部の合宿でレベル6に上がってんだよ。」
クラーケンの危険度は確か5だったな。
「またお前上がったのかよ!一学期だけでどんだけ上げんだよテメエ!」
「うるせえな!俺だってモンスターハウスに当たるとは思ってなかったんだよ。」
それより、と。俺はクラーケンに木刀を向ける。
「先にあいつを倒した方の勝ちってことにしないか?」
「はっ!まあいいぜ。勝負が先延ばしになるのは癪だがな。」
俺とアクトは同時に飛び出す。
「海の藻屑にしてやんよ!」
「やあこんにちは。死ね!」
アクトの言葉に続き、俺が言う。勝敗はまあ、ご想像にお任せするとでもしようか。




