6.最悪の事態
すこーしだけストーリーが動きます。
父さんはこの家を出る時家の周りに結界をかけていったらしい。恐らく魔物などが来ることを危惧しての行動であろう。しかし、この数は予想していなかったのだろうか。
「どうしようか。」
俺は家の中から結界の外を見る。結界の周りには何十匹もの狼の姿があった。大きさは普通の狼より少し大きい程度。しかしその緑色の体毛とあまりにも紅く染まった双眸、更に狼から漂う魔力を見ればそれが魔物だということはすぐに分かった。
ここだけではまだそこまで動揺しなかった。結界がある事はわかったし、何より数匹ぐらいならば勝機はなくはなかったからだ。いくら群とはいえ、そこまで強い魔物ではない。だが問題はそこからだ。更に少しずつ何匹も狼が集まり、何度も何度も突進を仕掛けている。ざっと見渡しただけで100匹以上いるのは分かる。
「どれだけ持つか……」
父さんは魔法が得意な方ではない。近接戦闘で役に立つ光属性魔法だけを習得しており、それ以外はからっきしだ。もちろん結界魔法なんて張れるけどこの数ともなればもう無理だろう。
「森の狼となると十中八九フォレストウルフだろうな。危険度は確か1だったはずだが。」
この世界には危険度と言われる、魔物の強さを分類分けするものがある。危険度の数字はそれと同じレベルなら余裕を持って倒せる程度。これは鍛えている前提だし、一般人は危険度0の魔物しか倒せないだろうけど。
「どうしよう。」
もちろん俺じゃあ勝てない。確かには数十匹なら倒せるだろう。しかしこんなに数がいたらそうもいかない。少しでも隙を見せれば飛び付かれ、身体中を噛み切られて死ぬ。だからこそ策を巡らせなければならない。
「あ。」
パリーンという音が辺りに響く。十中八九結界が壊れたのだろう。あの置き手紙の情報が正しければ、父さんは今日帰ってくる。そこまで耐えなければならないわけだが、悪足掻きをするか。
「『水鳥』『多重展開』」
水の鳥を生み出し、それを増やす。多重展開は要は印刷機だ。手動で写すか、機械で写すかどっちの方が楽かは一考の余地もないだろう。
「『水檻』」
家の周りに簡単な水の膜を貼る。
「頼むぞ。」
水鳥自体は偵察用ぐらいの効力しかない上にバレやすい。しかし第二階位魔法である破裂、水属性魔法を飛び散らさせる魔法を使えば低コストでそこそこの威力を出せる。破裂自体の魔力消費は少ないからな。他の属性の方が威力は高いが、俺がまだ使えないのだ。
「何匹やれるか。」
取り敢えず第一撃。意識を集中させ、魔力を感じ取る。
「『破裂』……足りねえな。」
家の外から聞き慣れた破裂音が響く。それと同時に鳴き声が聞こえるが、窓から見る感じ全然減ってない。やれたのは二、三匹程度。対象を1匹に絞った方がいいな。なおかつ足に。ポーションはそこそこあるが、どれだけ持つか。
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side グラド・ヴィオーガー
「あ?」
家の周辺に仕掛けている結界が壊れた感覚がした。ちょうど仕事が終わり、今から帰ろうとしている中。周辺で結界を容易に壊せる魔物は存在しない。つまり突然変異の上位個体か、相当な数が集まったか。どちらにせよジンには荷が重い。
「しょうがねえな!」
俺は膨大な闘気を体に纏う。
「死ぬんじゃねえぞ!」
俺は住んでいる森の方に向かい全力で走り出した。
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side ジン・アルカッセル
……魔力が尽きた。水檻も破られた。しかしまだやれたのは数十匹。今や数千もいる狼を止めることはできない。武器は木刀のみ。逃げようにもあいつらは俺の魔力を追ってくる。万事休すとはこのことか。ならば父さんが帰ってくるまで、いかにして耐えきるかが大切なことだ。俺がいる場所は二階。家を崩そうにもこの家はただの木造建築じゃない。父さんの魔力を詰め込んだ魔木だ。壊すのはほぼ不可能。ならば。
「階段から確実に上がってくる。」
この家は庭から家の中に入れるようになっている。しかし階段は一つのみ。ならばこの一年で磨き上げた闘気の力で1匹ずつ倒すしかない。
「来た。」
早速上がってくるフォレストウルフの脳天を木刀で突き刺す。急所をついたのもあって一撃で倒せた。倒れたフォレストウルフを飛び越え、もう1匹突っ込んでくる。
「はあ!」
今度は更に威力を出し、一撃で腹を切り裂く。そのまま死骸を木刀に引っ掛け、真っ二つに斬れた上半身の方を叩き下ろす。下にいるフォレストウルフを吹き飛んでいく。しかし更にどんどんやってくる。元より無尽蔵なまでにいるのだ。確実に一撃で仕留めていくしかない。相手は何十匹もの群れ。後先考えないやり方じゃ死ぬ。