16.永遠の親友と
気付けば勝負どころじゃない。俺もシルフェも泣いている。俺は自分の苦しみにより泣き、シルフェは俺をいたわり泣く。本来なら分かり合えるはずの俺たちは何故か決定的に分かり合えなかった。
「なら、貴方は結局何になりたかったんですか?」
「さあな。もう思い出せないから。思い出さねえよ。」
分かり合えない。だから己が我を通すのだ。
「我が道は永遠となりて、果てなき姿を目指し続く。」
「我が剣は無敵であり、全てを両断する。」
俺とシルフェが詠唱を始める。
「幾度も姿を変え、我に力を貸せ。永遠となる祖である『幻影青竜』よ。」
「この一撃は全てを内包する。一よ、二よ、三よ、四よ、五よ。今その姿を一つに束ねよ。」
俺が最後に放った無銘流奥義六ノ型『絶剣』は俺が創り出した必殺。理論や概念すら超越し、ただ真っ直ぐ、鋭く、強靭に放つ一撃が対象を斬るという事実を創り出す。
「それは最優であり、無限の成長を。それは万物であり、数多の恩恵を。それは恵みであり、万物の癒しを。」
「それを我が六の刃に集約し穿て。何よりも強く、何よりも速く、何よりも堅く、何よりも遠く、何よりも完全であれ。」
そしてふと考えた。もし、全ての型を同時に放てばどうなるかと。本来ならあんなにベクトルの違うものは混ざり合わない。しかし絶剣は理論や概念を無視するが故に可能である。
「シルフェード・フォン・ファルクラムの名において、その究極の一撃を放て!」
「全てを繋ぐは全てを乖離す我が剣。神よ鬼よ、乱れてその血を流せ!」
しかし俺ですら制御できないその一撃は、長い詠唱を必須とする。言葉に魔力を乗せ、安定させるために。
「これこそが神の息吹!」
シルフェの背後に立つその青竜の口に、魔力でもなく闘気でもない。エネルギーが収束される。蒼き光が、輝き、そして滅ぼさんと放たれる。これこそが神代の放つ息吹。
「『神たる蒼き竜が息吹』」
対して放つは一つの木刀。しかしそこに集まる五つの魔力は、異常と言っても足りぬほどの密度。剣士として目指したジン・アルカッセルの究極系。一太刀で全てを切り裂く一撃。
「無銘流奥義七ノ型『神鬼乱血』」
全てを飲み込まんとする蒼きの息吹と、全てを切り裂かんとする紅き刃。
「らあああああああああああああああ!!!!!!!!」
「はあああああああああああああああ!!!!!!!!」
少しでも集中力を欠けば、即座に霧散する繊細であり最強の一撃。その一撃は二人が立つ大地を抉り、滅ぼしていき……
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……はは。
「結局、どっちが勝ったんだこれ。」
俺は寝転がりながらそう呟く。俺は反動で体がボロボロで、しかも魔力も闘気もない。つまりほとんど死体みたいになっていた。
「私の勝ちですよ。最後に私が立ってたんですから。」
「抜かせ。青竜がいなきゃもうくたばってるだろ。」
青竜はどうやら自動強化だけでなく、自動回復もあるらしい。だから正確に言うなら一度倒れた後に立ったわけだ。
「まあ、俺の負けだなあ。」
「どうですか。敗北の味は。」
「まあ、うん。いやあ、案外悔しくない。」
なんだろうか。不思議と心がスッキリしてるんだ。思ってたこと全部吐き出したからだろうか。
「次は絶対に勝つからな。」
「それはこちらのセリフですね。次こそは完勝してやりますよ。」
はは。ああ、まあ、そうかあ。
「俺さあ。何のために強くなろうとしたのか、なんとなく分かったかもしれねえよ。」
思い出しんじゃない。そんな気がなんとなくしたというだけ。
「俺はさ、英雄になりなかったんだよ。どんな逆境でも決して諦めず、みんなの先頭に立って。誰にも負けない。」
「はい。」
「なんで、こんな単純なこと。思い出せなかったんだろうな。」
今の俺は英雄と呼ぶにはあまりにも相応しくない。こんなにも進むべき道を違えた。一歩間違えばアクトを、友を殺したかもしれないなど。
「シルフェ肩を貸してくれ。」
「またですか?」
「お前がやったんだから良いだろ?お前の方が余裕あるんだから。」
俺はシルフェの肩を借りて、歩いていく。向かう先はもちろん保健室だ。
「もう慣れたもんですね。」
「これで、確か3回目か。」
「これっきりにしてくださいよ。」
「確証はできんね。」
俺は少し笑う。
「なあシルフェ。」
「なんですか?」
「俺はお前のこと大好きだよ。」
「は?」
「そんな底冷えするような声出すなよ。俺たちは親友だろ?」
「否定はしません。」
やっと俺はジン・アルカッセルという人間になれたのだろう。やっと俺は普通の人間になれたんだろう。だから、自由に生きるとしよう。異世界転生者らしくね。
『神たる蒼き竜が息吹』
四大公爵の内、最東に領地を持つファルクラム家。二代目勇者が祖先であり、その二代目勇者が契約した青竜の力は代々当主に受け継がれている。青竜は神代の時代から生きる所謂神獣の一角であり、再生、活性、万能を司る。神たる蒼き竜が息吹はその青竜が最終奥義であり、これを使ったら気絶する。使い終わった後は自分の身体能力を極限まで1日の間下げるので、気軽に使える代物ではない上に使うのに長い詠唱が必要。神獣が保有する『神力』と、自身が保有する『原初の青』を合わせたエネルギーを超圧縮させて放つ。自身の保有する能力に比例して威力が上がるので、もちろんまだ威力は上がります。活性の能力を持つため、遠距離から撃てば撃つほど威力が上がります。更に再生を組み合わせれば、ダメージを与える対象を選べます。
無銘流奥義七ノ型『神鬼乱血』
六ノ型を知っている前提で書くので、六ノ型の詳細を二章十四話の後書きに追加するのでそれを見てからでどうぞ。無銘流奥義の一から五の奥義を纏めて六ノ型に纏めて放つ技。名前の由来は神や鬼でも血を流すほど強き一撃であることから。こちらもジン・アルカッセルが創り出した奥義。理論や概念を無視するという特性を活かし、本来なら合わさらない圧縮された魔力と、鋭い魔力と、受け流す魔力と、維持する魔力を全魔力で放つというバカげた一撃。上の技を防ぐために真正面から放ったが、別に本体を狙うのもあり。効果的には物凄く硬い鉄がめっちゃ鋭く、だけど流動的に相手の攻撃を受け流して、衝撃で潰れない上に質量がカンストしてる状態。だけど小さい。




