14.永遠の親友が
「やあ、大丈夫かい?」
「……エルか。」
エースはが通路を歩いている途中、エルが現れる。
「随分と深い傷を喰らったね。君が傷を受けるなんて久しぶりに見たよ。」
「わざと喰らったのだ。勘違いするな。」
「まあ、それはともかく優勝おめでとう。」
エースは立ち止まる。
「貴様も優勝したのであろう?それも随分と圧勝のようだったが。」
「そりゃあ僕も優勝したよ?だけど僕には君ほどの難敵はいなかったからね。特に最後のジンって人には全く勝てる気がしない。」
事実、エルは団体戦で優勝した。しかしそのほとんどが圧勝と言えるものだった。
「まあ、あいつは中々に面白い奴であった。」
「ジン君もそこまで評価されるのであったら、喜ばしい事なのかも知れませんね。」
空気が歪んで、そこから一人の男が現れる。その名は『学園最強』ロウ・フォン・リラーティナ。
「ロウ。わざわざ待ち伏せをして何の用だ?」
「少しお願いがありまして。」
「なんだ。言ってみよ。」
「辞退して頂けませんか?二年生への挑戦を。」
武闘祭では、個人戦で優勝した一年生は二年生の優勝者と戦う権利を得る。そしてその戦いに勝利したものが三年生の優勝者と戦う権利を得るのだ。
「最後の戦いは生徒会長を決める戦い。私とて流石に譲れないものがあります。」
「ほう。我への勝算を持たぬが故に辞退すると?」
「いえ、勝算がないわけではありませんが・・・少し祭典としては派手になり過ぎるかと。」
ロウの背後が歪む。七本の角を生やした頭部を持ち、とてつもない筋肉の塊が不定形の体の表面でうねっている炎の化身の姿。周囲の温度が急激に上昇し、全てを焼き殺さんとする。
「どちらも得はしないでしょう?」
「……ふん。いいだろう。貴様の発言にのってやる。くだらない祭典の割には随分と楽しめた。」
そういってロウの隣をエースが通り抜ける。
「ああ、ごめんね。確かエル・フォン・クライさんだったか。こいつは僕の無意識で出てきちゃうから。」
背後の化身が消える。
「良い弓の腕だ。これからも頑張ってくれ。」
そう言ってロウは炎に包まれ消えていった。
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視界がモノクロだ。いや、ずっと前からモノクロだった。ずっと昔から味覚も感じてなかったし、小学生の頃の曖昧な自分をイメージしてずっと普通なフリをしていた。まあ正確に言うなら感じてはいるが理解できていない、だろうか。
「……」
俺は目の前の扉を強引に開ける。俺が起きた頃にはもう武闘祭は終わっていた。身体へのダメージが深く、治癒に時間がかかったのだ。
「……本当に、いつでもいるんだな。」
「私は生徒会長だからね。」
生徒会室には生徒会長であるロウ先輩と俺しかいない。
「ここに来たという事は、つまりそういう事かい?」
「条件がある。」
余裕綽々な笑みを浮かべるロウ先輩を睨みつけるようにして言う。
「俺を強くしてくれ。」
「……それ以上の力を、どうしても今求めるのかい?君はそのペースでいったら確実にいつかエース様とも並べる。そこまで生き急ぐ必要はないと思うけどね。」
「今じゃなきゃダメなんだ。」
そうだ。今じゃなきゃいけない。
「それはどうして?」
「俺はあいつに、絶対に勝たなくちゃならないんだよ。それ以上の理由なんてありはしない。もう方法を出し惜しんでる暇はない。」
「……ふむ。」
「俺がこうしている間にも、あいつは強くなるかもしれない。もっと、それより強い奴が来るかもしれない。だから急がなきゃならないんだ。この一瞬でさえ、時間が惜しい。」
あんな奴ぐらい簡単に倒せなきゃいけない。俺は勝たなくちゃいけない。勝つ以外の選択肢はない。
「残念ながらお断りさせていただこう。」
「……は?」
「よくよく考えてみるといい。自分の胸に今の自分を聞いてみろ。今の君を育てる気に私はなれない。」
なんで、そんな。
「もう負けるわけにはいかないんだよ!」
「一度頭を冷やしな。君には期待している。」
俺の体が炎に包まれる。
「後は、彼女に任せるとしようかな。」
体全体が炎に包まれ、何も見えなくなった瞬間。地面を踏む感覚が変わる。炎が晴れた先に見えるのは、輝く月と夜空。
「……シルフェ。」
そして俺の親友の姿だった。




