12.絶望を知る
俺の腹から下がない。痛覚は感じない。が、このままだと出欠多量で死ぬ。
「……ミシャンドラ。」
『了解した。契約者よ。』
俺の脳内に悪魔の声が響く。すると俺の下半身は激痛と共に再生する。感情を失ったはずの俺が苦しいと感じる魂ごと抉るような苦痛。こんなの何度もやったら頭が潰れる。だからミシャンドラの力は容易に使えないんだ。
「ほう。悪魔の力か。しかも七十二柱の一つとは。」
そう言うエースの右手には光り輝く剣があった。黄金などの輝きではない。剣そのものが光り輝いているのだ。なんだ、これは。
「それで、我が剣の味はどうだった?」
「最悪だよ。」
「そうかそうか!我がこいつを抜くことなど早々ないからな!光栄に思うが良い!」
エースは愉快げに笑う。
「名をエクスカリバー!異界の剣である!」
エクス、カリバー?おいおい。ちょっと待てよ。存在しない武具を創造している?アーサー王が異世界転移したわけでもないのに何故ここにそれがある。
「どうした異界の民よ。そんなに意外か。故郷の武器が存在するのが。」
「ッ!?」
バレている?何故だ。何故俺が地球の出身だと知っている。
「我が持つ『王眼』は格下の思考を読み取る。故に貴様の考えが手に取るように分かるぞ。」
「タチが悪いな。」
「持たざるものの嫉妬ほど醜いものはないぞ。」
だがしかし。どういう事だ。好きな武具を作れるというのはそこまで可能なのか?なら、何でもできるじゃないか。論理上勝利不可能だろ。
「そう言うな。別に好きな武具を使えるわけではない。世界に存在したありとあらゆる武具を再現するだけよ。言わばこれは偽物よ。」
「偽物、ね。」
偽物であっても脅威である事に変わりはない。しかし世界に存在しない武具だぞそれは。
「この世界には存在はせぬし、貴様の世界にも存在はせぬ。しかしこの能力を最初に使った男。つまり我が祖先たるグレゼリオン王国が初代国王の魂が知識として呼び覚ましているのだ。」
「何でもアリかよ!」
チートだ。そんなものを使ったら勝つに決まっている。おかしいだろ。理不尽だろ。これだから天才は嫌いなんだ!
「さて、そろそろ無駄な問答は終わりとしよう。我は今、貴様を叩きのめしている最中であるからな。」
エースが光り輝く剣を構える。その光は更に明るく、そして力が溜まり行くのを感じる。
「上手く耐えろよ。道化が。」
「ッ!無銘流奥義五ノ型!」
俺は即座に最強の一撃を放つ事を覚悟した。寧ろ、魔力と闘気を全て使わなければ死ぬと。
「『ブリテン王の聖剣』」
「『修羅』」
光の奔流と、黒き刃が衝突した。
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生き、ている。エースのエクスカリバーから放たれた一撃は極太のレーザーのようだった。それを一点集中で一部は防いだのだ。しかし、逆にいうなら一部しか防げなかった。余波で俺の体は軽く瀕死レベルになっている。
「まだやるか?」
言葉を発せない。喉がやられた。立つのがやっとだ。しかしまだ戦う。まだ負けていない。まだ俺には切れる札がある。
「はあ。仕方あるまい。元より貴様を完膚なきまでに叩きのめすのが我の目的よ。貴様が思ったより頑固だったのが唯一の誤算だったがな。」
そう言ってエクスカリバーは消える。しかしまた別の武具が空間が歪み、構築されていく。
「これも知っているだろう?」
ギリシャ神話の主神ゼウスを知っているだろうか。ゼウスは天空神であり、雷を司る神ではない。で、あるのに雷を使う神だと大衆に思われているのには一つ理由がある。それはゼウスが使用した武器だ。
曰く宇宙を一撃で燃やし尽くすと言われた武器。
雷霆『ケラウノス』。エースが持っているのは恐らくそれ。雷を操る武器ではなく、武器の形をした雷。ならば有名なものとしては、少なくとも俺はそれしか知らない。
「原典ほどの威力はないが、貴様を消し炭にするのには十分な威力がある。」
まるで愚かしいものを見るように俺を見て言う。
「それでも戦うのか?」
俺は構えを解かず、エースをずっと睨みつけている。
「面白い!なら受けてみるがいい!」
周辺から魔力が消える。否、全ての魔力がエースの持つ雷へ収束したのだ。
「『天空神の雷霆』」
辺り轟音と共に、光が包んだ。




