10.狂気に沈む
俺はこの時まで、とある男の存在を忘れていた。故に俺はシルフェと戦うとばかり思っていた。
「何だよこれ。」
シルフェの体を数多の武具を貫いている。呆気なかった。あまりにも一瞬。シルフェが青竜の力を使う間も無く。黄金の剣、黄金の槍、黄金の刀。全て黄金の輝く武具が開始直後にシルフェを貫いたのだ。
『エース・フォン・グレゼリオン選手の勝利!』
そうか。そうだよな。俺に勝利すると言ったんだ。しかも決勝で。ならつまりそれは、決勝まで行けるのは当たり前だという事だ。
「は、ハハハハハハハハ!!!!」
俺は狂ったように大声で笑う。負けるかもしれないのだ。あのシルフェに圧勝したのだから。
しかし、心のどこかで期待もしている。あの親友のような、天才を。そんな奴を俺が倒せたら、あいつを倒せたという証明にならないのだろうか。ということを。あいつにやっと勝てるんじゃないかと。
しかし、まだ足りない。急がなくては。アクトの元へと俺は走る。勝率を1%でも上げるためにはあいつの眼が必要だ。
「どこへ行くつもりだ?ジン。」
そんな俺の前にベルゴ先生が立ち塞がる。
「てめえは勤勉は持ってたけどよ、強欲は持ってなかったはずだよな?」
バレている。俺がこれからやろうとしている事を。
「通して、くれないか?」
「断るぜ。何があっても教師が生徒の凶行を止めない理由はねえだろうがよ。」
ベルゴ先生はどこからともなく槍を出し俺に向ける。
「選びな。ここで俺様に殺されるか。帰って試合をやるか。」
「・・・はっ!」
俺は振り返る。なら、どうやってあいつに勝てるか考えなくちゃな。アクトの眼を奪えれば勝率はかなり上がったんだが。使ったのはあのどこからともなく現れた黄金の武具達だけだった。魔法か?いや、それなら黄金にするのは効率が悪い。
ならばスキルか。この可能性が一番高いだろう。恐らく好きな武具を生成する能力ではないだろうか。ならばかなり厄介だ。しかしそれなら体内に出現させたり、ゼロ距離射撃を行った方が楽だろう。恐らくなんらかの制限があるとみた。ならそれの対策を考えなくては・・・
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「人の眼球抉り出そうとしたのに、あの感じかよ。」
ベルゴは冷や汗をかいた。恐怖したのだ。人の目を奪おうとして無理だと判断したらもう今までした事を忘れるかのようにこれからの戦いへの考察を加速させた。正気じゃない。罪悪感という感情は存在しないのだろうかと考えたのだ。
「狂ってやがる。」
ベルゴは若い頃、色々無茶をした。しかしその先には欲があり、楽しさを求めたものだ。決して他人の人生を歪めるものではなかった。
「強い奴ってのは、どこかおかしいのか?」
自分の馬の頭を棚に上げてベルゴは呟く。あのままだったら恐らくジンを捕まえなくてはならないだろう。
(猶予は夏休みまでだ。恐らくあの性格が直らなきゃ学園に二度と戻って来ねえだろうな。)
ベルゴはその時、生徒を殺す覚悟を決めた。
きっと凡人はまともなままじゃ、天才に並べないんだと思う。例え正気を保っていたとしてもその先の景色を見て、何を思うのだろう。




