9.己を知れ
sideアクト・ラス
不味い。しまった。やらかした!
「あぐっ!」
青竜。聞いたことはあった。ファルクラム家が保有する決戦兵器。東を守護する蒼き竜を。しかしまさかその正体がスキルそのものだとは!
「転移の魔眼!」
視界に入ったところに瞬時に転移する魔眼。その力でシルフェードの背後に立つ。
「青竜は万物を癒し、育てる。」
弱くなっているはずのシルフェードの防御を破れない。俺が能力を奪うより速く強くなっている!
「あなたが言った事をそのままお返ししましょう。もうあなたでは私に追い付けない!」
さまざまな魔眼の能力を駆使するが、実体化した青竜とシルフェードに一撃すら与えられない。
「いわゆる、形勢逆転というやつですね。」
シルフェードは満身創痍の俺の体に切っ先を向ける。傷は確かに魔眼で消せる。しかし失った体力は戻らないし、能力は上がらない。それに対し、シルフェードは今も力が上がり続けている。ジンの勤勉のように!
「いや、まだだぜ。」
俺は両眼を黒く染める。ここから先はもはや操作が効くかわからない。
「試してみなきゃわからねえよな!」
「ッ!青竜!」
青竜が突っ込んでくる瞬間。俺は叫ぶ。
「奪い尽くせ!『愚王の黒眼』」
俺の両眼は青竜とシルフェードの力を急速に奪う。魔眼というのはその名を語ると効力を増す。まあ俺のは魔眼とは少し違うが、根本は似たようなものだ。
「うぐあっ!」
しかし青竜は止まらない。当たり前だ。力を奪うといってもそんな瞬時になくなるわけじゃないし、元々かなり接近していたのだ。痛い。痛いが、どんどん入る力が弱くなってきてる。まだ戦える。
「俺は、まだ負けてねえぜ!」
負けたくない。その一心で俺は立っているのだ。誰も止められやしない。
「私はチェックと言ったのではありません。」
シルフェードの蒼い眼が俺を貫く。
「チェックメイト。貴方はもう詰んでいるんですよ。」
まだだ。俺は負けていない。俺は全身に力を入れた瞬間。
「青竜は万物を司る。」
青竜は氷竜と変化していき、俺の体を凍らせる。
「転移の魔眼が使えない!?」
「無駄ですよ。それは魔法でもなく、スキルのようでスキルではない。ファルクラム家最強の力なのですから。」
完全氷結。全く体が動かなくなり、俺の意識が遠のく中。
『決着!シルフェード・フォン・ファルクラムの勝利です!』
そんなアナウンスが聞こえて、完全に意識を落とした。
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sideジン・アルカッセル
アクトが氷漬けになった瞬間シルフェも倒れる。俺は迷わず会場に飛び込む。観客席に張ってある結界は中からの攻撃には強いけど、外からなら簡単に入れるようになっている。と言っても魔法的攻撃は全て通さないのだが。
「おいシルフェ。大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。傷は全部治っているので、魔力とか闘気が足りないだけです。」
「そうか。試合までにちゃんとポーション飲んどけよ。」
俺は手をシルフェに向かって差し伸べる。シルフェはそれを掴んで立ち上がる。
「それでは、決勝で会いましょうか。」
「ああ、準決勝で沈むんじゃねえよ?」
「そちらこそ。」
そう言ってシルフェは自分の足で去っていく。氷漬けになったアクトはそのまま運び出されている。溶かすにはそこそこ時間がかかるだろう。まあその前に、俺の試合だ。
『遂に準決勝!ここまで辿り着いた生徒の栄誉を称え、紹介させて頂きます!』
会場内にそんな声が響く。
『なんとその武器は木刀!圧倒的な魔力、闘気量とそれを扱い切る技術!今までの試合は全て一撃!剣術部部長であるマルコですら認める剣術は一体どれほどの力を持つのか!ジン・アルカッセル選手!』
歓声が響く。流石に無名の奴でもここまで来れば人気が出るもんだ。
『それに対するは、今年のグレゼリオン学園を主席合格!』
ゆっくりと一人の男が出てくる。その髪の色は俺と同じ黒色。
『その武術はもちろん、何より素晴らしいのはその魔法!正体不明の希少属性のみを使い、それだけで満点を叩き出したという逸材!フィーノ・ヴァグノ選手!』
正体不明の希少属性ね。こいつの試合は俺も少し見たが、まあなんとも言えない。
『それでは準決勝開始!』
その言葉と同時に木刀を振るう。
「斬られた人間は斬られた事にすら気付かない。それこそが剣術の極意。」
俺はそのまま出口に向かう。
「おい!どこに行くというんだ!まだ試合は終わっていな、い、ぞ?」
ああ。大声で叫ぶから傷が開いてしまっていた。
『決着です!何と瞬殺!あまりにも呆気ない結果となってしまいました!』
本当に、なんとも言えないような実力だった。
ちょっと内容変えました。こっちからすると大きな違いだけど、読み手には全く問題ないから気にしないでくれ。




