8.切り札
ジョジョって良いよね
あの不思議な世界観に取り込まれる
あんなのかける人なんてこの世に二人もいないと思うんだ
アクトの左眼が黒く染まる。見た目では何の変化もない。
「それは一体なんなんですか?」
「さあな!自分で考えな!」
アクトは強化の魔眼の力で地面を蹴り出し、シルフェードに槍を刺し穿つ。
「何が変わったと?」
しかしその一撃はシルフェードに軽く弾かれる。しかしそこでシルフェードの想定外の事が起こった。
「強化の魔眼を切らない!?」
「らあっ!」
いつものアクトであるならば魔力の温存のために強化の魔眼を使うのは一瞬だけだ。しかし切らない。
「くっ!」
予想外であるが故にもう一撃を防ぎ切れず、体勢を崩す。相手の虚をつける一撃というのは、戦闘時では相手を驚かせるだけじゃすまない。通常時ならできる事が容易にできなくなるのだ。
「がっ!」
腹に槍が突き刺さる。シルフェードは反射的に後ろに跳びのき、距離を取ろうとする。しかし予知の魔眼を持つアクトにとってそれは予想内。
「一瞬あれば十分ですよ!」
腹の傷が瞬く間に癒える。これが本来のシルフェードの強み。どんな傷を受けても即座に癒す事ができる。しかし流石にこの傷は魔力消費がかなりのものとなっているはずであろう。
「ならもう一回!」
「同じ手は通用しませんよ!」
再びアクトがその槍をシルフェードへ刺し穿つ。シルフェードは再び弾いて攻勢に移ろうとしたが――
「さっきより力が強い?」
槍を弾き、シルフェードがアクトに攻撃した。しかし防御されてしまった事もあったのか、壁にぶつかる事もなく地面を滑りながら着地した。先程より少し飛んでいない。
「その程度かよ!」
何度も打ち合い、隙を見て攻撃する。しかしシルフェードが思うように吹き飛ばせずに毎回終わる。
「今度はお前が吹き飛ばされる番だぜ!」
アクトは打ち合いの中、体をひねり逆にシルフェードの体を吹き飛ばす。壁にぶつかる事はなかったが、攻撃力が何故かアクトの方が高くなっている。
「どういう、事ですか?」
「手の内を明かすわけないだろ?」
シルフェードが再び地面を蹴るが、それより速くアクトが攻撃を放つ。
「もうお前じゃ俺に追いつけない。」
何度も槍が体を貫き、その度に癒す。しかし回復魔法は魔力が尽きれば使えない。それに対しアクトはまるで魔力が尽きる様子がない。
「まさか……」
「やっと気付いたか?」
アクトはもう何度目か分からない一撃をシルフェードに対し叩き込む。シルフェードの魔力が尽きた瞬間がアクトの勝利。その為に何度も攻撃を仕掛けている。
「――ッ!」
「だけどここでは口にはさせねえぜ?ジンに解析されちゃ意味ねえからな。」
シルフェードの首には槍が刺さっている。
「もう終わりだぜ。これ以上酷くさせたくなきゃ降参するんだな。」
シルフェードは親指を下に落とす。
「おいおい。随分と下品な事を貴族の娘さんがするもんだね。」
微かにシルフェードが笑う。
「何で笑って――
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sideシルフェード・フォン・ファルクラム
「もうやめるか?」
お父様が私にそう問いかける。
「まさか、そんな冗談を言うなんてお父様らしくありませんね。」
「……少し不思議なだけだ。」
少し手を止める。
「お前が10歳の頃出会ったジン・アルカッセルという男。お前は無二の親友であると言ったな。」
「まあ、そうですね。」
これは偽りのない真実だ。ジン・アルカッセルという人間を一番知っている友人は私だし、シルフェード・フォン・ファルクラムという人間を一番知っている友人もジンさんだ。
「しかしお前はその男を絶対に倒そうとする。越えようとする。代償とはあまりにも不釣り合いだ。それともその男に託しているのか。」
「……そういうものじゃないんですよ。」
私が彼に勝ちたいという思いはそんな小難しいものじゃない。
「彼は有り得ない程の努力をしているんです。何よりも武人としてあそこまで真摯な人間はそうそういません。」
だからこそ。だからこそだ。
「私はそれに対し、取れる手を一つでも残しておくというのは失礼だと。全力をもって戦いたかっただけなんです。」
「……ならその覚悟を乗せろ。」
お父様の背後に蒼き光が一瞬見える。
「お前が全ての力を託すというのなら、絶対にこれは答えてくれる。」
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いつから私が切り札を既に使っていると錯覚していた!
「なっ!」
アクトの足元が蒼く光り、アクトの体を喰らう。
「がッ!あがッ!ゲホッ!……貴方の能力は視界に入った人間を弱体化させ続けるもの。そしてそのエネルギーを魔力や闘気に変換させている。」
首の傷を直しつつ、そう言う。
「しかも神帝の白眼は千里を見通す力を持つのですから、私を視界から外すなど有り得ない。」
私は右手の剣を強く握る。いつもより神帝の白眼を乱用できる上、私の弱体化もはかれる。あの黒い眼はそういう力を持っている。
「ですが、その慢心する癖は直した方が良かったでしょう。油断したから、予知の魔眼を発動しなかったから、私の攻撃を喰らった。私を倒すのを躊躇ったから、手痛い反撃を喰らった。」
私はアクトさんへと指を指した。
「こんな風にそこから来ると忠告しませんでした?」
アクトさんを噛んでいるのは蒼き光。蛇?蜥蜴?否。
「ファルクラム家が受け継ぐ最優の力。」
徐々に形を成していく。ここまで来れば分からないなどとは言わせはしない。
「その名は青竜!チェックメイトです!」
私は剣をアクトさんへと向けた。




