2.武闘祭へと
「というわけで、武闘祭まではお休みとしましょう。」
シルフェはそう言う。お休みというのは実技授業。つまり迷宮攻略だ。先程、一学期の課題である第10階層をクリアした。故に一旦お休みという形だ。
「どうせ団体で出ようとは考えていないでしょう?」
「あたりめえだろうがよい。個性が強過ぎて連携なんざ取れねえよ。」
シルフェの言葉にアクトが同調する。
「全員が個人戦で強くなっている事を期待してますよ。」
「決勝戦で会えるといいな。」
「ま、一人は絶対落ちるけどな。」
そりゃ仕方ない。俺もできれば二人ともと戦いたかったが。
「それではまた武闘祭の日で。」
「おうよ。絶対俺が一番になってやるよ!」
シルフェがそう言い、アクトがそう返す。
「それじゃ、また会おうぜ。」
俺はそう言い、ここ。つまり体育館の外で先に出る。
『あれが契約者の仲間か。』
脳内でそんな声が響く。ついこの間、悪魔を倒した翌日に召喚した悪魔。ミシャンドラの声だ。
「ライバルみたいなもんだよ。」
『さて、これから何をするのだ?』
「お前の力は基本使うつもりはねえからな。単純に実力を上げるためにやれる事をやるんだよ。」
というか使えない。七十二柱の悪魔であるミシャンドラの力は俺が扱えるほどヤワではない。俺が契約した理由はそれとはまた別。悪魔に体から欲望と感情を抜き取ってもらった事だ。原理はよく分からないが、睡眠欲も食欲も何も感じ無くなっている。俺の体内の魔力と闘気をエネルギーに変換しているらしい。そして感情も捨てた。戦闘に感情は必要ないからな。
『しかし契約者。まだどちらも取っただけだ。喰らってはいない。』
「……どういう事だ?というかナチュラルに心を読むな。」
『どうせいつか契約者に返す時が来るからな。』
「来ねえよ。来たとしてもそれはお前に得がねえだろ。」
悪魔は損得で動く生物だ。損にしかならない事は決してやらない。
『否、ここに存在できるだけで我輩は得をしている。わざわざ肉体ごと呼んでくれたからな。』
「そうかい。」
『七十二柱。序列第七十三位。それこそが我輩だ。いわゆる破壊神(創造主)の失敗作である番外個体。本来呼ぶ事すらも叶わぬ。』
簡単だったらもっと早く呼んでる。俺は声を無視して修行を始める。戦源の練習及び、剣術の練習。まだ腐る程改善点がある。
『呼ぶための条件は三つ。新月であること。明確な意思を持って悪魔を殺した事があること。最後に空間を歪める何かが使えること。これぐらいなら揃えた奴はまだいる。この上で我輩のみを召喚する可能性を生み出すのにはもう一つ条件がある。これを満たしたのは契約者が初めてだ。』
体のどの部位であっても確実に、正確に、強く、鋭く、全くズレの無いように。
『美徳系のスキルを持っているという事だ。本来美徳系スキルを持つ人間は悪魔を呼び出せない。しかしこの我輩以外はな。』
全てが完璧で、やっと勝てる。
『故にこの数少ない機会を失うわけにはいかなかったのだ。……もう少し人の話を聞く気はないのか?』
「お前悪魔だろ。」
『クハッ!まあそうだな。』
これから毎日ずっと鍛錬ができる。武闘祭まであと約一ヶ月。休みは必要ない。体の疲労は回復魔法でなんとかできる。敗北など有り得てはならない。多分もう負けても悔しいとすら感じないだろう。しかし俺は勝たなくてはならない。俺ほど恵まれた環境の奴なんてそういないだろう。であるのに、同世代に負けるのは俺の怠慢だ。怠慢は、怠惰は最も忌むべき行為だ。少なくとも俺にそれは許されてはいない。




