1.最強
第2章開幕!誰も待ってないだろうけどあえて言わせてもらおう!
待 た せ た な
この世界。アグレイシアにおいて、最強と言えば必ず一人の名が上がる。グレゼリオン王国が誇る最強の厄災。
王国騎士団総団長。《人類最強》の名を冠する事を唯一許された男。それがディザスト・フォン・テンペストという男である。
ならば次は?最強は満場一致で決まっている。ならば二番手は?ここに来ると回答が分かれる。
ある人は、オルゼイ帝国の七大騎士の若きリーダーである『《魔王》シンヤ・カンザキ』という。
またある人は、平民でありながら全ての魔導を極めた世界最強の魔法使い『《賢神》オーディン・ウァクラート』という。
ある人は、獣王国クライの国王にして獣人の中でも最強の戦闘能力を持つ『《獣王》アルゴート・フォン・クライ』という。
だがその世界トップの戦士達の中で、一際異彩を放つ存在がいる。
曰く、産まれた時には既にレベル10だったと。
曰く、全ての神に祝福されたような才能があると。
曰く、たった10歳で危険度10の魔物を屠ったと。
曰く――――――――――――――――最強の一角であると。
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「エルよ!中々どうして面白いやつではないか!」
「だと思ったよ。」
グレゼリオン王国の王子であるエース・フォン・グレゼリオンと獣王国クライの王女であるエル・フォン・クライ。その二人が会話していた。
「あいつほど人間じゃない人間など初めて見たぞ!」
会話の対象はジン・アルカッセル。
「何せ欲望を持たない!強欲の権化であるとも言われる人間がだぞ?生理的欲求以外の全てを失っている!」
君は生活で一切の楽しみがない生き方ができるか?睡眠ですら作業に過ぎず、生活のほとんどを占める鍛錬でさえ本人にとっては苦痛でしかない。
「君の『王眼』はそう見たのかい?」
「その通りよ。人間の振りを頑張ってしようとしている人間がいるのだ。あまりに滑稽で笑い死ぬかもやしれん!」
王眼。それは王家が受け継ぐ人の心を読む眼。それがジンの生き方を完璧に読み取ったのだ。
「武闘祭で我があいつを完膚なきまでに叩きのめす!そしてあいつが人間に戻るか!それとも狂った人形であり続けるか!」
自分の敗北を一切疑わないその傲慢。それは完璧な能力と伴う敗北を知らぬ故の傲慢さ。
「楽しみにしているぞ!我が臣となるか!それとも全てを得るために全てを失うか!」
未来の王には二つの未来が見えている。
人間に戻り、国にとっても自分にとっても信頼できる臣民となるか。
そのまま狂った人形としてありとあらゆる手を使い、国をも揺るがす犯罪者になってでも強くなろうとする姿。
後者なら容赦なく断罪すればいい。しかし前者であるならば、それこそ彼の人生を色付けるだろう。永遠の好敵手として。
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グレゼリオン学園の武闘祭。それはこの学園の戦闘学科において最大の娯楽。生徒には学期ごとにしなければならない課題がいくつもある。迷宮の一定階層到達、学期末試験が合格点に足りている、教師が実践技術が十分と判断しているか、一部分に能力が偏っていないか。そんな数々の試練の中ある数少ない娯楽である。
武闘祭において部活部門は初日から三日目、個人部門は四日目から五日目となる。つまり五日間実施される。
部活部門は個人戦、武術戦、魔法戦、迷宮戦、団体戦の五つ。部活動内で各分野3名ずつ選出することができる。部活動の宣伝が主な理由であり、そのためこちらはPRに近いものだ。
個人部門は個人戦、迷宮戦 、団体戦の三つ。こちらは誰でも出れるが、その分競争率が異常に高い。一年生がまず行い、優勝者が次に行う二年生の優勝者と戦う。そして最後に三年生の優勝者と先程の勝者が戦う。このようにして学園における最強を決めるのだ。
「負けるわけにはいかない。」
俺は弱い。アクトのような特別な眼などない。シルフェのような天性のセンスはない。だからその足りないものを努力で補う。
「シンウォト・アルスト・ジルス・デヴィ・セントラル・チトタ『七十二柱の降臨』」
詠唱と魔法陣、更に魔石を使い確実に悪魔を召喚する。無論、悪魔と契約するため。ランダムで一柱の悪魔が呼び出される。魔法陣の上に竜の姿が形成される。漆黒の鱗に紅き眼。その放出する魔力は最上位悪魔である七十二柱に相応しい力を感じる。
『……我輩を呼び出したのは貴様か。』
「ああ。」
動揺はしない。悪魔は契約を尊重する。更に言えば嘘をつけない。
『何を要求する。』
「契約だ。」
悪魔を呼び出してから行えることはいくつかある。霊体で呼び出せば体に宿すこともできるし、一つだけ願いを叶えてもらえたりと。しかし俺が言った契約は、一生を俺と共に戦うということの契約だ。
『ほう。この我輩と契約したいと?』
「ああ。お前と契約したいんだ。ミシャンドラよ。」
ランダムとは言うが、少し制御を利かせればとある悪魔に限定して呼び出せる。
『何を捧げる。』
「感情と欲望を。」
『ふむ……まあ久しい召喚者だ応じてやろう。』
その一言を最後に悪魔は俺の体に宿る。これで、まだ強くなれる。




