29.まだ遠き最強へ
まあ、そんなこんなで無事任務も終了。シルフェの回復魔法によって俺の傷も完治。ついでにレベルアップもしてと、かなり都合のいい展開となった。
そうして今日も俺は鍛錬をする。やはり戦源の操作が下手くそだから俺の体にダメージがくるのだ。魔力量が、闘気量が足りないから腕輪を外す必要が生まれたのだ。剣術のレベルが足りないから、他の手を使う必要ができたのだ。魔法をうまく扱えないから・・・まあ兎も角改善点は腐るほどある。
「やっぱり時間が足りねえよな。」
俺は本を読みながらそう呟く。この学園の図書館は蔵書量が半端ない。一般人にも限定的に解放されており、王都最大、王国最大の図書館なのだ。その中でとある本を探しているのだが、まあ見つからない。あり過ぎて見つからない。
「この本を探しているのか?」
そう思っていると一人の男が話しかけてくる。その本の題名を確認し、間違いなく俺の探している本だと確信する。
「ああ、そうだ。すまんが読ませてもらえないか?そんなに時間はかけねえから。」
「いや、待て。少し貴様と話したい事があってな。」
なんだろう。こいつと話していると少しイラついてくる。なんとなく嫌なのだ。
「我が名はエース・フォン・グレゼリオン。グレゼリオン王国が第一王子である。貴様のことはエルから聞いているぞ。」
「エルと知り合いか。」
「あいつは我の婚約者であるからな。」
貴族っていうのは、やっぱそういうのがいるのか。ということはエルも貴族なのか?
「で、その王子様が何の用だよ。」
「いや、珍妙なものがいるとエルに聞いてな。この我でも初めて見たぞ。本を読みながら無意識に至れる人間など見た事はない。」
さっきから思考を先読みされているようでならないな。
「時間が無駄だろ。一つの一つの事しかできねえのは。」
何度もやっているうちに勝手に『神域の瞑想』というスキルができただけだ。効果は常に闘気最大量が増加し続けるというだけだが。
「面白い。まるで人形が人になろうとしているようだ。」
「俺が人形だと?」
「その通りであろう。強くなるというたった一つの行為しか貴様はできていないのだ。これさえなければ我が臣としてしても良かったが。」
……それの何が悪いというのだ。強くなるために全てを犠牲にする。足りないと断じるなら友を、親を、他人を。全てを踏み台にして『一番』になる。たった一つの簡単なプロセスだ。
「狂人に何を言っても無駄か。ならせめて言っておこう。まるで人間のように振る舞うでない。貴様はもう人ではないのだからな。」
そう言って俺に本を投げ、俺に背を向け図書館から出て行く。俺が人間じゃない?何を言っているんだあいつは。
「目当てのものは手に入ったが。」
本能的にあいつが嫌いだ。こっちに来て初めてだ。人に嫌悪を抱いたのは。
「……さっさとやるか。」
俺は本を持って学園の外に出る。その手に持つのは七十二柱の悪魔と呼ばれる書物だった。
これで第1章が終了となります。第2章はしばしお待ちを。こっからが自分の書きたいところだったんで、頑張って完結まで持っていきます!




