27.その名は
刹那。一瞬にしてそれは起こった。
「ッ!ガアッ!」
腹にその拳が貫くようにして刺さっていたのだ。俺はそのまま吹き飛んでいき、廃屋に突き刺さる。
『あまりにも脆く、遅いな。しかしやはり素体が弱いからか、いつもほどの力は出ん。』
それでまだ弱体化してんのかよ。
「……いくら精神が違うとはいえ肉体は同一。そこまで身体能力が変わるとは思えません。一体どういうカラクリなのですか?」
『考えてみるがよい、人間よ!』
ギンッ!という音が響く。悪魔の拳をシルフェが剣で防いだのだ。
『ほう。防ぐか。』
「拳と当たった感触じゃありませんよ。本当に。」
俺も瓦礫を吹き飛ばし、直ぐに悪魔へと近付く。
「ラッ!」
首へと木刀を振るうが、木刀を掴まれる。
『甘いなあ人間よ!』
「はっ!たかが悪魔が偉そうに言うな!」
俺は右手の腕輪を見る。これさえ外せればいいのだが、無駄に頑丈にできてるから手じゃないと外せないんだよな。これがついてるといつもの百倍ぐらい魔力使うんだよな。
「シルフェ!隙を作ってくれ!」
「分かりましたよ!『神の祝福』」
シルフェが金色の魔力に包まれる。シルフェの手には砕けた魔石が存在する。第八階位強化魔法。本来なら足りない魔力を魔石に込められた魔力で補う。
『おっと危ない。』
そう言いながら木刀から手を離し、悪魔が距離を取る。その隙に俺も後ろに下がると同時にシルフェが切り込んだ。
「やっぱり動き方が異常だな。」
悪魔は時々加速したり、防ぐ時と避ける時がある。一瞬だけ強くなるタイミングが定期的に来るのだ。恐らくはそういう系統の能力。その強化が働いていない時が狙い目だな。
「シルフェ!」
その掛け声と同時に地面を蹴る。闘気と魔力を混ぜ込み、戦源を体内で作り込む。本来魔力と闘気は反発し合う。それを上手い感じに混ぜ込むのが戦源。それによって魔力的攻撃と物理的攻撃を同時に強化できる。
「喰らえ!」
俺は上段から悪魔に剣を振るう。それと同時にシルフェが後ろに下がる。
『ぐっ!さっきとはまるで力が!』
魔力の抑圧が解除され、闘気の流れも活性化される。いつもならセーブして使っていたがその必要もない。
「はっ!」
何度も素早く剣を振るう。腹部、頭部、脚部。次々と体の至る部分を流れるように攻撃する。
『しかし、まだ私には届かん!』
木刀をタイミングを合わせて弾かれる、しかし問題ない。弾かれる勢いを活かして回転しながら次の一撃を放つ。
『この程度効かぬわっ!』
しかしダメージが入らない。強化中か。俺は素早く距離を取る。
『力を温存しておこうと思ったがもうよい!フォラス様より賜りしこの『強化』の力!貴様らにはフルで使ってやろう!』
成る程。急な力の上昇は温存していたからなのか。だが、今からは常に使用すると。手の内を全部明かしてくれるな。まあやりやすいが。
「シルフェ。あの防御は破れるか?」
「微妙ですね。どちらにせよ大きなダメージは入らないでしょう。」
「なら、俺が仕留める。シルフェは補助を頼む。」
「分かりました。」
腕輪を外した俺より強い。ならば俺も切り札を切らなければなるまい。アレは強いが、体を壊す諸刃の剣だ。シルフェがいない状況じゃそもそも気軽に使う事すらできない。俺の回復魔法じゃちょっと間に合わないし。
『『死者の導き』』
闇の手が俺たちを掴もうと出てくる。
「凍れ。」
しかしその一言で全てが凍る。あの程度の魔法じゃ足止めにもならん。
「『木々の大槌』」
シルフェが大きな木の槌を魔法で生み出し、悪魔に振り落とす。
『この程度かっ!』
しかしそれを無視して突っ込んでくる。だと思ったよ。俺は木刀に戦源を集中させる。そして、強く圧縮を積み重ねる。
俺には一応流派が存在する。父曰く最強の我流系流派。たった五つの奥義しか存在しない構えも基本技もクソもない。しかしその奥義はありとあらゆる場面での使用が可能であり、最強の名に偽りはない。
「無銘流奥義――
俺は向かってくる悪魔と木刀に意識を集中させる。悪魔が異変に気付いたがもう遅い。そこは既に俺の間合いだ。剣神が使う流派を見てやるよ。
ちなみになんですが、一章は序章からどこまで主人公がどれだけ強くなったかを伝える話。なのでこれ以上の最強っぷりは当分ないと思います。




