22.王者
俺は今、学園の迷宮にいる。階層は第百階層。グレゼリオン学園卒業条件の一つ。
「ジン。帰宅部には一年生に限り、課題が存在するゥ。」
部長は静かにそう呟く。それと同時にボスへの扉を開く。
「それはたった一つだァ。」
俺以外の六人は全員戦闘態勢に入る。
「一年生の間に第百階層のボスを倒す事さァ!」
あまりにも膨大な魔力に体が吹き飛ばされそうになる。俺が視認したのは巨大な竜の姿。その世界には二種類の竜が存在する。判断材料は体内から魔石が出てくるか。少し分かりづらいかもしれないが、魔物という種族の竜と竜という種族の二つが存在するわけだ。まあこいつはもちろん前者なわけだが。
「自由にやりなァ!ただ蹂躙してやればいいぜェ!」
ミノタウルスなんて目じゃない。格が違う。勝てる勝てないじゃない。勝負にならない。それほどまでの圧倒的な差を感じた。
「あれが、火炎竜王……!」
竜系の魔物の中でも最強の竜王の一角。危険度9の文字通りの化け物。
「さーて、遊びましょっか!」
フィエン先輩が地面を抉り、その場所から消えたと俺が認識した瞬間。竜が吹き飛んだ。
「は?」
有り得ない。俺が認識できないのまでは想像できる。しかし、危険度9の魔物があんな簡単に後ろに吹き飛ぶはずがない。竜は翼を広げ、壁にぶつかる前に止まる。しかしそれに追い打ちをかけるようにオメガ先輩が走り込む。
「『砲撃展開10』『雷属性装填』『最大火力』」
それと同時にオメガ先輩の両腕が変形し、体から出る柱のようなものがオメガ先輩を固定する。それはまるで砲台のように俺は感じた。
「『決戦用対個人消滅砲台』」
そこから放たれた一撃は正に絶望そのもの。雷の属性がこもった砲撃が轟音と共に放たれる。即座に竜を飲み込み、大きな爆発が起きた。ように、俺の目は見えた。
「ブレスである程度相殺したようだね。」
シグマ先輩がそう言いながら両手拳銃を抜く。煙の中から多少傷は負っているものの、まるでものともしないと言うように竜が上空に出てくる。そして口からいくつもの炎の塊を吐き出した。数百はあるだろう。軽く温度を変えるほどの高熱の塊が何十発も放たれたのだ。
「遅いよ。」
しかしそれが着弾する事はなかった。オメガ先輩の方から銃を撃った音がした瞬間。それらは全て消えていた。
「フィエン!」
「おうよ!」
その隙を逃さぬように再びフィエン先輩が突っ込んでくる。異常な再生能力があるとは知っていたが、それと同時にーーー
「たかがなり損ないの竜如きがよく足掻くなあ!」
ーーー相当な攻撃力も保有している。フィエン先輩は足で竜を地面に落としたのだ。
「『爆発付与』」
そこで更にオル先輩がそう言う。その瞬間竜が爆ぜた。
「ああ、しもうたな。フィエン先輩ごと燃やしてもうた・・・」
絶対そんな事思ってないだろ。と思いつつ、今の魔法を解析する。今のは付与か?爆発の属性を付与したのだろうか。そんな事が可能なんだろうか。
「まーた制服がボロボロだぜ。」
竜がボロボロになっているのに対し、フィエン先輩はほぼ無傷。いや傷はできていたのかもしれないがもうない。
「どいてくれ!」
「おっと!」
巨大化したキング先輩が竜に拳を振り下ろす。そして右の翼を掴む。
「『空間切断』」
すると触っている場所を起点に翼がもげる。あれって結構高階位の魔法だと思うんだが。
「終わりだねェ。」
部長の声が響く。竜が光の結界で隔離されている。
「ま、こいつ程度にそんな高度な魔法を使う必要はないなァ。」
結界は即座に縮み、竜の叫び声と共に竜が潰れた。
「火炎竜王が、あんな赤子みたいに・・・」
まさかここまでとは思わなかった。もはや学生の域ではない。そこらの教師になら戦闘能力で既に超えている。
「これが一つの目標点だねェ。これぐらいを先ずは目指しなァ。ここは最低ラインだからねェ。」
部長のそんな言葉が俺を余計に身震いさせた。もちろん、怖気付いているはずがない。




