3.それぞれの思い
物凄く短いですが、ご容赦ください。
俺の名はグラド・ヴィオーガー。剣術の頂点たる剣神の一人である。しかしこれから話す事には関係がない。俺は5年ほど前に赤子を拾った。森の中で捨てられていた赤子だ。鑑定で調べてみると、その赤子にはジンという名前がステータスに刻まれていた。性はヴィオーガーではなく、戦う者を意味するアルカッセルをつけた。
そしてとある日、ジンが剣を教えてほしいといった。確かに俺は剣神と呼ばれる域にまで至った剣の達人だ。しかしジンにはこの道に進んで欲しくなかった。何故ならジンにはお世辞にも才能があるような人間ではなかったからだ。剣神になったからこそ分かる。俺は天才だった。しかしそこから何十年もの修練を続け剣神になった。普通の人間だったら俺の何倍かかっていたか。だからこそ平凡なジンにはまた別の道を進んで欲しかった。だが正面切って断るのもアレだ。だからこそ一つの難題を課すことにした。
剣術の修行で一番習得に時間がかかる。闘気を教えた。俺ですら知覚に三日間かかり、操作には更に一ヶ月かかった。これでも早い方だ。人によっては一年かかるのも当たり前。俺の予想では途中で投げ出すと思っていた。いくらなんでもガキじゃ、そこまでじっとしていられないと思っていた。だがジンは俺の予想を大きく裏切った。
なんと一ヶ月で闘気を知覚するに至り、操作は三ヶ月ほどで会得したのだ。何が恐ろしいと言われるならば、その才能の無さ。上昇率も、元々の闘気量も平凡。だというのに取得スピードは才あるものと同等。つまりそれは、ジンの努力の密度にあった。
普通、一時間集中できていれば良い方。しかしジンはその更に上を行き続けた。頭を空にするというのは、やってみればその難しさに気付く。それを一日五時間はもはや狂気の域に達していると言わざるをえない。果たして最低限の行動をする時以外、ずっと心を無にし集中し続けるなど普通はできるだろうか?そこで俺が気付いたのが、ジンの努力の才能だ。人間は逃げ道があると直ぐに逃げてしまう。少しでも嫌と思うと、闘気増加など集中が乱れうまくいかない。つまり努力に対し、とてつもない貪欲さがあるということだ。屈する事を悪徳だと捉えている節もある。
この世界は努力が簡単に報われる。努力を『スキル』が汲み取り、足りない部分を『レベル』が補う。努力が確実に実る世界。だからこそ、ジンは大成するだろう。幼い頃からこの底知れぬ恐ろしさ。大人になったらもはや俺すらも……鍛錬を積まねばな。少なくともあいつが成人するまでには負けるわけにはいかねえ。
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……俺にとって努力とはなんだと問われた事がある。俺はそれに対し、俺ができる唯一の事と答えた。つまり努力とは凡人である俺が、天才を妬み、恨み、欲した結果手に入れた力だ。天才はこれを持たない。天才が行う努力というのは当たり前の範疇に過ぎない。当たり前の量に過ぎないのだ。
自分を殺したくなるほどの修練を、俺は努力と呼ぶ。やめたくて、やめたくてやめたくてやめたくてやめたくてやめたくてやめたくてやめたくて!それでもなお狂ったように続ける。それが俺のいう努力だ。
前世は完璧を求めた。なら今世は?もちろん答えは決まっている。究極の全に究極の一で俺は勝利するのだ。
明日から、1日1話と毎日投稿の形を取っていきます。が、なんか投稿されてなかったら、ああ力尽きたんだなと思っていてください。