19.入部試験
翌日。教室での授業を終え、俺は再び帰宅部に来ていた。というか来いって言われてたんだよ。
「やあァ。よく来たねェ。と言っても、来なければ無理矢理連れてくるつもりだったんだけどォ。」
相変わらず陰陽玉みたいな、黒と白の仮面をつけている。学生服と絶望的に合わない。
「今日は部員を紹介しようかァ。」
部室の中に俺を含め、7人の人がいる。
「俺は知っての通りジョーカー・フェイスっていうんだァ。三年生にしてこの帰宅部の部長だねェ。」
さっきも言ったと思うが、部長は陰陽玉のような白と黒の仮面をつけている。髪の色は白。それはもう真っ白。多分地毛なんだろうけど。
「私はシグマ・チーティ。同じく三年生で副部長をつとめている。これからどうぞよろしくね。」
シグマ先輩は緑のマフラーを首にかけている。目と髪も緑色。顔は男とも女とも言えない中性的な顔だ。
「俺はフィエン・オウマットだ。これから一年間よろしく。」
フィエン先輩は頭にナイフが刺さっている。いや、比喩でもなんでもなく。赤黒く染まったような髪をしており、飄々とした感じがある。
「俺は二年のオメガ。」
そう簡潔に自己紹介するのがオメガ先輩。機械人間という種族らしく、所々に機械みたいなパーツがある。
「うちはオルっちゅうんや。どうぞよしなに。」
そう言う狐の尻尾と耳を持つ、狐の獣人がオル先輩。ちなみにここは異世界だから言語違うし、珍しい方言を京都弁にしてるだけだ。
「俺はキング!見ての通り巨人族だがよろしく頼む!」
そう大声で言うのがキング先輩。言っての通り巨人族で、三メートル近い身長がある。
「それじゃあ最後はジンだねェ。」
「あ、そうか。ジン・アルカッセルだ。これからよろしく頼む。」
テンプレとも言えるような簡単な挨拶をする。
「というか一年は俺しかいないのか?」
「ハハハ。今年で帰宅部に入ってくれて、有望そうなのは君しかいなくねェ。君は帰宅部の適性があったのさァ。」
全然嬉しくない。なんだよ帰宅部の適性って。
「それじゃあ帰宅部の入部試験始めようかァ。」
「へ?」
入部試験?おいちょっと待てそんなの聞いてないぞ。
「キング!いつものを頼むよォ。」
「あいよ!」
巨人族のキングが魔法陣を使用して魔法を発動する。魔法陣を使うという事は高難易度の魔法。
「『転移』さーて、歓迎しようか!」
そんなキング先輩の野太い声が響いた。そして直ぐに視界が光に覆われる。
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目を開けると、そこには荒野が広がっていた。草は一つもなく、地面が露出している。しかもそれが地平線まで続いている。
「ここはダンジョンだよ。私達の修行のために帰宅部がこのダンジョンを所有しているんだ。」
シグマ先輩が補足説明する。一つの部活動がダンジョン丸々一個を所有している。それがどれだけ異様な事か。小さいダンジョンでも相当な値段がするぞ。
「入部試験は単純だよォ!1分間俺達の攻撃に耐え切るだけだァ!」
その言葉と同時にそれと同時に光と闇の翼がジョーカー先輩の背中から生える。
「『魔天の騒乱』」
いくつもの光属性と闇属性の魔法が俺に向かって放たれる。光球、闇槍、光竜etcetc……全てが俺を一撃で殺しうる性能を誇っている。
「うおおおおおおお!!!??」
俺は全力で走って逃げる。狙いは荒いからちゃんと見ながらなら避けれなくはない。避けれなくはないだけだ!ちょっとマジでキツイ!
「ぬあっ!」
俺の目の前を鉄の塊が通り過ぎる。これは銃弾か?俺は弾道からその先を見るが、そこにもう人はいない。狙撃手を特定させるような事はしないか!
「逃げさせはせんぞ!」
「うおっ!」
さっきより遥かに大きく、何十メートルもの大きさのキング先輩が俺の前に立ち塞がる。巨人族って体の大きさも変えれんのかよ。そんな大きい体じゃ、俺を狙えないんじゃないかと思うがそんな事はない。大きくなった分、攻撃範囲が広い。しかもその動きは遅くならず、むしろ俺より遥かに速い。
「ぬうっ!」
そんな声と共に放たれた一撃は俺がギリギリ認識出来るような速度。だからこそ逃走は不可。ならば取れる選択肢は一つ。
「『粘質の鎧』」
俺は球体の水を纏う。ただの水だと思うなかれ。それはスライムの肉体を模倣した鎧。といっても鎧の形状なんてしてねえけど。ともかく物凄い弾力を持っている。そしてスライムの体は斬撃には弱いが、打撃ではダメージを受けない特性を持つ。俺の体もといスライムはその巨大な豪腕からの攻撃を受けた瞬間大きく歪み、そして弾かれたように拳の外に出る。
「解除!」
俺は即座に魔法を解除する。あれも俺のオリジナルなんだが、使用している途中は動けないという欠点がある。狙撃手もいるみたいだし、ここで立ち止まるのは危険だ。
「というかあの魔法ガンガン当たってるけど痛くねえんだな。」
無差別に放たれたジョーカー先輩の魔法は、もちろん俺より大きなキング先輩にも物凄く当たっているが、全く意に介さず行動している。俺から攻撃しても普通なら傷一つつかねえだろうな。
「おいおい。男なら男らしく突っ込んで来いよ。」
そう言いながら肩を組まれる。あまりにも自然にそして、意識の外側からやってきた。その頭にはナイフが刺さっている。
「フィエン先輩か!」
「お、もう名前を覚えてくれたのか。」
肩を組まれている状態だと身動きが取れない。物凄く強い力で俺を抑え付けているのだ。しかしそれはフィエン先輩の頭が弾け飛ぶことにより解除される。
「え?」
ジョーカー先輩の魔法に当たって頭がなくなったのだ。腕の力が弱くなったのをいいことに離れる。その後にもフィエン先輩にも何発も命中し、体がボロボロになる。
「はあ。フィエン先輩もお戯れが過ぎるな。」
俺の目の前に現れたのはオメガ先輩。機械人間の体から無数の光線が放たれる。俺も直ぐに避けようとするが、その時に体を掴まれる。
「そんな事を言うなよオメガ。人生ってのは楽しんだもん勝ちだぜ?」
そこには制服がボロボロになったフィエン先輩がいた。さっき頭が吹き飛び、体も無数の穴ができていたフィエン先輩が何故か立っている。幻覚魔法?いやそれなら制服に穴が空いている理由にはならない。ならば超再生能力か?
「うがっ!」
フィエン先輩ごと光線が体を貫く。
「……フィエン先輩。これは確か新一年生の天狗になった鼻を折るためと聞きましたけど。」
「ああ、そうだな。」
俺はその場に倒れる。
「それなら一人で十分じゃありませんか?まだ30秒もたってませんし、正直言って一人で十分かと思いますが。」
「分かってねえなあオメガ。一人で倒しちゃあ一人の凄さしか伝わらないだろ?それにこれは良いコミュニケーションみたいなもんだ。」
意識が薄れていく。
「まあ、動きは良かったですが他の部員に比べるとあまりにも見劣りしますね。ジョーカー先輩の人選は間違ってたんじゃないんですか?」
「ははは。俺は結構好きだがな。こういう愚直な奴は。」
剣を振るう。
「うん?」
フィエン先輩の首を跳ね飛ばす。やはり防御力が低い。痛覚に対する耐性も、再生力もあるがそれが絶対的に少ない。
「なっ!」
俺の体には風穴が空いている。俺の回復魔法で治る次元じゃない。
「『偽身体強化』『偽魔法耐性』『偽物理耐性』」
俺は立ち上がる。そして木刀を構える。
「チッ!『重力増加』」
体が重くなる。しかしこれの動きは止まらない。止まるはずがない。今が一番楽しいのだから。俺は口元を歪める。
「ッ!?」
俺は即座に飛び込み、オメガ先輩へ木刀を振るうその瞬間。景色が切り替わる。
「1分終了。よく耐えたねェ。」
俺は木刀をピタリと止める。オメガ先輩も喉元に突きつけている銃のトリガーから手を離す。
「物騒なもんはしまいなァ。今日はここまでにしとこうゥ。オル、ジンに回復魔法を――
そんな言葉の途中に意識を失う。




