18.KITAKU部
その後魔法剣術部や特殊部も回ったが、あまりしっくりはこなかった。ちなみに特殊部というのはアクトのような、特殊能力を発生及び成長させる部活らしい。基本的に剣術だけを使う俺にとってあまり性に合わなかった。
「やっぱり部活は無理かあ?」
まあ元々ああいう所には合わなかったんだが、部活動に入ると色々と迷宮攻略で便利な点があるし。
「やあ!そこの君ィ!」
「へあっ!」
目の前にいきなり人の顔が出てくる。白と黒が入り混じった仮面をつけており、これだけでも不審者と言えるだろう。しかも空中浮遊しながら上から覗き込むように。
「俺の名前はジョーカー・フェイス!ただのしがない帰宅部部長だァ!」
「ええ!?」
なんだこいつ!
「用件というのは他でもない!君に我が帰宅部に――
「うおらっ!!!」
唐突な出来事、そして意味のわからない自己紹介。そんな脳内で処理し切れないほどの情報が駆け巡り、俺は気付けば体が動いていた。上から覗き込むように、つまり体が逆さにある以上一番狙いやすいのは頭。俺の脳は即座に危険物質を排除するために行動した。
「あべしっ!」
俺の一撃はクリーンヒット。相手はそのまま4、5メートル吹き飛んでいった。
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「いやァ。まさか初対面で殴られるとは思わなかったよォ。」
平然ととした顔で俺の隣を歩いているのは。ジョーカー・フェイス。三年生だから先輩って事になる。
「誰でもびっくりするだろ。」
「いやァ。やりたかったんだよねェ。」
なんか独特な話し方をするなあ。ちなみに俺は今帰宅部に連行されている。殴ったお詫びって事で。
「というか帰宅部ってなんだよ?普通帰宅部って部活動入ってない人の事を指すはずだと思うが。」
「うちの帰宅部は普通じゃないのさァ。事実うち以外のちゃんとした帰宅部は見た事がないねェ。」
そりゃな。帰宅部を作りたいって言っただけで「は?」って言われると思う。
「部活内容はいたってシンプル。帰宅の洗練さァ。」
「帰宅の?」
「そう。」と言いながらジョーカー先輩は頷く。
「例え迷宮の中であろうと、例え戦争中であっても安全に絶対帰宅するゥ。そういう部活さァ。」
「それ普通なら必須スキルじゃないか?」
安全に帰宅する事ができなきゃ冒険者なんてできやしない。だからこそ必須技能なのだ。
「いーやァ。俺たちの部活は帰宅の美しさも兼ねるんだァ。どれだけ早く、安全に絶対帰宅できるか。それだけが俺たちが至上としているものなんだァ。」
「……やっぱよく分からん。」
つまりは変態集団って事でいいんだろうか。
「さてェ、ここが帰宅部の部室だなァ。」
そこにはマンホールがあった。文字通りマンホール。そこをジョーカー先輩がずらして開ける。
「ついて来なァ。」
「あ、はい。」
俺は言われるがままにマンホールの中に入る。中にあったのは下水道、ではなくそこそこ広い部屋。
「ここが我が帰宅部の部室。色々と説明をしようかァ。」
「え、ええ。」
「ここには個性豊かな部員が揃っててなァ。ま、全員気が良い奴だぜェ?」
そう言ってる間に一人の男?がこっちに来る。緑色のマフラーを付けている。多分帰宅部員か?
「おや、早速連れて来たのかジョーカー。」
「仕事だしなァ。」
そう言って気怠げにジョーカー先輩はその人とすれ違い、欠伸をする。
「それじゃあ折角だしお前が説明してくれェ。俺は部活動をしてるからなァ。」
「はいはい。わかりましたよ。」
そう言って仕方なさげにこっちを見る。
「やあやあ。私はシグマ・チーティ。好きに呼んでくれ。」
そう言いながら握手をする。この人中性的な顔立ちをしているから分からんけど、男性か女性かどっちなんだろうか。
「ここは文字通り帰宅部。帰宅の洗練を積む場だ。そっちの扉は迷宮と繋がっている。」
そう言ってシグマ先輩が一つの扉を指す。ああ、だから地下に部室があるのね。
「ここには全員で6人の部員がいて、君が入ってくれたら記念すべき7人目だ。」
思ったより数は少ない。ああいや、名前的にも場所的にも人が集まりにくいのは分かるが。
「少ないからって舐めてもらっちゃ困るよ?この学校には三大部活動というのが存在するのは知ってるかい?」
「三大部活動?」
「ま、新入生は知らないか。」
そんなんあるなんて知らなかったぞ。というか普通の学校にそんな三大部活動とかないだろ。
「一つは剣術部。剣術は短剣から長剣まであって使いやすいだけじゃなくて、護身用にも使える。まあ当然だね。」
「ええ。」
「二つ目は特殊部。やっぱり人っていうのは特別な力に憧れるもんだし、それに最低でも魔眼は手に入るから人が絶えない。」
特殊部って魔眼もらえんの!?マジかよ特殊部にしようかな。
「そして最後にここ。帰宅部だよ。」
「え?」
「まあ、そういう反応だよね。だけど帰宅部は十年前にできて以来、夏と冬に行われる武闘祭で優勝した事しかないんだ。」
武闘祭?
「生徒会のメンバーは運営係だから当日はいないんだけどね。それを抜きにしても最強級の力を持つ部活と言える。」
「そもそも武闘祭ってどんなもんなんだ?」
「ああ、まずそこからか。」
少しシグマ先輩が部屋の端に移動して、一枚のポスター持ってくる。
「毎年夏と冬に開かれる個人部門と部活部門に分かれてやる大会。個人部門は個人戦、団体戦、迷宮戦の三つに分かれる。だけど部活部門は個人戦、武術戦、魔法戦、迷宮戦、団体戦の五つだね。しかし帰宅部は誕生してから一度たりとて、部活部門で一位を逃したことがない。」
「マジかよ。」
「マジだよ。ああ、ちなみに迷宮戦ってのはパーティを作って迷宮でどれだけ早く指定階層まで行って帰ってくるまでの勝負。いわば団体徒競走だね。迷宮部とかもここに負けてるだよ。」
ここ帰宅部じゃねえ。KITAKU部だ。
「個人部門と部活部門で両方ともやるなら個人戦ってつまらなくないか?団体戦とか迷宮戦は部活限定と自由に組めるんじゃかなり違ってくると思うけど。」
「良い質問だね。部活部門の個人戦は部活動のPRの場でもあるんだよ。そこがどんな部活が教えるためのね。グレゼリオン学園の大会は一般公開されてるんだ。」
「そうなのか……」
まあ個人部門はガチ勝負。部活部門は演武に近いのか。
「さて、それでどうする。帰宅部に入る?」
「え、いやちょっと待って。」
頭イかれたような人が部長な割には、まあかなり良い環境と言えよう。よくわからないけど強くなれそうな気がする。帰宅部って名前でさえなければ即決なんだけどなあ。
「一つ質問して良いか?」
「いいよ。」
「ここに入れば俺は強くなれるのか?」
ま、結局はここだ。強くなれるかなれないか。必要な経験を得られる場所にあるか。
「それは約束しよう。この部活動は最強の帰宅部員を生み出す場。私達が君を強くする事なんて造作もない。」
「なら入ろう。疑う余地などない。」
それは実績が証明している。流石にここで嘘をつくなんて事はないだろうしな。
「いやあ、思ったり判断が早いね。もっと時間をかけて交渉をするつもりだったんだけど。」
「何か問題が?」
「いや、男気があっていいね。それじゃあ我らが帰宅部は君を歓迎するよ。」
そう言って再び出された手を俺は握った。
ちなみに白と黒が入り混じった仮面とは陰陽を表す太極図の事を指します。
この話の後に『陰陽玉みたい』という表現をしますが、それは彼が東方は知っているがその元となったものを知らないためです。




