15.学校のダンジョン
体調管理は得意なつもりだったんだが。
「頭痛いな。」
結局部活動を見に行く気にもなれず、ずっと魔法とか剣術の練習をしていた。いつもよりちょっとやり過ぎたからか、体は少し怠い。あいつのことを思い出しちまったからだろう。
「そういやあいつもこの世界に来てんのか?」
よくよく考えてみたら、俺はなぜ異世界転移したんだ?あいつなら分かる。あいつは見るからに普通ではなかった。しかし俺は歴史に名を残す人間でもなく、世界の成功者に比べたら一般人と呼べる部類に入るはず。
「なぜ俺が……」
頭がもやもやするだけで全くハマらない。多分考えても出てこないだろう。こういうのを解き明かすのは天才の領分だ。俺の考えることではない。
「行くか、体育館。」
もうあいつらはいるだろう。ちょっと起きるのが遅かったしな。
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案の定シルフェ達は先にいた。というか生徒はもうほとんどいない。寝坊したからな。
「あ、やっと来たんですね。ジンさんが遅れるなんて珍しい。」
「すまんな。寝過ごした。」
「そんじゃ、さっさと行こうぜ!もうみんな行ってるんだしよ!」
アクトがそう急かしていると、馬の頭をもつ人間。もといベルゴ先生がいきなり現れた。
「おせえよジン。俺様が引率についてやんだから、俺様をあまり疲れさせるんじゃねえよ。」
「教師にあるまじき発言だな。」
「いいんだよ。俺様は教師の中でも優秀な部類だからな。」
「自分で言うのかよ。」
といっても実際そうなんだろうな。昨日の試合もあまり教師間の中ではよくないことらしいし。
「最初に必要事項を言っておくぜ。一回しか言わないからよく聞きな。まず教師からの許可がなきゃダンジョンには入っちゃいけねえ。」
「おう。」
アクトが返事するとすぐに次の説明に入る。
「二つ目に今学期の攻略ノルマだ。十階層のボスを倒すことだ。三学期制だから、七月までに倒すってわけだ。授業中じゃなきゃ倒してもクリアにならねえからな。気をつけろ。」
十階層か。ここの迷宮の難易度は知らないが、流石にクリア不可能ってのはないだろ。
「それじゃあ他に質問はあるか?」
「なら馬先生!」
「馬じゃないベルゴだ。」
「どうやってその喉でしゃべってんの?」
「もうしゃべんなお前。」
ベルゴ先生はため息をはいて、ため息はいてんのかそれ。馬の頭じゃよくわからん。
「まあアクトがわかってなくてもそこ二人なら大丈夫だろ。んで、早速ダンジョンに行くか?」
「もちろん!」
「返事だけは立派だな。」
アクトはいつもテンションだけなら一番だしな。それと人と交友関係を築くのが得意だ。
「それじゃあ行くぞ。迷宮はここの地下、というかこの学校の地下にダンジョンはある。」
体育館の入り口とは真反対。そこに沢山の人がいる。恐らく一人残らず生徒だろう。しかしこの感じは、部活の勧誘か?
「魔法研究部、剣術部、槍術部、迷宮部、暗殺部。色々あるなジン。」
「暗殺の技術とか何に使うんだよ。」
「色々あるじゃねえの。例えば足音とか気配を消したりだとか、人の急所について知れたりだとか。戦闘においても役に立つ部分が多いんだろ。」
だけどそれは俺の性に合わんな。急所なら現代科学から得た正確な知識がある。それにそんな暗殺紛いの事をする必要もねえ。
「まあ今回は部活動を探しに来たわけではありませんし、先を急ぎましょう。」
「その通りだ。おい!勧誘やるなら他所でやれ!」
そう言って馬先生が怒鳴ると、生徒はゆっくり離れていく。
「よし。いくぞガキども。」
「じゃあよろしく頼むぜ馬先生!」
「俺様に喧嘩売ってんのかテメエ。」
みんなはそういう感じで迷宮に入る。1階層はヴェルザードの迷宮とは違い、スタンダードな岩の壁と天井。しかし邪魔な壁はくり抜かれ、地平線まで平坦な地形が広がっている。
「ここでも一応魔物が出てくる。だがここに人を集めると、迷宮が使いづらくなってな。そのせいで壁をくり抜いてんだ。」
そうなのか。迷宮の壁ってそんな簡単に壊れるようなものじゃなかった気がするが、出来る人はできるのだろう。
「それじゃあこのまま第2階層だ。」
この迷宮は階段自体はそこまで大きくないのだが、いくつもあるおかげで人が分散している。その中で最も近い階段で降りる。
「今度こそちゃんとした迷宮だな。」
岩の壁の中進む。すると直ぐにゴブリンが出てきた。
「ジンさん。」
「おうよ。」
即座に氷弾が放たれる。高速弾は便利で威力もあるが、あれは欠陥がある。音が鳴るから脅しにはなるが、威力としてはちょっと強力な銃弾ぐらいしかない。
「そんじゃ、俺様は適当に見てるから自由にやりな。」
そういってベルゴ先生の姿が消える。ステルス能力まで完備してんのか。
「それじゃあとりあえず第三階層を目指しましょうか。」
シルフェの言葉と共に俺は神経を研ぎ澄ました。
ついに新年号……
いやなにかあるわけじゃないんですが




